第40話 戦いは続く
俺はいま必死に回避行動を取っている。
無い知恵を絞っていた俺だが、フォレストベアがずっと待ってくれている訳もなく、痺れを切らして攻撃を仕掛けてきたのだ。
フォレストベアの攻撃方法は限られている。
まずは俺が最初に喰らった突進。
次に、ブラウンボアが喰らった前足での横なぎ。
後はかみつき攻撃がせいぜいだろう。
攻撃方法の種類が少ないおかげか、対処は簡単だった。
だが、俺の攻撃が敵に通らなければ意味がない。
「グルルルルゥァ!!」
おたけびを上げながら、突進攻撃を仕掛けてくるフォレストベア。
俺はそれを寸でのところで躱しながら、フォレストベアの様子を窺う。
さっきからフォレストベアは突進攻撃を多用してきている。
「グルァ!!」
フォレストベアは躱すんじゃねえと言わんばかりに吠える。
攻撃が当たらなくて苛々しているのだろう。
「さてさて、どうしたものか」
回復能力のおかげで、俺の身体は絶好調に近い。
今なら、ボア系の魔物でも倒せるだろう。
だが、いま相手しているのはフォレストベアだ。
フォレストベアにどんな攻撃が有効だろうか。
そんなことを考えている、と。
「グオオオオオオオオ!!」
フォレストベアは、俺を怯ませるための咆哮を発してきた。
その咆哮にはもちろん、魔力が含まれている。
俺はそんな咆哮により、身体が吹っ飛ばされた。
「っ、……いてぇな」
吹っ飛ばされた衝撃で、身体が木にぶつかる。
魔力を纏っているおかげでダメージは少ない。
それでも、一瞬呼吸が止まる。
「グルァ!!」
フォレストベアは俺に隙が出たのを見逃す訳もなく。
「っくは」
フォレストベアは突進攻撃を仕掛けてきた。
攻撃が来ると分かっていた俺は、魔力を全身に纏わせていた。
おかげで大きく吹っ飛ばされることはなかったが、フォレストベアの突進で木を一本なぎ倒しながら、突進の勢いに踏み堪えることが出来なかった。
突進の勢いがようやく止まったのは、次の木に俺が接触するまでだった。
現在、俺の背中が木に接触し、腹にはフォレストベアの額が突き刺さっている。
「んぎぃっ!!」
「ギャン!!」
俺は激しく痛む身体を無視しながら、右手に魔力を集中させる。
手刀の形を取った俺の手は鋭く振るわれた。
結果、フォレストベアは激しく出血する。
俺の手刀はフォレストベアの目玉を通して、脳を狙うつもりで振るった。
だが、それを察知したのか、フォレストベアは前に踏み込んできたのだ。
結果はフォレストベアの首左側を切り裂く程度に終わった。
フォレストベアは魔力による強化と元来の頑強さにより、俺の攻撃は命を奪うほどの効力を発揮しなかった。
千載一遇のチャンスをものにできなかった俺は、死を覚悟していた。
身体を回復させるために、俺は魔力を高速で動かし、体中を覆った。
ダメージによる身体の重さがどんどんと薄くなっていくのを感じていたが、隙だらけで動けもしない俺をフォレストベアが見逃すはずもない。
「グオオオオッ!!」
怒りによるおたけびを発しながら、前足を振るってきた。
抵抗の出来ない俺は思いきり周囲の木に叩きつけられることになった。
「っ」
俺は息を漏らすだけで、声も出ることはなかった。
あー、俺はこんなところで死ぬのかな。
そんなことをぼーっと考える。
次に思ったのが、何で俺はフォレストベアに挑戦しているのだろう。
俺は自分が弱者だという自覚が薄かった所為か、なんてことを考える。
「し……、にた……、く……、な、い」
俺の口から自然と言葉が漏れる。
そうだ、俺はまだ死にたくない。
せっかく俺の理解者であるスタークがボスを張っているのだ。
俺がここで死んじまったら、今度転生したときに理解者が出来るかも分からない。
それに、今回の生ぐらいは一生懸命に全力で生きてもいいじゃないか。
そんな考えが頭を支配していた。
「ぐるぅ……、ぐるぅ……」
俺は薄くなってきている意識の中、フォレストベアの様子を確認する。
今にも意識を失いそうになりながら俺の視界に収まったのは、首からの出血が止まらず弱々しい声を発するフォレストベアだった。
なぜ、そんなに弱々しい声を発している?
そんな疑問が過ぎる。
俺が思っているよりもダメージを負っていたのかと考えたが、じっとフォレストベアの様子を見ていると気付いたことがある。
鳴き声が変わってきていたのだ。
「きゅうん、きゅううん」
フォレストベアがまるで甘えるかのような声を発している。
その声を聴いた瞬間、俺は恐ろしい考えを思いついてしまった。
まさか、親を呼んでいる? と。
俺はそんなバカな、と否定しようとするが、フォレストベアの甘えるような鳴き声が俺の考えを肯定しているように感じる。
そう思った瞬間、俺は急激に焦りだした。
ここで親まで来てしまったら、俺は確実に殺されてしまうと。
フォレストベアが泣き出して数秒の後、腕が動くようになった俺は、ホーンラビットの魔石を一つ取り出した。
それを俺は口に放り込み、急ぐように咀嚼する。
残りの魔石は一つになってしまったが、俺は全回復できた。
魔力にもある程度余裕の出来た俺は、すぐに自分の出来る最大距離の魔力感知をした。
その結果、こちらに接近してくるような魔物はいなかった。
俺はその事実に一安心した。
どうやら、目の前のフォレストベアの親は近辺にいないようだった。
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