第33話 スタークの狩り

スターク視点

 

 俺はいま森の中を彷徨っている。

 何故、集落を放置して森を歩いているか。

 態々言葉にしなくても分かるだろうが、狩りをするためだ。

 師匠から魔物狩りを許可されたのだから、早く森に入りたかったんだ。

 俺は森をフラフラとしながら昨日のことを思い出す。




 俺が昨日弟子たちの前で狩りについて話をしたのは態とだった。

 それというのも、最近弟子たちの力に対する欲求が下がっているように感じていたからだ。

 確かに弟子たちは頑張っている。

 その努力を認めるところではあるが、師匠の弟子とあろうものが少し力をつけたぐらいで、満足しているようではいけないと思ったからだ。

 こんな感情は俺のエゴだと思うが、それを自覚していながら俺は師匠に狩りについて言ったのだ。


 結果、なぜか弟子たちと模擬戦をすることになったのは予想外だった。

 だが、弟子たちに自分たちの無力さを自覚させるのに模擬戦は十分だったと思う。


 普通のゴブリンに体格で優る二号の拳は正面から受け止めたし、ちょっとした隙をついて一撃を放った一号も俺の様子をしっかりと見ていなければ全く問題になっていないように見えただろう。

 二号の攻撃は本当に効いていなかったが、一号の魔力の乗った攻撃は正直かなりのダメージを喰らったのだが、バレなくてよかったように思う。

 俺がダメージを喰らっていたのが分かったら、一号は確実に調子に乗っていただろうし……。


 そんな風に昨日のことを思い出していると、魔力での索敵の範囲に何かが引っかかった。

 獲物の居場所を捉えたわけだが、この獲物は師匠が狩ってきたような獲物ではない気がする。

 単純に魔力で把握したシルエットが大きいように感じたのだ。

 俺は今いる場所から、一気に魔力を身体の外へ出さないように遮断した。

 気配を消し、慎重に獲物へと向かっていった。




 獲物はすぐに見つかった。

 師匠が言うに、俺の身長は人間の成人男性と同じくらいだろうと言っていた。

 数字にすると、百七十センチメートルほどだとか……。

 センチメートルってのが単位らしい。

 頭の悪い俺たちゴブリンに数字と単位って概念を教えられてもなぁ、と師匠に呆れた覚えがある。

 

 だが、その知識は案外有用性があるかもしれない。

 特に俺の視界にいる獲物のサイズを言語化出来るのだから。

 俺の視界に入っている獲物はおそらくイノシシ系の魔物であるボアだろう。

 肩高は俺と同じくらいか……。

 こんなにもデカいサイズのボアが普通のボアなわけないと思うが、これがボアの平均サイズだったら、数体だけで俺の集落は確実に潰されるだろう。

  

 俺は深く呼吸をする。

 師匠がたまに言っていたのだが、呼吸というのは戦闘のうえで大切なものらしい。

 確かに、師匠が言っていた通り呼吸は大事なのだと俺は悟った。

 深呼吸をしているだけで、俺の心臓がある程度落ち着いたのだから。


 俺はじっとボアを見る。

 呑気に木の根の近くを掘り漁っているが、何をしているのやら。

 そう俺は思っていたのだが、やはりボアも魔物。

 俺の遮断している魔力にうっすらと気付いているように感じる。

 

 俺は再度大きく息を吸う。

 そして、ゆっくりと吐いて、ボアの近くへと魔力を全開にしながら近づいていく。


「フギッ」


 ボアが驚いたような声を漏らした。

 魔力で察していたようだが、思ったよりも俺が近くにいたのだろう。

 驚いている様子は滑稽でつい笑ってしまった。

 そんな俺の笑みを嘲笑と受け取ったボアはフゴフゴと鼻を鳴らし、目に怒りを示しながら俺の方へと顔を向ける。

 

「はぁ、そんなに怒らんでもいいだろうに……」


 笑みを漏らしたことを後悔しながら、俺は魔力を全身にかけ巡らせる。

 俺たちゴブリンでも、進化さえすれば魔法なるものが使えると師匠が言っていたが、俺はまだ進化していない。

 じゃあ、全身にかけ巡らせた魔力をどうするか。

 もちろん、身体強化に使う。

 俺の身体は魔力に守られ、かつ魔力によって身体能力を大幅に上げてくれる。


「準備できたぜ」


 俺の言葉に、ボアは応えない。

 だが、ボアも何やら準備をしていたいようだ。

 俺は軽く目に魔力を通わせることで、ボアの魔力の配分を確認する。

 どうやら、頭に多めに魔力を振り、足にもある程度魔力を溜めているようだ。

 突進を仕掛けてくると見た俺は、ただボアの前で仁王立ちする。


「来な」


 俺の声に呼応したわけではないと思うが、ボアが突進してきた。

 そんな状況で俺がとった行動は。


 ガシィンッ


 ボアを正面から受け止めることだった。

 耳を覆いたくなるような大きな衝撃音。

 俺とほとんど同じくらいの肩高を考えれば、俺は軽々に吹っ飛ばされるはずだ。

 だが、俺の足はしっかりと地面を掴み、ボアをしっかりと止めていた。


 押し合う形になった俺とボアだが、魔力のおかげか俺が感じる負担は見た目よりもずっと少ない。

 俺はイケると確信する。

 コイツとの力比べに勝てると確信した俺は、ボアを押し返す。

 ざざざざざぁ、とボアは押されていく。

 力の差を見せつけるように、ボアを力で圧倒した俺はボアを地面へぶつけるように力を加える。

 すると、どすんっとボアの四肢から力が抜け、こけてしまった。


 俺の狙い通りに事態が進んだことを嬉しく思いながら、俺は右手に大きく魔力を集中させる。

 指を揃えた俺の右手はボアの左目を貫き、頭の中へと手を突っ込んだ。

 そして、渾身の力でボアを横ぶりに投げ飛ばした。


 ハァハァと俺は息を荒くしながら、ボアを見つめる。

 生気が抜けたボアは身体を横たえたまま、全く動かない。

 そのことを確認した俺は大きく拳を握った。

 俺はこうして初めての獲物を狩れたのだ。

 

 狩りが成功したあと、俺は獲物の運搬に悩むのだった。

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