第10話 これまでの顛末の決着

 俺の問いかけへの答えを聞いた。

 ボスは進化する気満々らしい。

 だが。


「ボス」

「なんだ?」

「いまのボスだと死ぬ可能性がかなり高いと思う」

「なに?」


 ボスはじっと俺を見てくる。

 早く話を続けろと言わんばかりだ。


「進化するだろう方法の中で出来た方がいい技能、いや必須かもしれない技能がある」

「それは?」

「魔力の操作だ」

「なに?」


 ボスの表情がグッと険しくなる。

 それはそうだろう。

 ゴブリンは魔力的に劣っている種族。

 だからこそ、魔力という存在に気付きづらく、鍛えづらいのだから。


「ボスの身体にはしっかりと魔力が存在する。それも他の個体よりも多くある」

「それはそうだろう。一度とはいえ、魔物を食らっているんだからな。だが、俺に魔力というのが理解できるのか?」

「俺たちはゴブリンだ。だから、理解までは時間がかかるだろう。だが、ボスには他の個体より多い魔力がある。つまりは魔力を感じる可能性が高いという訳だ」

「なるほど。俺の魔力量が多いはずだと。だから、魔力も感知できるはずだと……」


 何がイヤなのか分からないが、ボスの反応が悪い。

 仕方なく、俺はボスに発破をかける。


「進化したくないのか?」

「したいに決まっているだろう!」

「なら何を迷っている?」

「いや、俺一人で魔力を感知できるだろうかと考えたら、どうも出来る気がしなくてな……」

「そんなもの俺が教えるに決まっているだろう」

「なに、いいのか?!」


 誰も手伝わないとは言っていないのに、いつの間にか自分一人でやらなければいけないように考えていたようだ。

 普通の魔物に、しかもゴブリンにそんな高難易度なことを求めるわけがないだろうに、と考えていたが、俺の言葉足らずなところが悪かったのだろうと気を取り直した。


「魔力を感知する方法を教えるうえで条件がある」

「俺が出来ることなら何でもしよう」

「その言葉を聞けて安心した。俺が求める条件は一つだ」

「なんだ?」

「あの悪知恵の働くゴブリンと生死をかけた勝負をしたい」

「なに?」


 俺の条件に、不快そうな表情を隠さないボス。

 だが、そんな反応を予想していた俺は、心外だとばかりに言う。


「俺が弱い者いじめをしたいと思っているのか?」

「そうだが」

「それは間違いだ。俺の獲物を奪った個体に罰を与えるのは普通だろう」

「それはそうだが……。結果の分かりきっている勝負に不快感を示すのはおかしいことではないだろう」

「では、こう言おう。あの獲物を奪われたせいで、俺の進化が遅れてしまっているとな」

「なっ!!」


 俺の言葉に、心底驚いたようだ。

 

「そんなに重大なことをしてしまったのか。それに、獲物はそんなに重要だと……」

「驚くのはかまわんが、どうするよ?」

「……」


 重い空気があたりに漂う。

 そして、深く深呼吸をしたボスは言った。


「今回の勝負、認めよう」

「そうか。なら、見届け人として、ボスは立ち会ってくれ」

「いや、集落の皆で見届けよう。どうやら、あのバカはすぐに逃げようとする小悪党のようだからな」


 そう言った瞬間、ボスは走り出した。

 ゴブリンの集中する場所に突っ込んでいく。

 数秒程待つと、ボスの手には悪知恵ゴブリンの首が握られていた。

 ずるずると悪知恵ゴブリンを引っ張って来る。

 苦しそうにもがいている悪知恵ゴブリン。

 どうやら殺されていたわけではないようだ。


「コイツと勝負したいんだったな?」

「ああ」

「そうか、了解した。少し待ってくれ」


 そう言うなり、ボスは集落全体に声が響くように言う。


「この集落にいるゴブリンたちよ!! これから決闘を行う!! 広場に集合せよ!!!!」


 あまりの大音量に、俺は耳を塞ぐ。

 至近距離でボスの声を聴いてしまったために、耳がキーンとしている。

 広場に移動し、耳の回復を待っていると、ゴブリンたちがぞろぞろと集まってきた。

 集落のほぼ全員が集まったと判断したのか、ボスは話し出す。


「今日、ある事実が判明し……、分かった。みなそれぞれに聞いたことがあるかもしれないが、俺の傍にいたゴブリンが獲物を横取りし、それを俺に献上……、渡していた」


 ゴブリンが不思議そうな表情をするたびに、ボスは言葉を選び直していた。

 若干滑稽で笑いそうになってしまった俺だが、出来るだけ表情を厳しくして保つ。


「横取りをされたゴブリンはある提案をした。横取りしたゴブリンと勝負したいと。それを俺は認めるにした。本来なら、同じ群れの仲間同士で殺しあうのはダメなことだ。だが、今回のことは許してはならないことだ。だから、今回の対応だ」


 出来るだけ理解しやすいようにボスは言っている。

 その甲斐もあり、何とか話の流れを理解できた集落のゴブリンたち。

 理解できたのを確認したボスは、俺と悪知恵ゴブリンを中央に誘導した。


「今回戦うのはこの二体だ」


 その言葉を理解したゴブリンたちの中で、ざわざわとした雰囲気を感じる。

 耳を強化すると、何となく内容が聞きとれた。

 どうやら、俺をバカにしている内容が多いみたいだ。

 まあ、俺は下っ端だったから仕方ない。


 でも、ボスは違うようで。


「お前たちがバカにしているゴブリンの力をしっかりと見よ」


 そう言って、俺と悪知恵ゴブリンを視界に収めた。


「勝負、始め!!」


 その言葉を聞いた瞬間に俺は、両足と右手を強化する。

 そして、思いきり地面を蹴った。


 俺の右手は悪知恵ゴブリンの首を断ち切っていた。


「勝負あり」


 ようやく俺の本当の実力を発揮できて、少しだけスッキリとした。

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