第27話 次の修業

 さて、今日からは弟子たちとスターク、つまりは群れのボスを交えての修業となる。

 そのことはまだ弟子たちには伝えていない。

 サプライズという訳ではないが、弟子たちは心を乱されるだろう。

 だが、そんな風に心の内を乱された中でも、すぐに冷静になり、魔力を完璧に操作できてこそ修行の成果となるだろう。

 なんて、言い訳を考えつつ、俺は弟子たちが驚くさまを想像しながら、いつもの川に向かった。


「よう!」

「ども!」

「「ッ!!」」


 スタークが先に挨拶してきたので、俺は気さくな様子で挨拶を返す。

 そんな軽いやり取りが行われる中で、弟子二人は群れのボスがいることに驚いて、俺の後ろにすぐに隠れてしまった。

 俺はそんな二人を引っ張り出して、スタークの前に連れてくる。


「スターク、紹介していいか?」

「おう」

「あの悪知恵ゴブリンの配下みたいなことをしていた時の二体だ。いまは弟子一号と弟子二号と呼んでいる」


 そう俺は紹介したあとに、弟子たちの挨拶を促す。


「ほれ、挨拶しな」

「はいぃ。俺は弟子一号っす。よろしくお願いしやす!!」

「弟子、二号。よろしく、お願い、します」


 弟子一号はビビった様子を隠せないようだったが、気合で挨拶をした。

 弟子二号はいつもと変わらぬ様子で挨拶していたが、緊張しているようにも見える。


「おう! いまの俺とお前らの師匠との会話で察しているかもしれねぇが、俺に名前が出来た。スタークって名前だ。忘れんなよ?」


 スタークも朗らかに名前を名乗る。

 最後の言葉に少し威圧が乗っていたようにも感じるが、まあ名前を間違えられたくないのだろう、とのほほんと考えていた。

 ただ、間近で威圧を喰らっていた弟子たちはのほほんとするどころか、かなりビビってしまったようで。


「は、はいっす!!」

「!!」


 どもりながら、必死に首を縦に振っていた。

 

 そんなこんなでスタークと弟子たちの挨拶が済んだのを見届けた俺は、修行を始める旨を伝えた。

 今日からする鍛錬は魔力の操作に焦点を当てたものだ。


「さて、今日はスタークと共同で修行をしていくわけだが、今日からは魔力操作の訓練をしていく。で、なぜスタークがここにいるかというとだが……」

「俺もお前らと同じ修行をしていくことになっているわけだ」


 スタークの言葉が意外だったのか、弟子たちは驚いたような表情をしている。

 なぜ、驚いているのかと問うと。


「だって、師匠。ボスは__」

「スタークだ」

「ス、スタークさんは俺らよりも修行を早めに始めていますよね?」

「そうだな」

「そう考えると、魔力操作の修業なんて、すでに終わっているのではと思いまして……」


 弟子たちの言葉は至極もっともなことだ。

 これまでの修業の期間、弟子たちよりも早くに魔力操作をしていたのだから、弟子たちよりも緻密な操作を出来て当たり前と言える。

 ならば、なぜここにいるのか、と言うと。


「今日からやる訓練は師匠である俺自身も混ざるからだ。そうなったときに、俺たちだけじゃ、人数が割り切れないだろう? だから、既に修行を始めていたスタークも混ざってもらうという訳だ」


 そう俺自身もしっかりと修行をしないといけない。

 いくらある程度の技術を持っているからと言って、修行を怠っていると戦闘での腕前がドンドンと鈍っていってしまう。

 だから、俺よりも強いだろうスタークに付き合ってもらうという訳だ。

 俺がそう伝えると、弟子は不思議そうな表情を浮かべる。


「師匠。そもそも今日はどういう修行をするんですか?」

「あれ、言っていなかったか?」

「聞いていないっす」


 俺がとぼけると、すかさず弟子一号はツッコミを入れた。

 じとーっと弟子たちは俺を睨む。

 

「すまんすまん。修行内容はいま言おう。今日からは組み手を行う」

「組み手?」

「そうだ」

「組み手ってなんですか?」


 弟子一号は組み手を知らないらしい。

 弟子二号とスタークに顔を向けると……。


「俺も知らないな」

「師匠。俺も、知らない」


 どうやら、ゴブリンの集落に組み手という修行方法は無いようだ。

 俺は具体的に説明することにした。


「簡単に言うと、二人一組になって殴り合いをするんだ」

「ほう」

「「!!」」


 俺の単純な言葉に、スタークは感心したように頷いた。

 弟子たちは顔を真っ青にさせていた。


「師匠」

「なんだ、弟子一号」

「まさか、俺らの相手がスタークさんってことはないっすよね?」


 俺は返事を返さずに、ニヤッと笑った。

 そんな俺の様子にスタークは苦笑している。


「安心しな。俺の相手は師匠でしか務まらんよ」

「なんだスターク。ちょっとした冗談のつもりだったのに、言ってしまうのか」

「師匠。あんまり弟子たちをおちょくるな」

「はは、すまんすまん」


 弟子たちは抗議するような視線を送ってくる。

 俺はそれを無視して、修行内容を説明する。


「本来、組み手ってのは修行している武道なんかの基本動作を実践に近い形式で人相手に試すことをいう。だが、俺たち魔物に修めるべき武道などない。だから」

「だから、殺しなしの殴り合いという訳だな」

「そうだ。さらに言うなら、これは魔力操作の修業でもあるわけだから、もちろん魔力を扱ってもらう」


 勘のいいスタークは魔力をどう扱うかを察しているようだ。


「スターク。どう魔力を使うと思う?」

「あれだろ? 出来るだけ素早く魔力を手足などに流して攻撃と防御を繰り出すんだろ?」

「そうだ。加えて言うなら、弟子たちが最初にするのは俺とスタークの組み手を見るだけだ」

「見るだけっすか?」


 弟たちは不思議そうな表情をする。


「そう。お前たちは魔力操作をまだ始めたばかりだから、見るだけだ。俺とスタークの魔力配分を出来るだけ目に捉えるようにするんだ」

「それは……。どうやってですか? 師匠」

「目に魔力を集中するんだ。そしたら、普段見えない魔力が薄っすらとだが見えるはずだ」

「わかりました!」

「では、修行を始めるぞ」

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