第11話 顛末の決着?

 勝負は一瞬で決着した。

 もちろん、俺の勝利という形で。

 これからは自分の実力を隠す気はない。

 そう決めただけで、こんなにも楽になるものかと思うほどの気分が軽くなった。

 やはり自分よりも弱い存在に頭を下げたり、胡麻をするという行為は、なかなかに自分の負担になっていたのだということを自覚する。


「……勝負あり!! 勝者は誰が見ても決まっている。他の者も納得いかない者はいないな?」


 俺の感傷を気にしてか、ボスは少しの時間を空けて勝利宣言をしてくれた。

 その宣言に反対するものは当然いない。

 結果は見ての通りだから、勝利宣言自体は必要なさそうだが、感謝は必要だろう。


「判定、どうも」


 俺が若干照れていることを察してか、俺の言葉に対してボスはニヤッと笑う程度だった。


 勝負の見届けをしていたゴブリンは一様に唖然とした様子だ。

 それはそうだろう。

 集落内最弱のように思われているだろう俺が、簡単にボスの傍にいたゴブリンを倒したのだから。

 

 呆気に取られているような雰囲気の中、俺はボスの元へと向かう。


「ボス」

「どうした?」

「同じゴブリンの肉を食らうのは抵抗があるか?」

「む? まぁ、少しは抵抗があるが……」

「そうか……」


 俺はこの決闘で死んだゴブリンの肉を食わせようと思っていたのだ。

 同族の肉を食らうというのは正直、俺も苦手だ。

 というのも、倫理観なんてものが全くない魔物だというのに、オーガのときから同族の肉を食らうのがどうも苦手なのだ。

 おそらくは夢で人間の生活を体験した所為だろう。

 魔物に倫理観など必要ない。

 むしろ、今回のような場合は邪魔にすらなる。


 そういう意味では、ボスの発言は意外だった。

 ボスは普通のゴブリンだというのに、倫理観でもあるのだろうか。


「ボスはどうして同族を食らうのに抵抗があるんだ?」

「あぁ、昔一口だけゴブリン肉が回ってきたことがあるんだが、どうも同族の肉の味が苦手でなぁ……。食うのに困っているような種族が言うような贅沢ではないのと思うのだが、頭は理解していてもどうもなぁ」


 やはり俺は異端なようだ。

 味が苦手って……。

 というかウサギ系の魔物以外にも魔物喰ったことあるじゃん……。

 まあ、一口だけだから影響はそんなに多くはないか。

 それにしても魔物を食べたことがあるらしいから、多くの魔力を吸収した弊害で味覚などが発達したのだろうか……。


「お前はどうしてそんな質問をするんだ?」

「ん?」

「いや、同族を食らうのがどうの、と言ってきたからだなぁ。もしかして、悪知恵ゴブリンの肉を俺に食わすのかと思ってな」

「ん? その通りだぞ?」

「ううん……」


 どうやら本当にゴブリンの肉は苦手らしい。

 というか、これまでのゴブリン生の中で同族を食ったことがあることに俺は驚いているのだが。

 俺はボスに今回の意図を説明する。


「ボスは魔物が進化するには何が必要か分かるか?」

「ん? 強さだろ?」

「それはそうだが……。魔物が魔物たるには魔力が必要なのは分かっているな?」

「何となくだがな」

「じゃあ、強くなるには魔力が必要なのは分かるだろう? つまり、進化するには魔力が必要なんだ。じゃあ、その魔力はどうやって取り込む?」

「喰らうってことか?」

「そうだ。自分と同格かより強い魔力を持つ獲物を喰らえば進化できると思われる」

「そうなのか?! そうなのか……」


 俺の言葉を聞いて、考え込むボス。

 そうして考え込んですぐに、ハッとした表情をした。

 どうやら、ボスはある事実に気付いたようだ。


「おい、俺は魔物を喰ったことがあるぞ?」

「そうだな。だが、ボスの魔力操作はまだまだだろう?」

「そうだが……」

「魔力操作が下手だとな、喰らった魔物の魔力が効率よく吸収できずに無駄にしてしまうのではと、俺は考えている」

「ということは、当時の俺は獲物を無駄にしてしまったのか?」

「いや、ボスの知力はそのとき以上に上がっているなら、何かしら身体に変化があったということ……。つまりは獲物を喰らったことに意味はあったといえる」

「ん? つまりは無駄ではなかったと?」

「そうだ」

「そうか……」


 ボスはほっとしたような表情をした。

 これまでに何回も話している通り、俺たちゴブリンにとって獲物はおおきな意味がある。

 食事を取れれば、明日を無事に迎えられる。

 その有難みや安心感を一番知っているのは俺たちゴブリンだろう。

 その考えはボスも一緒のはずだ。


「じゃあ、ボス」

「なんだ?」

「俺が言いたいことは分かるな?」

「ん?」

「魔物を喰らえば力が増す。それは同族であってもそうだ。そして、いま俺たちの前には、同じゴブリンの死体がある……。分かるな?」

「喰らえばいいのか?」

「そうだ」

「そうか」


 よほどゴブリンを喰らうのが嫌なのだろう。

 ボスは苦々しい顔をする。

 そして、大きく深呼吸した。


「よし、喰らおう」


 その言葉を聞いた俺は、大きな声で集落の皆に宣言する。


「集落にいる皆、聞いてくれ!!」


 俺の声によって、注目が一気に集まった。


「今回、俺が殺したゴブリンはボスに献上する、……あげる。本来なら皆のご飯の一部になっていたかもしれないが、ボスがより強くなるために、ボスに喰らってもらうつもりだ!」


 そこで言葉を区切って、集落内を見渡す。

 一定の理解を得られていることを確認した俺は、死んだゴブリンを持ってきて、ボスの前で跪く。


「ボスよ。我らが元同胞を喰らい、強くなってくださいませ!」


 俺は献上する様に、ボスにゴブリンを渡した。

 大きく頷いたボスは、ゴブリンを口元に持っていき、ぶちゅり、ぶつりと喰らいだした。

 

 ボスが喰らい切ったのを見た俺は、集落の皆に宣言する。


「これでボスはまた一段と強くなられるだろう。……用件は以上だ。では、解散!!」


 ボスの代わりに号令をかけた俺はすぐに彼の元へと向かった。


「ボス。おそらく魔力の摂取によって、このあと体調を崩されるはずだ。家の方へ戻った方がいい」

「分かった」


 今でも若干、体調が悪そうにしているボスは、俺の言葉を聞き、大人しく家と帰っていった。

 勿論、俺もやることはないので、帰ろうとした。

 が、俺の前には負け犬と化したはずの、下っ端二人がいた。

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