第13話 二日経って
新しい朝が来た。
前回の悪知恵ゴブリンたちが起こした騒動からはおそらく二日ほど経った。
この二日間、俺は意識がなく、何も把握できていなかった。
それというのも、この前のホーンラビット二頭の魔石の摂取で意識を失っていたからだ。
何かしら、事件があったのか、それとも目立ったことは何もなかったのか。
そんな単純なことすら、俺は知らなかった。
まあ、外はいつも通りのだろう。
何かが起こって喧騒に包まれているわけでもなく、不自然に静かするわけでもない。
そんな普通な状況だろう。
のんびりとした動作で、俺は家を出る。
家と言っても、穴を掘って上に草木を被せた、寝るだけの場所だが……。
外に出て、俺は背筋をしっかりと伸ばす。
ぐーっとそれへ向かって腕を伸ばしていく。
天気もよく、少し清々しい気分になる。
「師匠、起きたのですね?!」
「師匠!」
先ほどまで清々しい気分は一気に吹き飛んだ。
俺に向かって師匠と呼ぶゴブリンの存在。
その事実が思いのほか自分に衝撃を与えたのか、俺は一瞬思考が停止してしまう。
そんな俺を訝しむ目の前の二体のゴブリン。
「師匠? ……っ、まさかまだ調子が悪いのですか?」
「師匠?」
目の前のゴブリンたちは俺を心配そうに見つめる。
一応は俺を師匠と呼び、慕ってくれているのか。
そんな風に思いながら、俺は口を開く。
「大丈夫だ。少し動揺しただけだ。で、お前らはなぜここに?」
俺はコイツらが俺の元へ来た理由が分からない。
だが、その答えはすぐに帰ってきた。
「そりゃ、もちろん俺たちの手で出来る魔物の仕留め方を教えてもらう為っすよ」
「師匠!」
特徴のないゴブリンは魔物を仕留めたいらしい。
意気込みは買うが、それに伴った実力がない。
そして、体格の良いゴブリンは師匠って言葉以外を話してくれ。
俺は深くため息をついて、目の前のゴブリンたちを諫める。
「まぁ、待て。いまのお前たちじゃ何もできないままに殺されるだけだ」
遠慮も何もない言葉だ。
この言葉を聞いて、目の前のゴブリンたちは何を思うのだろうか。
苛立ち? 悔しさ?
その二つとも違うかもしれないが、ちょっとした挑発に反発心を抱いて欲しいと思いながら、二人の反応を待つ。
「む?! なら師匠。どうやったら、俺たちで魔物を狩れるようになるんすか!」
「師匠!」
どうやら二体のゴブリンたちは少し怒ったようだ。
俺はその事実に安堵する。
もし師匠の言われた通りにすれば問題ないと思うようになってしまったら、俺がいないときにコイツらが成長しないかもしれないからだ。
少しの素直な性質と自立心、そして師匠への反発心。
この三つを持っていてくれたら、俺としても指導しやすくていい。
何なら、成長したあとに俺へ挑戦してくれればいい。
そうすれば、俺も成長できるかもしれないからな。
「お前たちが成長するには知っておかなければいけないことが多い」
「それは?」
「師匠?」
俺の話に前傾姿勢で聞いてくる二体のゴブリン。
向上心があって良いことなのだが、今回は躱させてもらう。
「それはボスと一緒に教えさせてもらおう」
「え?!」
「?!」
想像するよりもいい反応をする二体。
まさかこの前までカースト最底辺だったゴブリンがボスに何かを教えられるとは思わないだろうから驚くことは想定していた。
だが、ここまでの反応を見せるとは思わなかった。
現にいまも。
「ど、どうする? ボスに会うらしいぞ?」
「!!」
「そうだよな。俺たちみたいな下っ端があっていい存在じゃないよな」
「!!」
普通ゴブリンは大いに慌てている様子を見せている。
というか大柄ゴブリンは確かに話すのが苦手と思っていたが、本当に話さないのはどうなのだろうか……。
大柄ゴブリンのことは少し悩ましいが、今回は何も言わないでおこう。
これも個性として受け止めよう。
とりあえずは頷くなり、首を横に振るなりで意思表示を出来ているようだしな。
「さて、お前ら」
「「!!」」
俺の声にビクッと肩を震わせた二体。
俺はそんなにボスゴブリンに会いに行くのが嫌なのかを聞いてみた。
答えは案の定。
「嫌っす!! というか怖いっす!!」
「フンフン」
普通ゴブリンは即答し、大柄ゴブリンも賛同するように首をぶんぶん縦に振る。
お前、それ首が痛くならないのか、と思いつつも俺は言葉を重ねる。
「何でそんなに嫌なんだ?」
「それは……」
俺の質問に、口ごもる普通ゴブリン。
少しの迷いを見せた後、素直に話してくれた。
「師匠みたいに強かったら分からないかもしれないっすけど、ボスは近くにいると威圧感のようなものを感じるんす。息苦しいような、そんな威圧感っす」
普通ゴブリンの言いたいことが何となく分かった。
おそらくだが、この普通ゴブリンはボスゴブリンから発生している魔力を感じ取っているのだろうと思う。
俺は完全に制御下に置いているから、俺の魔力は感じないのだろうと思うが、ボスゴブリンの魔力は多いうえに垂れ流し状態だ。
そりゃ、普通のゴブリンは怖くて近づけないだろうな。
「お前も怖いと感じるか?」
「フンフン」
大柄ゴブリンに訪ねても、すぐに頷くことで賛同された。
どうやら、俺が思っている以上にこいつらは魔力に敏感なのかもしれない。
思ったよりも才能がありそうで期待できる。
なので……。
「まぁ、そんなに嫌がってもボスのところに行くけどな」
そう言って、俺は二体のゴブリンの腕をつかんで、引きずるようにボスのところへ向かった。
「「師匠――――!!!!!!」」
二体の抗議の悲鳴は聞かなかったことにして。
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