第24話 理由
気合を入れ直した弟子二人。
さて、ここからどう指導していくか……。
深呼吸をして落ち着き、いまある問題点を整理していくとする。
まず初めに、一番の問題点。
それは俺たちが魔物の中で最小の魔力量を持つゴブリンであるということ。
これの何が問題かというと、魔力量が少なすぎてそもそも感知自体がしづらいということ。
さらに言えば、魔力という存在は普通の魔物ならば察知するきっかけのようなものがあるか、もしくは生まれつき魔力を感じられる種族すらいる。
そういう意味では魔力量が少なすぎるのは大きな問題だろう。
次の問題点。
それはゴブリンという種族が魔力という存在に触れる機会が少なすぎて、魔力の存在を信じ切れていないことだ。
魔力というのは感情が大きく作用する場合がある。
だが、魔力という存在を信じ切れていないと、感情がどれほど揺さぶられていようと気付かない。
俺がオーガだったときのことだが、怒りの感情により魔力の高まりを自覚できることがあった。
それも魔力という存在を知っていたからだし、信じていたからこそ高まり自体を自覚できたのだ。
最後の問題点。
それは目の前の弟子たちが焦っていたことだ。
魔力は感情に作用されるのは先に言ったが、弟子たちは焦りによって自分の中のエネルギーの高まりを見逃している可能性がある。
弟子たちは最初こそ気楽な様子で修行していたが、日が過ぎていく毎にどんどんと焦るようになったと思う。
これは完全に師匠の俺が悪い。
以上がいますぐに思いつく、問題点だ。
さて、これら問題点に対抗する策は何があるか考えていく。
まず一つ目はすでに解決しているはず。
そう思って俺は弟子二人に声をかけた。
「お前たち、俺が狩ってきた獲物は喰らったんだよな?」
そう、俺は魔力量の問題点に関しては事前に手を打っていた。
同格か格上の獲物を喰らうことで魔力を高めることができるのは知っていたからな。
さぁ、弟子たちの答えは。
「師匠が渡してくれた獲物ですよね? ちゃんと喰らいましたよ!」
「師匠。俺も、喰った」
よしよし、弟子たちは素直に俺の獲物を喰らっていたようだ。
まあ、俺は魔力を感知できるから、コイツらが獲物を喰ったのは知っていた。
でも、俺が聞きたかったのはそれだけではない。
「本当に獲物を全部喰らったんだよな、一人で?」
俺が改めて確認したのは理由がある。
それというのも、弟子たちから感じる魔力量が思ったよりも増えていなかったからだ。
流石に二倍以上の魔力量になるとは思っていなかったが、どうも伸び幅が少ないように感じていた。
それゆえの確認。
本当に獲物をすべて一人で喰らったかどうか。
「それは……」
「師匠……」
言い淀む普通ゴブリンを庇うように、前に出てくる大柄ゴブリン。
いつも前出てくるのは普通ゴブリンだった。
それゆえに、この様子を珍しく感じていると、大柄ゴブリンは言葉に詰まりながらも必死に語ってくる。
「師匠。ごめん、なさい。全部、は、食べてない」
「それは何でだ?」
表情を出さないように、俺は弟子たちに問いかける。
弟子たちが獲物を食べきれていない理由はいくつか思いつく。
だが、それは弟子たち自身の言葉で知りたい。
俺の修業を受けるのだ。
修行を受けるからには、師と弟子の間に確かな信頼関係は必要だろう。
ここまで俺は師匠らしいことをして来なかった。
俺と目の前の弟子たちにある信頼関係は薄いものでしかない。
だからこそ、こういうちょっとした問題でもしっかりと言葉で聞きたい。
「それは……」
言い詰まる大柄ゴブリン。
弟子たちは怒られることを怖れているのだろう。
だが、俺は怒るつもりはない。
理由次第だが、俺の考える理由なら弟子たちに非はない。
「どうした? しっかりと言葉にしてくれないと分からない。怒らないから言ってみ」
「すみません。俺が言います」
俺の言葉を信じたのか、それとも腹をくくったのか。
普通ゴブリンは大柄ゴブリンの前に出て、俺の目をしっかりと見て口を開いた。
「俺は、俺たちは師匠からもらった獲物を全部喰えませんでした」
「おう。それで?」
「え?」
「どうした? 呆けた顔をして、理由を聞かなきゃ判断できないだろうが。ほれ、喰えなかった理由、言ってみ?」
怒られることを覚悟していった割に、俺の反応があっさりとしていた所為か、普通ゴブリンは呆気に取られているようだった。
数瞬、弟子たちは呆けていたが、俺の待ちの姿勢を見て、ゆっくりと話し始めた。
「実は俺とコイツには兄弟がいるんです。俺には下に三体ほどで、コイツの下は二体ほどいます」
「それで?」
「俺たちは最初、師匠に言われた通りに獲物を喰らおうと思いました。ですが……。ですが、飢えに苦しむ兄弟を見ていられませんでした……」
そう言葉を発した普通ゴブリンは、深々と頭を下げた。
大柄ゴブリンも頭を下げている。
「師匠の言葉通りに行動せず修行の予定を遅らせてしまい、すいませんでした」
「すいません、でした」
俺は弟子たちの誠意に答えるように、弟子たちの頭に軽く拳を落とした。
「いてっ」
「……」
「お前らへの罰はそれでおしまいだ」
俺は軽い口調で言った。
そんな俺の様子に納得がいかないのか、弟子たちは口を開く。
「ですが!」
「俺がしまいと言ったんだから、ここで話はおしまいだ」
「しかし!」
「あのなぁ、俺もお前らと同じゴブリンだぞ? 飢えの苦しみはよく知っているつもりだ。そんな俺がお前らのしたことに怒るわけないだろ」
俺はそこでため息を一つ溢して言う。
「むしろショックなのが、俺がその程度で怒ると思われている事だな。まあ、俺が獲物に固執していることを知っているからだろうが、そんなことで俺は怒らんぞ」
「そうなんです?」
俺の言葉に首を傾げる弟子たち。
「そりゃ、そうだろう。他人の獲物を奪うのはどうかと思うが、自分の獲物をどう扱うかは知ったこっちゃない。だから、今回のことは不問とする。分かったな?」
「「はい」」
「ただ、次も似たようなことがあったら相談しろ。何かしら考えてやる」
「「はい!!」」
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