第26話 ある日の修業

 弟子たちの決意を聞いてから数日が経った。

 弟子たちはまだ魔力の感覚を掴めないでいた。


「師匠~」

「なんだ?」

「全然、魔力感知できないんですけど……」

「そうか」

「そうかって……。師匠、何かアドバイスはないんですか?」

「心を落ち着けろ。んで、自分の中で滞留している魔力を感じろ」

「それいつも言っていますけど、他にコツはないんですか?」

「バカヤロウ。そんなに簡単に魔力の感覚を掴めちまったら、こんな鍛錬なんか考え付くこともなかっただろうよ」

「それはそうですが……」


 普通ゴブリンは言われた修行をいかに楽に熟すかを探ってしまうように思う。

 それがさっきまでの会話で何となく察せてしまった。

 だからこそ、俺は真剣に諭す。


「弟子一号」

「はい! はい?」

「修行っていうのはつまらないもの、苦しいものだ。だが、その修行をする、鍛錬をするという行為には何かしらの意味があるんだ」


 そこで弟子たちの表情をしっかりと見る。

 普通ゴブリンである弟子一号はなぜか呆けているが、弟子二号は真面目な様子でしっかりと聞いているようだ。

 弟子一号にはあとでしっかりと言い聞かせるとして、弟子二号のためにもしっかりと話をしよう。


「今回の修業だったら、自分の魔力を完全に把握するという意味があるし、これから力を付けていくうえで毎回魔力の量何かを感知するときに必須となる技量が今回の修業が基礎となるんだ。分かるか、弟子一号?」

「ふへぇ……」

「弟子一号?」

「ふへへ……」


 なぜか弟子一号は呆けたような表情を崩さない。

 何か悪いものでも食べたのだろうか。

 そんな心配をしながら、弟子一号と大きな声で呼ぶ。


「弟子一号!!」

「ハイッ!!」

「弟子一号、なんでそんなに呆けている?」


 真面目な表情で俺は弟子一号に質問する。

 何があったのだろう、と俺は真剣に考えていた。

 

「あの……、その……」


 弟子一号はもじもじとしながら、はっきりと言葉を発さない。

 

「どうしたんだ? 待っているから自分の言葉で話しな」


 俺の言葉で力が抜けたのか、弟子一号はゆっくりと話し出した。


「師匠が……」

「俺が?」

「俺のことを弟子一号と言ってくれたからです」

「へ?」


 思わぬ言葉に、俺は驚いてしまった。

 弟子一号は続ける。


「俺ははっきり言って、一般的なゴブリンと何も変わりません。体格も普通ですし、知能はちょっとだけ優れておるかもしれませんが、それでも平均の域を出ません」


 俺は弟子一号の言葉にツッコミを入れたくなったが、最後までしっかりと話を聞く。


「何もかもが平均のゴブリン。それが俺です。つまりは特徴のないゴブリンなわけですが」

「ふむ」

「師匠はようやく、俺のことを弟子一号と、俺個人を見てくれているんだと、そう思うと嬉しかったんです」

「そうか……」


 俺は弟子一号の言葉に少し考え込んでしまう。

 俺はこの弟子二人のことをしっかりと区別していて、特別視していたつもりだったが、それは伝わっていなかったのだろうかと、そう思ってしまった。

 弟子一号の言うことをしっかりと考えるなら、俺は区別できていなかったのだろう。

 これでは、師匠失格だと思ってしまう。

 だが、そんな反省はおいておき、俺は弟子二号に声をかける。


「弟子二号」

「師匠?」

「お前も弟子二号と呼ばれた方が嬉しいか?」


 俺の言葉に、弟子二号は考える。

 数秒たったのち、弟子二号は拙いながらも話し出した。


「俺も、嬉しい。でも、弟子一号、言われ、たかった」

「そうか」


 弟子二号の言葉に、俺は反省する。

 俺はこの二人を特別扱いしていたつもりだったが、伝わっていなかったことを知った。

 そして、つい言葉が漏れてしまった。

 

「お前たちのことを俺はかなり特別視していたつもりだったんだが、伝わっていなかったか……」

「「!!」」


 しまった、と俺が思う頃には、弟子たちは嬉しそうに俺を見ていた。

 だから、ついつい言い訳のようなものを口にしてしまう。


「なんだ、その顔は。まったく、個人で区別されたのが嬉しいなどと、そんなこと最初からしていただろうが。そもそも俺が獲物を分け与えたのはお前らだけしかいないというのに。まったく……」


 顔が熱くなるのを感じながらも、俺は早口で話してしまった。

 だから、俺はまた早口で促すのだ。


「おい、お前ら嬉しそうにしているところ悪いが、修行を続けるぞ」

「「はい!!」」


 修行のあと、俺は弟子一号が呆けていたことを引き合いにだし、少しだけいつもより長く説教をした。

 終始嬉しそうにしている弟子一号に腹が立ったが、仕方ないと諦めて説教を続けた。

 

 そんな風に、微笑ましいようなやり取りをしながらも、俺たちは修行を続けた。

 時には息抜きを入れたり、時には実践と称して狩りの仕方を教えたりなど、師匠として出来るだけ多くのことを教えながら、修行を続けた。


 そんな日々を送っていく中で、二週間が経った。

 二週間という長い時間が経つ頃には、弟子二人は魔力を完璧に感知できるようになっていた。

 そして、魔力感知が完璧に出来たということは、魔力操作を覚える時期になったということ。

 俺と弟子たちはスタークと合流して、魔力操作の修業を始めることにした。

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