第23話 泣き言
ボスに名前を付けてから、約二週間が経った。
あの日から、コツコツとボスは魔力操作を鍛えていた。
素早く全身に魔力を巡らしたり、瞬時に一部分や複数部分に魔力を流したりなど、とにかく実践でも落ち着いて操作できるように、鍛錬を重ねていった。
ボスの成長速度は目を見張るものがあった。
そう、ボスの鍛錬は順調に進行している。
これならば、一人で魔物を倒すときは近いと思われる。
そんな順調な成長を見せる中で、それほど早く上達できない個体もいる。
それは俺に師事している弟子二人だ。
今日は弟子二人の様子を見ようと計画していた。
というのも、ボスは一人で地道に鍛錬するような段階に入っていたから、最近ではボスの自己責任で鍛錬をしてもらっていた。
俺はその様子をたまに確認する程度だ。
だが、弟子二人はまだまだ師匠である俺の補助が必要な段階だ。
弟子二人には早く強くなって欲しいものだ。
「さて、お前ら。今日も川に来たわけだが……。何かコツは掴めたか?」
俺と弟子二人は今日も川にいた。
現在の時刻としては昼を過ぎたといったところ。
本当なら早朝からぶっ続けで鍛錬させたい。
実際、ボスは早朝からほぼ一日中鍛錬をしていたわけだし……。
でも、コイツらにはそれが出来ない理由がある。
それは集落での立場の都合での問題だ。
コイツら弟子二人は、前回の悪知恵ゴブリンでの騒動で立場を一気に落としてしまったのだ。
元々はボスに近い位置にいる部下のそのまた部下といった形で、人間の派閥のようなものに加わっていたように見えたのだ。
実際は派閥のような組織を作っていたのは悪知恵ゴブリンとその周辺だけで、周りは群れて変なことをしているなぁという認識だったが……。
そもそも力に従う魔物に派閥などという権力争いのようなものは忌避される傾向にある。
そんな忌避されるものが突如解散させられることになったら、そこに所属していた個体はどうなるか。
その答えは簡単で、一個体としてみれば、群れるしか能のない力のないザコとしか周りから認識されなくなるのだ。
結果、弟子二人は他の個体よりもかなり下に見られており、以前俺がやっていたように、狩りやその片付け、また肉の下処理なんかもやらされているわけだ。
片付けや肉の処理は、普通のゴブリンの集落ではしないが、これらはボスが命じてやるようになった作業である。
そんな面倒ごととも言っていいような作業は下っ端である弟子二人に押し付けられるわけだ。
そんな作業しているのだから、必然的に修行の時間は減るわけだ。
「師匠、すいません。さっぱり分かりません」
「師匠」
申し訳なさそうな表情の弟子二人。
確かに、約二週間という少なくない日数を消化したというのに、二人は全くと言っていいほど、変化が見られない。
ゴブリンの中での二週間というのはかなりの日数だ。
一生の短いゴブリン。
下手をすれば、一年と経たずに病気や駆除されて死んでしまうのがゴブリンだ。
そう考えると、二週間がどれほど貴重か……。
俺は深く考え込む。
ボスに弟子たちの様子を相談したときは、まだ焦るような時間じゃないと言っていたが……。
どうしたものか……。
「師匠。もう修行は止めてしまいましょう……」
「あ゛?!」
一般的な体格をした普通ゴブリンが弱音を吐く。
俺は威圧するように普通ゴブリンを見るのだが、今回の提案は思ったよりも本気だったようで。
「この提案をしたとき、師匠は必ず怒るだろうと思っていました」
「当然だろうが!!」
「俺も怒られて当然だと思います。ですが!!」
「なんだ」
「こんなにも師匠の時間を貰っているというのに、俺たち二人は全くと言っていいほど成果を出せていません!!」
「そうだな。で?」
「俺たちだって本当なら修行をしていたいです。でも、俺たちに使っていた時間を他の才あるゴブリンに使っていたら、師匠が考える魔力というのを使える個体が出てきていたはずです」
普通ゴブリンが言っていたことは俺も考えなかった訳ではない。
それでも、俺がコイツらにこだわっている理由。
それは……。
「お前らだけだろう」
「何がですか?」
「俺に修行を付けてくれと正面切って言ったのはお前らだけだろうが」
「それは……」
「俺はな、お前らが自身の根性を証明し、俺の前で才能があると判断するような結果を出したから面倒を見ているんだ」
「師匠……」
弟子二人はいまにも泣きそうな表情で、結果の示せていないことを悔いるような表情で顔を俯かせた。
「お前らは悔しくないのか?」
「何がですか」
「今の状況が、だ」
「今の状況……」
「そうだ。お前らは確かに悪知恵ゴブリンの良いように扱われていた。だが、いまは集落内で最底辺の扱いを受けている……。もう一度聞くぞ、悔しくないのか?」
俺の言葉に、弟子二人は顔を上げる。
普通ゴブリンは悔しそうに唇をかみしめた表情で、大柄ゴブリンは怒りを堪えているかのような表情で、俺を睨みつける。
大柄ゴブリンは拙い言葉使いで、俺に意思を示す。
「師匠。俺は、悔しい」
「そうか。お前の悔しさはどうしたら晴れる?」
「どう、したら?」
「そうだ。俺は集落の皆に力を示せたら、何かが変わると思っている……。お前はどう思う?」
「俺も、そう、思う。俺も、力を、見せる。もう、悔しい、したくない」
はっきりとした意思表示。
それが続けられるなら、俺はこの弟子たちを見捨てない。
普通ゴブリンも、俺へと意思表示する。
「俺も」
「なんだ?」
「俺も力を示せたら変わるでしょうか」
「さあ、どうだろうな。俺はお前次第だと思うが」
「ですよね」
「だが、俺は確実にお前を強くしてやろう。どうするかは、お前次第だ」
「そう、ですか……」
普通ゴブリンは覚悟を決めた顔で、俺を見る。
「俺、頑張ります!! なので、師匠!!」
「なんだ」
「まだ俺たちに指導してください」
「いいだろう」
弟子二人が気合を入れ直せたようだ。
さて、ここから頑張らないと。
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