閑話 弟子たちの狩り1

弟子一号視点


 いま、俺と二号は魔物が現れる森の前にいる。

 今回の狩りをする場所は集落に近い場所だ。

 

 俺たちの集落は人間の街に近い場所にある。

 近いとは言っても、人間にすぐに発見されるような場所ではない。

 そんな場所だが、集落内にいれば魔物が侵入してくるようなことはなく、狩りに行けば魔物化していない獲物に出会える。

 そんな好立地の場所に集落はある。


 だが、今回、俺たちが狩る対象は魔物だ。

 それもウサギ型のホーンラビットか、ネズミ型のビッグラットを狙うことになっている。

 

 俺たちが師匠から狙う獲物を指定されたときは、正直なところ反発心を覚えた。

 俺たちだって、スタークさんのようにボアを狙ってみたかった。

 だが、イノシシ型の魔物に出会って、無傷でいられるとは到底思えなかったので、師匠が指定した魔物を狙うことには納得している。


「二号」

「?」

「絶対、今回の狩りを成功させような」

「おう」


 短い言葉を交わした俺たちは、気合を入れて、森の中へと入っていった。

 


 

 俺たちが入る森の草はそんなに高くはない。

 せいぜいが敵の視界に入らないように木の裏に隠れるなり、地面に這うほど身体を低くしないと隠れられるようなところはない。

 これが森の奥の方へと向かっていけば、俺たちゴブリン程度が隠れるような茂みも現れるようなのだが、隠れるところが多くあるような危険な場所での狩りは師匠がまだ許してくれないだろう。


 さて、ホーンラビットがビッグラットのどちらかを狙え、と言われたが、まずは慎重にラットを狙っていこうと思う。

 そのことを二号に伝えると、無言で頷いた。

 

 二号は不思議な奴だ。

 普段から口数は少ない。

 だから、意思表示が苦手なのかと思いきや、決してそんなことはなく、大事な場面ではしっかりと言葉を発するのだ。

 それに何より、根性がある。

 スタークさんとの模擬戦でもそうだったが、身体が大きいからと率先して戦闘では前に出てくれる。

 だから、今回の戦闘でも二号は俺よりも前の位置で、俺よりも危険な場所で戦闘を開始しようとするだろう。

 そう思った俺は、二号にこんな提案をした。


「二号」

「?」

「最初の獲物で不意打ちの練習がしたい。だから、俺が前に出たいんだが、いいか? もちろん、居場所を気取られての真っ向勝負になったら、二号が前衛になってくれた嬉しいが……」

「一号」

「なんだ?」

「その戦闘で、一号、成長するなら、やるべき」

「おう。なら、最初の獲物だけは前に出るわ」


 そんな取り決めを定めて、俺たちは森の中をぐるぐると彷徨う。

 集落の位置を忘れないように気を付けながら彷徨い続けた俺たちだが、一時間ほどが経ったとき、二号が口を開いた。


「一号」

「なんだ?」

「もしかして、魔力感知、してない?」

「あ……」


 二号に言われ、俺は今さらになって気付いた。

 そう言えば、魔力で周囲を探知していたら、もっと簡単に獲物が見つかるではないかと。

 俺はバツが悪そうに言った。


「すまん。昔の狩りでは魔力感知何て知らなかったから、すっかり忘れていた」

「大丈夫」

「何が?」

「俺も、さっき、思い、出した」

「お、おう」


 二号と緩い会話をした俺は、頬をぴしゃりと張る。

 これまでに師匠から習ったことをしっかりと発揮しなければ、何のための修業だったのか、と自分に言い聞かせる。

 俺は改めて魔力感知を行いながら、二号を連れて、森を進んだ。




 魔力感知を行いながら、周囲を彷徨うことしばらく。

 俺たちはある存在に遭遇していた。


「あれって、ボアだよな?」

「……」


 俺の問いかけに二号は頷く。

 まさかのイノシシ型の魔物に遭遇してしまったのだ。

 なんでこんなところにボアがいるんだと思った俺たちは、揃って冷や汗を流していた。

 心なしか、二号の表情も固まって見える。


 俺たちはボアの様子を確認しながら、相談する。


「二号、どうする?」

「?」

「ボアに挑戦するかってことだ」


 俺の言葉を聞いた二号は、ぶんぶんと首を横に振って、意思表示する。

 そんな二号の様子に、俺はつい苦笑してしまった。


「だよな。俺たちにはまだ早すぎる獲物だ」

「……」


 ぶんぶんと賛同する二号。


「なら、今回は撤退しよう」

「おう」


 そう言って、俺たちは気配を消して、撤退しようとしていると。


「なあ、二号」

「?」

「気のせいか、ボアが俺たちの方をじっと見ている気がするんだが……」

「!!」


 俺が二号の方に視界を向けると、二号は驚いたような表情をした。

 まさか、と思った俺は、すぐに叫ぶ。


「二号、回避!!」

「!!」


 俺の言葉に反応した二号は、身体ごと投げ出すように横っ飛びした。

 瞬間。

 ドドドド、と激しい足音を立てながら、俺たちの傍を茶色いイノシシが通過していった。

 

 俺は今度こそ、ボアから目線を外さないようにしながら、二号に言う。


「二号、相手はやるつもりだ。はっきり言って今から逃げる方が危ない」

「……」

「だから」


 俺は覚悟を決めるように、息を吸う。


「だから、二号は前衛を頼む。俺は隙を狙う」

「!!」


 俺の言葉に反応した二号は、すぐさま俺とボアの間に入るような位置を取った。


「二号」

「なんだ?」

「必ず、アレを狩って帰るぞ!!」

「おう!!」


 俺と二号の気合は十分。

 あとは、ボアを狩って帰るだけだ。

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