第43話 進化した種族の能力

「んぁ……?」


 俺は不意に目が覚めた。

 意識がはっきりしないうえに若干、混乱気味だ。

 

「すぅー、はぁー」


 俺は自分の精神を落ち着けるように、深呼吸を繰り返す。

 数回、深呼吸を繰り返したころ、俺はいまの状況に疑問を抱く。


「ここ、どこ?」


 ここが俺の塒ではないことに気付いたのだ。

 俺の塒はただ穴を掘って、上に腰蓑に使うような植物を被せているだけの原始的な寝床だったはずだ。

 それなのに、いま俺は藁の上に寝かされていたのだ。

 手足を伸ばして大の字に寝ても、なお余りある広い場所に寝ていたのだ。

 こんなにも大きい部屋を持っているのは、集落内では一人しかいない。

 それは……。


「お! 起きたか。レーラー」


 集落のボスであるスタークしか、こんなに広い寝床を持っていないだろう。

 俺はゆっくりと身体を起こす。

 足を伸ばして座っている状態になった俺は、スタークに返事をする。


「ああ、いまさっき目が覚めたよ、スターク」

「そりゃ、良かった」


 スタークは朗らかな様子で返事をする。

 何やら、スタークはかなりご機嫌のようだ。

 何がそんなに嬉しいのやら……。


「レーラー、お前は進化できたんだよな?」


 上機嫌の様子のまま、スタークは確認してくる。

 どうやら、俺が進化しているかが気になっていたらしい。

 

 俺が返事をしようとすると、スタークは興奮したように話し始めた。


「いや、こんな確認は必要なかったな。いまのお前の姿を見たら、誰もが進化したゴブリンだと分かるだろうしな」

「ん? そんなに見た目が変化しているか?」

「いや、だいぶ姿が変わっているじゃないか」


 俺のとぼけた様子に、ツッコミを入れるスターク。

 とはいえ、俺も本気でとぼけているわけではない。

 だが、見た目がどれほど変わっているかを自覚しているかと言われたら、そうではない。

 俺が気付いているのは、どうやら手足が伸びているようだということだけだ。

 

 スタークは呆れたような表情を見せるが、すぐ後に心配そうな表情に変わってしまう。


「レーラー。お前、フォレストベアと戦ったんだな?」

「ん? 何だ、急に?」

「いいから、フォレストベアと戦ったのか?」

「おう、戦ったぞ」


 俺は軽い調子で答える。

 心配をかけたくなかったのもあるが、恰好を付けたかったのだ。

 弟子であるスタークたちの前では、少しでも強くかっこいい師匠でいたかったのだ。

 だが、スタークは怒りを覚えたようで、怒鳴るように話し始めた。


「なぜ! なぜフォレストベアと戦った?!」


 急な激昂に、俺は驚いてしまう。

 何をそんなに怒っているのだろう。

 そう思わないでもないが、おそらくスタークが俺と同じことをしたら、俺も怒っているだろうと思う。

 だから、素直になぜ戦うことになったのかを説明する。

 約束通りに、ブラウンボアを狙っていたこと。

 だが、ブラウンボアを狙ってフォレストベアが現れたこと。

 フォレストベアから逃げられそうになかったこと。


 それらの言い訳を聞いたスタークは深くため息をついた。

 

「レーラーが無事でよかったよ。俺たちの師匠はお前しか考えられないからなぁ」

「おう」


 何やら恥ずかしいことを言っているスタークに、照れてしまう。

 だが、そんなことを知るかと言わんばかりに、スタークは質問してくる。


「レーラーは何て言う種族に進化したんだ?」

「ゴブリンエイドだったかな」

「ゴブリンエイド? 何だその種族名は? 聞いたことないな」

「いや、俺にも分からん。だが、能力は何となく分かるぞ。本能で分かった」

「ほう、どんな能力だ?」


 スタークはワクワクするような表情で聞いてくる。

 まるで、子供だなと思わないでもないが、俺はからかわずに素直に話す。


「治癒系統の魔法と、身体能力を強化する魔法が使えるみたいだ。あとは群れのボスの必要とする能力に合わせて、強くなっていくみたいだな」

「ほお。支援型の種族に進化したわけか。それにしても、群れのボスの影響を受ける種族か……。ゴブリン内で伝説として伝わっているゴブリンキングとゴブリンジェネラルみたいだな」

「確かに、キングとジェネラルの関係は近いかもしれないな。だが、俺の場合はスタークが欲する部下の理想によって、能力が変わるぞ」

「ん? 何か違うのか?」


 スタークは不思議そうな表情をする。

 だが、俺も自分の種族について掴みかねている。

 

「詳しくは違うはずだ。ゴブリンジェネラルは指揮能力が高い種族だったはずだろう? 俺の種族はスタークが攻撃能力の強い部下を欲したら、戦闘能力が伸びやすくなる。逆に、群れの指揮を取れるような部下を欲したら、指揮系の能力が発現するっぽいな」

「そんな種族がいたのか?! なかなか希少な種族に進化したのだな」


 俺の話を聞いて、スタークはかなり驚いたらしい。

 他にも、俺が現時点で何ができるのかとか、そもそもゴブリンって魔法使えるんだなとか、興奮した様子で早口にしゃべっていた。

 俺はそれに丁寧に答えていたが、少し気になることを思い出した。


「スターク。俺が倒したフォレストベアの死体って持って帰ってきたか? 持って帰ってきたなら、集落の皆で宴をしたらいいと思ったんだが……」

「それなら心配いらん。死体は持って帰ってきたから、お前の許可さえあれば、集落の皆に肉は振舞える」

「なら、今日は宴だな」

「おう」

 

 俺が目覚めたころにはもう朝だったらしく、今回の宴は朝から始まった。

 もちろん、初めて喰う肉の味に、集落内が盛り上がったことは言うまでもない。

 ただ、俺の身体を心配してか、進化した俺の紹介は後日となった。

 

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