第45話 新たなる弟子

「ふぅー」


 俺は大きく息を吐く。

 一昨日の夜はフォレストベアとのあまりの激戦に体力を消耗したため、スタークに連れ帰ってもらった。

 昨日は朝から集落内で宴を催したというのに、俺は進化の影響と戦闘での疲労具合を考慮して、スタークの家から殆ど出してもらえなかった。

 そして、今日。

 俺はいまから集落の皆に姿をお披露目するらしい。

 ついでに、治癒魔法や身体強化の魔法なども見せるそうだ。

 集落のボス以外が進化した最初の個体として、いろいろ話をして欲しいとのこと。

 どうやら、スタークは集落内のゴブリンの進化個体を多く欲しているようだ。


「レーラー、そろそろ姿を見せるぞ。準備はいいか?」

「ああ、行こう」




名もなきゴブリン視点


 今日、なぜかボスが集落のゴブリンを集めた。

 もちろん、俺も集落内の一員だから、ボスの家の前で待っている。

 なにやら、進化したゴブリンを紹介してくれるらしい。


 俺は一緒に行動している個体に話しかける。


「なあ、ボス以外に進化なんて出来るのか?」

「しらねー。でも、みんな集めたってことは進化したんだろう?」

「そう聞いているけどな。ちょーつよいボスなら進化できるだろうけど、普通のゴブリンには無理だよな」

「俺もそう思う」


 そんな風に話していると、近くのゴブリンがあることを教えてくれた。


「あんたら、もう忘れたみたいだけど、今回進化したのはボスの戦闘の師匠だったはずだよ」

「「えぇ?!」」


 俺と友は大きく驚いてしまう。

 あの普通のゴブリンではありえないほどの力と身体を持つボスの師匠。

 どれほど怖い存在なのだろう。

 そんなことを思ってしまう。

 それと同時に、こんなことも思う。


「やっぱり普通のゴブリンに進化は無理だよな」


 俺の軽い独り言は何の偶然か、集落内に大きく響き渡ってしまった。

 それもそのはずで、ボスが集まってきたゴブリンに静かにするよう命じたあとに、ポロっと溢してしまったのだ。

 俺はヤバいと思った。

 ボスの言葉の前に、しょうもないことを言ってしまった。

 殺されるかも、そんな風に思っていると、ボスは俺に向かって問いかけた。


「ふむ。オイ、お前」

「はい!!」

「普通のゴブリンに進化は無理か?」

「む、無理だと思います……」


 俺は何とか消え入りそうな声で返事をする。

 ボスは何を考えているのか、顎を軽く触りながら何かを考えた後、集落内のゴブリンに向かって話し始めた。


「皆、今の個体の言っている通り、普通のゴブリンに進化は無理だと考えているか?」


 多くのゴブリンは頷く。


「俺もそう思っている。とはいえ、本当に普通のゴブリンならの話だ」

 

 その言葉に、ゴブリンは皆首を傾げる。

 俺たちの様子も気にせず、ボスは続ける。


「今回進化した個体のおかげで、進化に必要な条件のようなものが分かりつつある」

「「「おおお!!!」」」

「その分かっている条件の中で、普通のゴブリンには発現しづらい能力が関わっている。それは魔力を操作できるということ」


 俺たち、ゴブリンには聞きなれぬ魔力という言葉。

 ボスもそれは分かっているのか、話を省略してくれる。


「いま言っても殆どのゴブリンには分からないだろうから、進化の条件はおいておく。だが、この集落内だけで言えば、ゴブリンの進化種は増えていくだろう。その種まきのような事前準備は皆に施した」

「「「???」」」


 皆首を傾げる。

 ボスは俺たちに何をしていたのだろう。

 殆どのゴブリンは分からない話だが、ボスはこれ以上進化条件を話してくださらなかった。


「さて、進化のことは置いておいて、俺以外に進化した個体を紹介する。来てくれ、レーラー」


 俺はその呼び名を聞いて、一昨日名前をもらった個体だと思い出す。

 その個体の身体は普通の個体と変わらないはず。

 そう思っていたのに。


「スターク、紹介するまでが長いだろう。緊張するだろうが」


 そんな風に、恐ろしいほどまでに強いボスに、文句を言いながら出てきた個体を確認する。

 一昨日までとは姿が全く違っていた。

 体長はボスに顔一つ分の差はあれど、何故か跪きたくなるような威圧感のようなものを感じてしまう。

 身体自体はそんなに大きくないというのに……。


「俺はレーラー。今回スタークの次に進化した個体だ。俺はスタークの支援をすることに特化した個体になっている。主に、治癒魔法なんかを使える個体だ」


 その個体の言葉をすべて理解できた個体はいないと思う。

 なぜなら、俺たちに魔法というものを知っている個体は少ないはずだからだ。

 

 レーラーという個体は言う。


「何か聞きたいことがあるやつはいるか?」

 

 俺はさっきのことで悪目立ちしていた自覚があったから、自棄になって質問する。


「どうすれば進化できますか?」


 俺の問いかけに、レーラーという個体は考える。

 数秒のあと、スタークに耳打ちしたレーラーは言う。


「スターク以外にも俺の弟子たちがいる。そいつらが進化するか、そいつらに勝てたら進化条件や必要なら戦い方を教えてやる」

「つまり、レーラーさんの弟子たちに勝てばいいんですね?」

「おう」


 レーラーさんの確約を取れた俺は言う。


「その弟子の方と勝負させてもらえませんか?」

「今すぐがいいか?」

「今すぐで」


 俺はかなり自棄になっていたが、いいチャンスだと思った俺は無謀だとは思いつつ、レーラーさんにお願いした。

 

「じゃあ、弟子一号相手してやれ」


 


 俺はレーラーさんの弟子に負けた。

 攻撃は何一つ効かなかった。

 ただ一つ収穫があった。

 俺はレーラーさんの弟子になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る