第32話 勝負は?

 スタークの問いに、弟子たちは簡潔に応えた。


「俺は、俺たちは、行動で力を示します」

「ほう」


 弟子たちの答えに、スタークは意外そうな表情をする。

 スタークの表情を見ながら、一号は続ける。

 

「いまの俺たちではスタークさんにダメージを与えることはできない。それは魔力的であったり、技術であったり、いろいろと足りないものが多いことも理解しています」


 スタークは一号を興味深そうに見ている。

 さて、一号はどんな提案をするのか……。


「だから、スタークさん」

「おう」

「俺たちの本気の一撃を無条件で喰らってください!」

「は?」

「まさか、スタークさんともあろう方が俺らの一撃を怖れるなんてことはないですよね?」


 スタークは一号の言葉に顔を俯かせ、身体を震わせる。

 これはスタークがキレたかと思っていたのだが……。


「ブハハハハ。……ハァ。まさかの要求だな」


 スタークは大笑いしていた。

 何か面白がるポイントなんてあったっけ、と思いながら、この場を弟子たちの好きなように任せる。


「それでどうなんですか?」

「もちろん、良いだろう」


 一号の再度の問いかけにスタークは即答する。

 一号は要求が通るとは思わず、少し呆けていた。

 そんな一号を呆れた様子で見ながら、スタークは言う。


「ハハハ、何を呆けているんだ。お前が提案したことだろうに。そもそも、今回の模擬戦の目的はお前ら弟子たちと、俺との力量差を自覚することだった。そうだろ?」

「うす」

「なら、さっきまでの模擬戦で途方もない力量差に気付いただろう。つまりは、もう目的は達成されているんだ。なら、ここで模擬戦は終わっても問題ない。が、ここで終わってはお前たちの自信を喪失させるだけで終わってしまう」


