第15話 魔力感知

 さて、川に着いたわけだが、ボスは何かを言いたそうに俺を見ている。


「ボス。視線が鬱陶しいのだが?」

「うむぅ……」


 質問にボスは口ごもる。

 俺は優しく聞いてみた。


「怒らないから、何を言いたいのか言え」

「いや、なぜあの二体に貴重な魔物の肉を与えるのかと思ってな」

「ああ、そのことか」


 ボスが気にしていたこと。

 それは貴重な獲物を簡単に渡したことらしい。

 それなら、すぐに聞いたらいいのに、と思いつつ説明する。


「あのな、ボス」

「おう」

「俺たちゴブリンも含めて、魔物は魔物を喰らうことで魔力が増える訳よ」

「そうだな」

「んで、普通のゴブリンは魔力量が低すぎて、自分の魔力が感知できない。つまり……」

「魔力感知の修業を付けやすくするために、アイツらに獲物を渡したわけか」

「そういうことだ」


 ボスは俺の説明に納得した様子を見せる。

 だが、少しは不満が残っているのか、少し愚痴を溢すように言った。


「俺も魔物の肉を喰いたかったなぁ」

「それは自分で狩ってくれ」

「うぬぅ……」


 もちろん、そんな愚痴は軽く流した。

 

「さて、ボス。話していたら、修行が始められないから、そろそろおしゃべりはやめよう」

「おう」

「んで、今日のボスの修業だが、命に危険があるかもしれないが早く魔力感知が出来るようになるのと、安全だが時間がかかるの、どっちがいい?」

「早い方だ」


 ボスは即答した。

 この回答については俺の想定通りだった。

 表には出さないが、ボスは少し焦っている。

 それはボス自身も自覚しているだろう。

 自覚したうえで、命を危険にさらしても力をつける方がいいのだろう。

 なかなかにいい根性している。


「じゃ、ボス川の近くに座ってくれ。つっても、川関係ないんだがな」

「おう。って、じゃあ何で川まで来たんだか」

「安全な方法の修業に川はうってつけなんだよ」


 軽口をかわしながら、ボスは座る。


「ボス。俺は後ろに回るが、警戒するなよ」

「おう」


 これで、俺たちが修行出来やすいような態勢になった。

 そのまま、ボスに説明する。


「ボス。いまから俺はボスの背中側から心臓に近いところに手を置く」

「おう」

「んで、手からボスの心臓に向かって、魔力を放出する。おそらく、かなり違和感があるはずだ。でも、俺の魔力を拒否してはいけない。ここまではいいか?」

「おう」

「拒否したら、どうなるかとか聞きたいか?」


 俺は一応の確認をする。

 たぶん、ボスは説明を聞きたくないと言うだろう。

 と言うか、聞かない方がいい。

 それというのも、ボスが魔力の拒否をしてしまうと、上手く拒否できなければ、ボスの心臓近くの魔石に許容範囲を超えた魔力が一時的に流れてしまう可能性がある。

 そうなると、どうなるか。

 万が一の可能性だが、ボスの魔石が機能しなくなり、徐々に体が弱くなり、死んでしまうかもしれないからだ。


 そんな危険を孕んだ修行だというのを自覚してしまうと、疑念が生まれてしまう。

 俺は死んでしまうのではないか。

 そう考えてしまうだけで、危険度は大きく上がる。

 魔力は精神的な影響を大いに受けるのだから。

 

「いや、聞かないでおこう」


 結果、ボスは俺の説明を拒否した。

 俺は心の中で密かに安堵した。


「ボス。修行内容の続きだが、俺の魔力を受け入れたら、あとは簡単だ」

「というと?」

「ただ、ボスは平常心を心がけて、俺の魔力の流れを追っかけるだけだからな」

「そんな簡単なことでいいのか?」

「ああ、自分の魔力がどう流れているのか。それを感じ取るのが修行だからな」

「分かった」


 俺の説明が終わったと判断したボスは静かに川へと視線を向ける。

 平常心を意識しているのだろう。

 川の流れを見て、あるがままを受け止める。

 そういう意味では、川という場所は修行に向いているのかもしれない。


「さて。始めるぞ、ボス」

「ああ、始めてくれ」


 俺はボスの返事を聞いて、ゆっくりと魔力を流し始める。

 ボスは俺の魔力の気配を察して、ぴくッと肩が震えた。

 その反応に少し笑いそうになってしまったが、改めて集中する。


「ボス。俺の魔力は感じ取れているか?」

「何となくだが分かるぞ」


 一応、確認してみたが、ボスはしっかりと知覚できているようだ。


「よし。ボス、いまから魔力の塊を作り動かしていく。それをしっかりと把握してくれ」

「おう」

「始めるぞ」


 俺はボスの許容できるだろう魔力の塊を軽く作る。

 塊を知覚できるか、ボスに確認を取ると、しっかりと知覚できているようだ。

 まずは、右手へと魔力を動かしていく。


「ボス。魔力はどこにある?」

「右手だな」


 ボスは即答した。

 よしよし、と俺は修行の成功を微かに喜ぶ。

 まだ途中だということは分かっているのだが、嬉しいことに変わりはない。

 

 少し深呼吸して、心を落ち着かせてから魔力を動かす。

 次は右足へ魔力を動かす。


「ボス。魔力は?」

「右足」


 これも即答。

 今度は少し意地悪をしてみる。


「ボス。魔力は?」

「これは……。左足と右手か?」

「正解だ」


 俺の意地悪な質問にもしっかりと答えてくれた。

 案外、ボスの魔力感知能力は強いのかもしれない。

 そう考えつつ、魔力を動かす。


「ボス」

「左手か?」

「正解だ」


 軽く答えるボス。

 どうやら、ボスはしっかりと魔力を知覚できているようだ。

 最後に、ボスの魔力が通る道がしっかりと張り巡らされているか確認する。


「ボス。魔力の通り道を確認するから、気持ち悪くても我慢してくれ」

「おう」


 すーっと、魔力を流していく。

 魔力の通り道もゆっくりと確認したところ、異常はなかった。

 これなら自己鍛錬で何とかなるだろう。


「ボス。今日の鍛錬は終了だ」

「おう」

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