閑話 弟子たちの狩り2
弟子一号視点
現在、俺と二号はボアと対峙している。
目の前の魔物の詳しい名称は分からない。
イノシシ型の魔物だから、ボアと呼んでいるだけだ。
名前なんて気にする必要はない。
ただ、俺たちは目の前の獲物を狩るだけだ。
弟子二号は、ボアの正面で仁王立ちをする。
危険なことこの上ない行動だが、二号なら何とかしてくれるんじゃないかという気持ちにさせてくれる。
そんなことを一瞬思ったが、俺はボアの隙を狙って致命的な一撃を与えなければいけない。
「フゴッ、フゴッ」
二号が正面に立つのが気に障ったのか、ボアは頻りに鼻を鳴らす。
そして。
「フングァッ」
怒りに身を任せるように、二号へと突進を仕掛けてきた。
ボアはイノシシ型の魔物だが、ただのイノシシに比べて牙が大きく突出している。
つまりは、武器が露出している状態なわけだ。
ボアの突進とは、俺たちの命を簡単に刈り取れそうな武器をこれ見よがしに見せつけながらの攻撃なのだ。
そんな攻撃を正面から受け止めようとしている二号。
「二号ッ!」
俺が思わず、叫んでしまうのも無理はないだろう。
いくらゴブリンの中でも大柄な体躯をしているとはいえ、所詮はゴブリンなのだ。
魔力量の違いから、二号は簡単に吹き飛ばされるのものだと思ってしまった。
だが……。
「フン!! ヌァラッ!!」
声で自分に喝を入れるように覚悟を決めた二号は、突進中のボアの武器である牙をがっしりと握ることで、突進を止めようとした。
牙の鋭い個体にこんなことをしたら、手をすっぱりと切ってしまいそうなものだが、生憎と今回のボアはそこまで牙は発達していなかったようだ。
二号は吹き飛ばされないように腰をしっかりと落とし、牙を離すまいとがぁしっと握り続けている。
「い、一号!!」
二号が必死な表情で俺のことを呼ぶ。
二号の言いたいことが分かった俺は、さっそく行動に移す。
まずは、ボアの死角に入るように動く。
一号の背中に隠れるように動き、そこから魔力を足に集中させ、ボアの呼吸に合わし木の裏側へと駆けていく。
ボアから隠れるように、木の裏から木の裏へと移動を続ける。
おそらく、ボアの視界からは小さい生き物が視界の端を横切っていくのが見えているはずだ。
「二号!! もう少し耐えろ!!」
俺はボアの死角へと侵入した瞬間に、二号の名前を呼ぶ。
俺の言葉はボアにも届いているはずだ。
だが、俺たちの言葉の意味までは分からないはず。
俺はボアの死角から駆け始めた。
二号が何をするつもりだと言わんばかりの表情をしているのが見える。
まあ、細かい作戦を立てていた訳ではないから当然の反応だ。
俺は全速力で走っている状態から身体を沈めた。
そして、跳ぶ。
俺の身体はボアを跨る形で着地していた。
「フゴォォッ!!」
ボアが驚いている様子が分かる。
俺を振り払おうとボアが暴れ始める。
二号によって抑えられているから振り落とされていないが、二号の力が少しでもボアに劣っていたら、簡単に振り落とされていただろう。
「死ね!!」
俺は師匠から教わった貫手という技を使用する。
指を揃え、魔力を纏わせる。
自分の手が刃物になっている、と自分に言い聞かせる。
その思い込みの力を利用し、俺はボアの目を目掛けて貫手を放つ。
自分の手がボアの右目を抉り、目の更に奥に指を突っ込んでいく。
その瞬間、ボアの身体がビクンと震える。
俺は反対の左目にも貫手を突っ込む。
再度、ボアの身体が波打つように振るえる。
ボアの頭の奥まで両手を突っ込ませた俺は、ボアの頭の中で手が触れあうのを確認した。
ボアの身体の力が抜けるのを待つ。
二号も油断せず、ボアの様子を確認する。
「二号」
「おう」
俺たちはボアの死を確認した。
ボアの頭から手を抜く。
手には血と何かしらの肉片が大量に付着していた。
俺は手を素早く振るう。
そんな俺の行動を見ていた二号は、問いかける。
「手、気持ち悪い?」
「若干な」
「これ、運ぶ。出来る?」
「まあ、運ぶしかないか」
俺たちはその後、協力して獲物を持って集落に戻った。
集落には師匠とスタークさんがいた。
どうやら、そろそろ帰ってくるだろうと予測していたらしい。
俺たちがボアを狩って帰ってきたとき、師匠はかなり驚いた様子だったが、そのあと何故無茶をした、とそれなりに叱られた。
状況の説明を必死にした結果、説教はすぐに終わり、今度は俺たちのことをしっかりと褒めてくれた。
こうして、俺たちの初の狩りは、予想外の獲物を狩ってくることで大成功した。
俺と二号はボアの狩ってきたことで宴会を開いたが、その宴会で二号と話し合った。
二人して思っていたことがある。
それを再確認したのだ。
「「もう、こんな無茶はやめよう……」」
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