 そこで言葉を切ったスタークは、俺に向かって口を開く。


「で、師匠」

「なんだ?」

「ここで模擬戦を終わってもいいですかい?」

「そうだな……」


 俺は考えるフリをする。

 本当はこれからどうするか決まっている。

 だが、ここで弟子たちを焚きつけるとしよう。


「今回の模擬戦、弟子たちは良いところがほとんどなかったな。二号は開幕の一撃を完璧に当てたのに、ダメージにならず」

「……ッ」

「一号はせっかくのタイミング攻撃をクリーンヒットさせたのに、スタークの口を切るだけ……」

「……」

「最初の作戦を失敗したお前らはそのままスタークの良いようにやられてしまっていたな」

「「……」」

「だから、ここでチャンスを与えよう。模擬戦は終わりにして、スタークに本気の一撃を喰らわしてやれ」


 だんだんと顔を俯かせていた弟子たちは、俺の最期の言葉で顔を上げた。


「お前らは俺の弟子なんだから、自信もって一撃入れてやりな。舐められっぱなしで終わるな」

「「うす!!」」


 弟子たちの様子に満足した俺は口を開く。


「スターク。ここで模擬戦は終了だ。いいな?」

「おう。俺は狩りに行けるなら、なんでもいいぞ」

「じゃあ、改めて、ここから俺が仕切るぞ」

「おう」


 俺は弟子たちを呼び、今回の提案に勝敗をつけるように、ルールをつけることにした。

 ルールは簡単。

 スタークを一発ずつ弟子たちが殴る。

 殴られたスタークが膝を地面に着ければ、弟子たちの勝ち。

 スタークが立っていれば、スタークの勝ち。


 上記のルールで遊びを兼ねた攻撃力の査定を始めた。


「さて、改めて。模擬戦がこんな形で終わるのは残念だが、弟子たちとスタークの差があまりに大きい。故に、ここから勝負内容を変える。いいな?」

「「「おう」」」

「ルールはさっき言った通りだ。そして、負けたときの罰ゲームだが、負けた方の修業量を増やすからな」

「「「え?!」」」

「なんだ? 勝敗を決めるだけじゃつまらんから、お仕置きを用意したんだが、不満か? 強くなれるチャンスだぞ?」


 俺が勝手に決めたことを言うと、スタークはすぐに反応した。


「俺はいいぜ」

「俺たちも大丈夫っす」


 弟子たちも急いで返事をした。


「よし、じゃあ、さっそく勝負すんぞ。で、勝負が終わったら模擬戦の反省をするぞ」

「「「おう」」」

「よっしゃ。まず弟子側だが誰が最初に殴る?」


 俺の言葉に弟子たちは軽く相談する。

 数秒の時間で誰が最初に殴るか決めたようだ。


「俺から殴ります」


 どうやら一号から殴るらしい。

 力で劣る一号から殴ることで、少しでもスタークにダメージを蓄積させ、二号で止めを刺すという作戦だろう。


「いきます」

「来い」


 勝負前の挑発などの前口上なく、淡々と進んでいく勝負。

 そういえば。


「あ。スタークの股間を殴るのは無しな。子供が出来なくなったら困る」

「「「えっ」」」


 俺が唐突に発した言葉で、弟子たちはずっこける。


「師匠、そんなこと言わなくてもやらないっすよ!」

「お、おう。そうか」


 集中力が増していたタイミングで言った所為で、一号の緊張感が抜けるのを感じる。

 やっちまった、と思いながら、俺は何事もなく続ける。


「さぁ、一号。やってみろ」

「うっす」


 一号は集中力を増していく。

 目の前にいるスタークだけに集中し、魔力を練っていく。

 暴発しそうなほどの魔力が溜まったタイミングで一号は言う。


「いきます!!」

「来い!!」


 ズガンッっと、全力で岩でも殴ったような音が鳴り響く。

 俺はその音を聞いた瞬間悟る。

 一号の負けだ、と。

 理由を説明するのは難しいが、本能的に一号が負けたのを悟ったのだ。


 結果は案の定で、スタークは一歩も引く様子なく、しっかりと両の足で立っていた。

 対する、一号は。


「いってぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 絶叫していた。

 おそらくだが、拳を痛めたのだろう。

 そうなるのも仕方ない。

 一号は力任せに拳を振るったのだから、力以上の防御力で止められたら反動でやられるのは仕方ない。

 

「大丈夫か、一号」

「うっす」

「後で診てやる。下がりな」

「うす」


 一号は拳を抑えながら、ゆっくりと俺の下へと来る。


「次は二号か……。やれるか?」

「やる」

「そうか、スタークもいいな?」

「おう」

「では二号。集中」


 俺の言葉に反応して、二号もまた魔力を練る。

 一号に比べたら、二号はデカい。

 だが、スタークの方はもっとデカい。

 身長的な意味でも、筋力的な意味でも。

 この勝負は元からスタークの方に分があった。

 だが、俺の弟子を名乗るからには弟子たちにはいずれスタークを超えてもらわなければ……。

 

「スターク、さん。いく!」

「来い!」


 どうやら二号の準備が出来たらしい。

 二号は自分の利き手である右拳をスタークの腹目掛けて突き出した。

 結果は。


 ズガンッっという一号とあまり変わらない音だった。

 だが、これは少し効いたのでは、と思った。

 二号とスタークの反応は……。


「ングッ」

「クッ」


 二号は拳を抑えて呻き、スタークは腹を擦りながら息を飲んだ。

 どうやら、少しは効いたようだ。


「二号、拳はどうだ?」

「問題、ない、です」

「よし。勝者はスタークだな」


 こうして、勝負は決着した。

 思いつきで始めた模擬戦と勝負は思わぬ展開で終わった。


 さて、模擬戦の反省会でもしますか。


_________________________

あとがき

 ここまでこの作品を読んでくださりありがとうございます。

 明日からの更新は、作者の健康についての都合により、しばらく更新をお休みします。

 と言っても、二週間ほどで続きを更新できると思います。

 なので、次回の更新は7月24日になります。

 変更があれば、Twitterにて報告します。


 そろそろ第1章も終わる予定ですので、少し休みますが、もう少しこの作品のお話にお付き合いください。

 よろしくお願いいたします。

 

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