第14話 もうすぐ修行開始
さてさて、俺たちはボスのところへと到着した。
と言っても、集落の広場に着いただけなのだが。
「ボスーー!! 俺が来たぞーー!!」
こうやって一個体を呼称したいとき、名前がないことを不便に感じる。
魔物は名前を付けることで、名付け親から少しの魔力を貰い、特殊な能力に目覚めることがある。
だが、ゴブリンの魔力量はかなり少ない。
名づけだけでもかなりの危険を伴うことになる。
だからこそ、ゴブリンには個体名を軽々しく付けないし、名無しが多い。
そう考えたとき、俺は他のゴブリンに比べて、かなりの魔力量を持っている。
ボスと俺の弟子二体には名前を付けるべきだろうか。
「おう! いま行く!」
名前に関して、悩んでいるとボスからの返事があった。
それにしても、ボスはいつも何をしているのだろうか。
案外、修行を自分なりに考えてしているのかもしれない。
「……ふぅ。おう、お前らか。お前らが来るなんて珍しいな。特にそこの二体は特にな」
ボスが軽く息を整えながら現れた。
あながち俺の考えていたことは間違いではなく、身体を動かしていたのだろう。
ボスの発言から俺は少し驚く。
俺が連れてきた二体は、はっきり言って下っ端だ。
集落内の群れの順位で言えば、かなり下位の方になるだろう。
二日前の出来事があったとはいえ、ボスが二体を覚えていたのは意外だった。
「よお、ボス。何やら息を整えていたみたいだが、身体を鍛えていたのか?」
「まあ、そんなところだ」
「なんだあ? 気の抜けた返事だな? まあ、いい。今日はボスが願っていたことについて教えてやろうと思ってな」
そう、今日の目的は進化についてだ。
この集落でゴブリンの進化種がいない所為で、進化の条件が分からない。
進化については魔力量とその操作力が条件なのは確かだが、狙った進化を出来るほどに詳しい条件というのは分からない。
この集落内で唯一、俺以外で進化できそうなのはボスだ。
進化の条件を探る為にも、ボスには頑張ってもらわなければ。
「おう。ようやく魔力の操作について教えてもらえるわけか。進化に必要だって言うから、お前が起きてくるまでの間に、軽く鍛錬していたんだが、どうも感覚が掴めん」
進化に必要なことを軽く教えた故の好奇心と向上心のおかげで、自主鍛錬をしていたようだ。
好奇心と向上心があるなら、修行も手を抜かないだろう。
「そんなにすぐに感覚を掴めるわけはない。魔力ってのは繊細だからな。感情の影響も受けるし、何より俺たちゴブリンは魔力も少ないし、余計に鍛錬が必要だ」
「おう」
「だからこそ、鍛錬あるのみよ。っと、ボスのついでに俺が連れてきた二体も修行をつけるからな」
「なに?」
軽い報告のつもりで言った言葉がどうやらボスには引っかかったようだ。
いずれは一緒に鍛錬させようと思っているのだが、嫌なのだろうか。
「どうした? ボス」
「いや、本当にコイツらに修行をつけるのか、と思ってな」
「ん? 何か問題でもあるか?」
「んー、あまりこういうことを言いたくないが」
そう前置きをしたボスは説明し始めた。
なぜ、この二体に修行をつけることに対して反応したのか。
簡単に言えば、コイツらが金魚の糞のごとく付いていった悪知恵ゴブリンの参加だったことが問題のようだった。
例え力づくで従わせられていたとはいえ、他の個体の獲物を奪うような奴に、修行をつけ力をつけさせるのは問題ではないかという話だった。
その話を聞かされて思ったことを俺は口から溢してしまった。
「あほくさ」
「なに?」
俺の言葉を拾ってしまったボスは、顔を顰める。
やっちまったと思った俺は、さも当然だと言わんばかりに話す。
「確かに、コイツらにも問題があったかもしれん。それに、これからも問題を起こすかもしれない。だが、それを力づくで抑えてこそのボスではないのか?」
「なんだと?」
「言った通りの意味だ。コイツらに好き勝手されたくなかったら、ボスがコイツら以上の力を付ければいいだけだ。それとも、自信がないのか?」
「む?」
俺の軽い挑発。
ボスはボスらしくあろうとしているのを、俺は何となくの雰囲気で察している。
そう、ボスは常に集落のことを、群れのことを考えている。
そういう意味でいいボスだ。
だが、集落内で圧倒的な力を持っていなければいけない。
それは群れに与える安心感のためであったり、群れの秩序を守るための抑止力であったり、理由は多々あるだろうが、ボスは群れ内で強くあらなければいけない。
だから、俺の挑発にもしっかりと意味があるのだ。
ここで自信がないなどと言うならば、俺はこの集落に見切りをつけ、出ていくだろう。
それはボスも分かっている。
だから。
「自信がない訳ないだろうが!」
そう怒鳴るように言った。
その対応は大正解だ。
だが、俺の表情を窺おうとする視線をもう少し隠してほしいな、と思いながら、俺は修行内容を説明する。
「まず、ボスにやってもらうのは魔力感知。これは俺が手伝うから、川の方へ行くぞ」
「おう」
「んで、お前らの方だが」
俺は弟子二体の方を向いた。
ボスが近くにいることで表情が固いが、構わず言う。
「俺の家の近くにホーンラビット、つまりは俺が狩ってきた獲物の肉がある。それを持ち帰って自分の家で喰え」
「な?!」
なにやら、ボスが驚いているようだが、俺は続ける。
「喰ったら、一眠りしな。起きたときに感じることがあれば、修行をつけよう」
「分かりました、師匠!」
「師匠!」
いい返事を返した弟子たちはこの場を立ち去った。
ボスは俺のことを怪訝そうに見ていたが、努めて無視した。
「よし、ボス。俺らも行くぞ」
「おう」
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