閑話 ???視点 今に至るまで
???視点
我々は今も変わらず対象を観察している。
対象はこの世界に転移し死を経験したあと、転生を繰り返している。
対象は人間への転生を三回ほど繰り返した。
その三回の人生のどれもが知識を求めるように、我々が細工をした。
そうして、知識を蓄えた対象は遂に人外側、魔物へと転生を果たした。
最初に、対象を人外へと転生させたとき、思わぬ事態が発生した。
対象が発狂しかけたのだ。
元々、我々の世界のシステムとして、命を多く奪ったものは命を奪われやすいような種族に転生しやすいよう設定されている。
対象は最初の人生で生態系が変化するほど命を奪った。
それなのに、私たちが細工したことによって、三回も人間へと転生させてしまった。
その帳尻を合わせた結果、対象はスライムへと転生してしまった。
これが異世界で流行っている物語だったならば、ここから何かしらのイベントが発生して力を蓄えただろう。
だが、この世界はそんな都合よく物事が運ぶほど甘くはない。
そもそも対象はスライムに転生したことを受け入れられずに、発狂間近まで精神に異常をきたしたのだ。
そんな精神状態でも魔物としての本能は働いたようで、スライムとして一年も生きながらえたのは称賛に値するだろう。
我々は対象の精神と魂の状態を鑑みて、再度人間へと転生させた。
もちろん、スライムとしての記憶を封印して。
改めての人間の生は、ただの農民として穏やかに過ごせるように仕組んだ。
結果、魂の状態は回復に向かった。
そのあとは、肉体的にも精神的にも強靭な種族に転生させることになった。
結果、転生システムに任せた結果、対象はドラゴンへと転生した。
ドラゴンとしての生は三百年ほどだった。
ドラゴンの中ではかなり短い生だが、自分が魔物側に転生したことを認められたようで、魂の消耗は想像以上に抑えられた。
ドラゴンの次は人間へと転生した。
三百年の月日で、人間の世界での知識のアップデートがあったからだ。
その後、対象は魔物としての転生を繰り返した。
スライムになったり、ゴブリンになったり、ウルフになったり、と。
ただ、どんなに転生を繰り返させても力の強い種族には転生させなかった。
本来なら、増え過ぎた人間を減らすために、強い種族に転生させたかった。
だが、人間としての意識を強く持っている状態だと、殺人への忌避感が強く、なかなか人間の街へと向かわないだろうという判断だった。
だから、人間への負の感情を溜めさせたかった。
結果、弱い魔物へと転生して、死を重ね、人間という種族の憎悪を溜めさせようと画策した。
その計画はあまり上手くいかなかった。
対象の人間としての記憶はもう夢で見る程度までに抑えられていた。
だが、計画が上手くいかなかったのは、対象が人間という種族を愛していたせいだろう。
どうしたものかと頭を悩ませていた。
そんな折、何故か対象はオーガへと転生した。
対象があまりにも弱い種族に転生を繰り返したせいか、システムが誤作動したのだろう。
オーガへと転生した対象は、順調に魔物として成長した。
力への渇望が強い種族に転生した対象は、進化には至らずとも力を溜め続けた。
そうしたオーガ生を送っていた対象は、またも人間と関係が出来てしまった。
そのときだ、対象の魂に、考えに変化が起きたのは。
集落の幼子に、自身を殺させるという行為は対象に憎悪を抱かせるのに十分だった。
そのあとの転生は、同じ魔物から殺されるというのが多かった所為か、対象の憎悪は薄れた。
そうした中で、今の生、ゴブリンへと転生した。
名をレーラーと付けられた対象に、我々は期待している。
ゴブリンのわりに、長生きをしているレーラーは進化を果たした。
ここから先、どんな風にレーラーが成長し、人間を減らしてくれるのか。
我々は楽しみにしている。
レーラーの活躍を。
だが、もし人間を減らすことが出来なければ、我々は対象に試練を与えよう。
確か、人間には我々の声を受け取れる聖女なる存在がいたはずだ。
それを利用すれば、レーラーに試練を与えられるだろう。
さて、レーラーはどんな生を送るのか……。
また、観察していよう。
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