閑話 弟子三号の能力
弟子三号視点
俺は半ば勢いのみで師匠の弟子になった。
師匠の弟子になって、まず良いことがあった。
それというのも、師匠が度々獲物を持ってきてくれるのだ。
何でも、魔物を喰らっていくと、体内の魔力なるものが増加するのだとか……。
修行をつける前の俺だったら、何を言ってるんだ? となるところだったが、修行である程度の魔力を感知できるようになった今なら、魔力の存在を信じられる。
と言うのも……。
「三号は魔力の扱いが上手いな……」
そう、スタークさんが呟くほど、俺の魔力への知覚能力が強いらしいのだ。
何でも、先輩であるエアストさんやシュッツさんは何週間も魔力感知に時間がかかったらしい。
そんな先輩方に比べて、俺は魔力感知の修業を始めて一週間足らずで魔力を知覚できるようになったのだ。
それを知ったとき、かなり気分の良くなった俺は先輩方を挑発してしまった。
まあ、挑発したあとはひどい目にあってしまったが……。
「スターク。あまり三号を褒めるんじゃない」
スタークさんの呟きに、師匠は言う。
「三号は確かに、魔力の扱いがかなり上手な方だろう。だが、コイツの近接戦闘ははっきり言って話にならないレベルだぞ?」
「う゛っ?!」
師匠の言葉に、俺は集中を乱してしまう。
そんな俺の様子に、スタークさんは苦笑する。
「まあ、本当に同じゴブリンかと思うほど、近接戦闘はできないよな……」
「ひ、ひどくないっすか? 自分だって、修行は真面目に取り組んでるんすよ~」
「いや、三号が真面目にやっているのは知っているし、その努力のおかげで魔力の扱いが上手い。だが、何もないところで転けるようじゃなぁ……」
「それは……」
スタークさんの言うとおり、俺は何もないところでよく転ける。
そんなだから、修行中もよくつまずいて転けたりする。
俺自身、自分が昔からドジなのは知っている。
だから、修行をつけてもらえるだけで、嬉しかった。
特に、身体を動かさない修行である魔力の感知は夢中になってやった。
そんな経緯で、俺の魔力感知能力が高くなったのだ。
スタークさんの言葉に若干へこんでいると。
「三号」
「師匠?」
「お前に近接戦闘の能力がないことは分かった」
「うっ! 俺はこれ以上修行をつけてもらえないんですか?」
「勘違いするな。近接戦闘が出来なくても集落の役に立つゴブリンにはなれるし、実際俺だって近接戦闘の能力は低いしな」
「じゃ、じゃあ」
「ああ、お前にはちょっと特別な修行をつける」
師匠の言葉に、俺は歓喜した。
弱肉強食の世界で生きる俺たちのような魔物にとって、戦闘能力がないのは致命的だ。
本来なら、俺のような戦闘能力のない個体である俺なんかは集落から追い出されるのが普通だと聞いたこともある。
そんな俺が集落のために役立つことができる。
師匠にそう言われただけで、俺は嬉しくなったのだ。
希望に満ちた俺の表情を見た師匠は苦笑する。
「お前につける修行は……」
「修行は?」
「魔法だ」
「魔法?」
俺は聞きなれない言葉にオウム返しする。
だが、スタークさんは師匠の言葉の意味を知っているようで。
「レーラー。魔法ってのは人間が使うものじゃなかったか?」
「スタークの言うとおり、魔法は人間が主に使っている。だが、高位の魔物は何かしらの固有の魔法を使っているぞ?」
「そうなのか?」
「スタークは忘れているようだが、俺の治癒能力も魔法だろう?」
「ああ、そういえばそうだったな。ってことは?」
「そう、三号には治癒魔法を覚えてもらおうかと思ってな」
スタークさんは何か納得したように頷いている。
俺は意味が分からず、師匠に尋ねる。
「治癒魔法って何ですか?」
「ん? 簡単に言えば、傷を治す魔法だ」
「ほへっ? そんなことが出来るんですか?」
「おう、魔法なら出来るんだな、これが。もちろん、習得できるかは賭けみたいなもんだ」
師匠の言葉を聞いたとき、ネガティブな思考をしてしまう俺は呟く。
「賭けって……。もし俺がその治癒魔法を覚えられなかったら……」
「バカが! やってもないのに、覚えられなかった時のことを考えるな!!」
そんな風に、師匠に怒られてしまった。
師匠は続けて言う。
「魔法ってのは信じることで発動するんだ。絶対に傷が治る。そんな風に、信じて魔力を乗せることで発動するんだ。なのに、出来なかった時のことを考えるんじゃねえ」
「う、うすっ!!」
「三号、お前は今から俺と治癒魔法の修業だ。もし、治癒魔法を覚えられたら、名前をくれてやる。スターク、良いか?」
「おう。三号が魔法を覚えたら、名前をやるよ」
「だそうだ。三号! やれるな?」
「うっす!! やります!!」
俺はこのとき、何も考えずに返事をしてしまった。
実際の修行内容を聞いてから、返事をするべきだったのだ。
なぜなら、修行方法が自傷行為を行って、それを治すという、かなり乱暴な修行方法だったからだ。
師匠の無茶な修行を聞いてから、返事をすればよかったと何度思ったことか。
俺はそんな滅茶苦茶な修行方法が嫌で、必死になって修行をした。
結果、治癒魔法を覚えることに成功した。
心が折れずに魔法を覚えきれたのは、師匠が同じ修行をしてくれていたからだ。
このとき、俺は師匠と師匠の主であるスタークさんに忠誠を誓った。
治癒魔法を覚えた日、集落で何の役にも立たなかった俺というゴブリンは、誰かを癒せるゴブリンになった。
_______________
あとがき
この話で、一章の閑話は終わりです。
次話から二章に入るわけですが、ストックがありません。
ということで、しばらく書き溜め期間に入ります。
出来るだけ早く更新を再開するつもりですが、遅ければ三か月は期間が開くと思います。
なので、もし更新が始まったら二章も読んでやるよ、って方はブクマや作品フォローをして待っていただけると嬉しいです。
これからも読者の皆様が面白いと思ってもらえるような作品を書けるよう努力しますので、よろしくお願いいたします。
本当に、ここまで読んでいただきありがとうございました!!
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