第29話 狩りの前に

 弟子たちとスタークを交えての鍛錬を始めて一週間が経った。

 もちろん、弟子たちは修行の合間に、狩りをするのも忘れない。

 スタークも集落のボスとしての仕事もありながらの鍛錬になった。

 弟子たち、スターク、そして師匠である俺たちはそれぞれに仕事はありながらもしっかりと鍛錬を重ねた。


 今日もまた鍛錬をしようということで皆が集まった。

 そんな中でスタークが緊張した様子で口を開いた。


「師匠」

「どうした? スターク」

「そろそろ良いんじゃねぇか、魔物を狩りに行くの」

「あー」


 どうやらスタークは自分の力に随分と自信をつけたらしい。

 自発的に狩りのことを口に出したのだから、それほど力をつけたことを実感しているのだろう。


 俺は何と言葉を返そうかと少し迷った。

 それというのもスタークは、実力的に狩りに行っても十分なほどに力をつけているように感じる。

 だが、弟子たちはまだまだだ。

 弟子たちのことを考えると、狩りをどうするかという話は隠れてしたかったという本音がある。

 そうしてまごついていると……。


「師匠から見て、俺の力はどうだ?」

「もちろん、十分に狩りが出来るだろうな」

「なら、なんで即答してくれなかったんだ」

「それは……」

 

 そう言い淀んだ俺は、つい視線の先に弟子たちを収めてしまった。

 それだけで弟子たちは察してしまったのだろう。

 落ち込んだように言う。


「師匠は俺らに気を遣っているんですか?」

「……」


 弟子一号の言葉に、俺は返す言葉を持たなかった。

 無言になってしまった俺に対して、弟子一号は言う。


「師匠。俺らにだって分かっていることっすよ。二号は体格的にもかなりの力はありますが、まだ足りない。そして、一号の俺は二号以上にいろんなものが足りていない」


 弟子一号の言葉に賛同するように、弟子二号は頷く。

 そんな様子に、俺は素直に言葉を発した。


「そうだ。弟子二人とスタークでは実力差が明らかだ。そんな中でスタークが狩りに行きたいと言ったら、お前たちも狩りに行きたいというのではと思っていた。だから、スタークにはこっそり許可を出そうと思っていたんだが……」


 そこで言葉を止めた俺は弟子たちを見る。

 弟子たちは落ち込んだ様子はあれど、俺の言葉に集中している様子だった。

 それに安心した俺は言う。


「お前たちの様子を見るに、納得はしているんだな? 俺が狩りの許可を出さないことに」

「「はい」」

「なら、良い」


 俺はそこで言葉を切って、スタークへと視線を向ける。


「スターク。魔物が単独行動している個体にのみ、狩りを許可する」

「おう」

「……が、今日はまだ待ってくれ」

「ん? なんでだ? 早速行きたかったんだが……」


 俺は弟子たち二人をチラッと見てから言う。


「出来れば、スタークにはコイツらと手合わせしてやって欲しいんだ」

「おう。いいぞ」


 俺の頼みにスタークは快諾してくれた。

 

「俺も師匠の弟子たちの実力が気になっていたんだよな。せっかくの機会だから、全力でやってもいいんだよな?」

「もちろんだ」


 スタークが思いのほか、やる気がある様子に嬉しく思った。

 場合によっては、スタークが不機嫌になるのではと心配していたからだ。


 俺は弟子たちを視界に収める。

 案の定、弟子たちは驚いているようだった。

 俺はそんな弟子たちに軽い口調で言う。


「ということで、スタークと戦うことになったぞ」

「なったぞ、じゃないっすよ!! なんてことをやらせようとしているんですか、師匠!! スタークさんが本気になったら、俺らなんて速攻で殺されちゃうっすよ!!!!」


 焦ったように早口でまくし立てる弟子一号。

 そんな弟子一号に同意するように、弟子二号も何度も頷いている。

 この状況がおかしいようで、スタークは朗らかに言う。


「ハハハ。いくら本気とはいえ殺すような真似はせん。もちろん、骨の一本や二本は覚悟してもらうがな」

「ひぃぃっ」


 スタークの言葉に、さらにビビった様子を見せる弟子一号。

 もちろん、弟子二号もビビっている。

 だが、弟子二号はもう覚悟を決めたのか、たどたどしく話す。


「師匠、俺、やる」

「ハハ、そうか、二号。やれるのか」

「うす」


 そんな弟子二号の様子に感化されたのか、一号も言う。


「ああもう!! やればいいんでしょ!! やれば!!!!」

「そうだ。どっちみちやるしかねぇわな。むしろ、戦えないなんてほざいたら、弟子を辞めさせていたぞ」

「えええ!!」


 俺の言葉に、弟子一号と二号は驚く。


「当たり前だろうが。命の危険がない中で、本気で殴り合いが出来るんだぞ。やらないわけないだろうが」

 

 俺の言葉に、ハッとした弟子たち。

 弟子たちにも、こんな機会のありがたさが分かったらしい。


「二号、やるぞ」

「おう」


 どうやら弟子たちもやる気十分といった様子。

 そんな弟子たちに、火に油を注ぐがごとく、スタークは言う。


「お前らは二体同時で来ていいぞ」

「「?」」

「お前ら一体ずつだと、良い戦いにならないだろうからな」


 そんなスタークの言葉に、弟子たちは奮起する。


「スタークさん。その言葉、嘘じゃないっすよね?」

「もちろん。師匠もいいよな。俺対弟子二人で」

「おう、お前らが良いならいいぞ」


 俺も気軽に許可を出す。

 さらに、弟子たちはやる気を出したようで。


「師匠、スタークさん。早くやりましょ」


 ということで、今日は弟子たちの戦いを眺めることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る