第6話 二度目の狩り
俺は近くにいるホーンラビットの方へと襲い掛かった。
自分の身体の中で魔力を加速させるのと同時に、前回と同様に両足と右手へと魔力を手中させる。
今回の獲物は二体もいる。
どちらか片方をより早く倒さなければ、俺は不利になってしまう。
絶対にここで仕留める。
その決心のもと、右手を鋭く突き出した。
結果は、俺の近くにいた一匹のホーンラビットの首は切り裂かれた。
体内の魔力量が前回より大幅に増えたせいだろうか。
俺の突きは、前回よりも柔らかい手ごたえをもってして獲物を貫いたのだ。
ここで、ほっと一安心と言いたいところだが、まだ一匹獲物が残っている。
俺の気が抜けたと思ったのか、はたまた仲間をやられて怒りが身体を動かしたのか。
もう一匹いたホーンラビットは、額にあるその角で俺を狙って駆け出していた。
俺にとって躱せるか躱せないかのギリギリのタイミング。
まさか、狙って攻撃してきたわけではないと思うが、何にしろ俺にとって都合の悪いことに変わりはない。
俺は纏う魔力の配分を瞬時に判断する。
いくら魔力を纏っていようとも、ホーンラビットの角で攻撃されたら俺の身体は簡単に貫かれてしまう。
もっと圧倒的な魔力と身体能力があれば、正面から角を捕まえて仕留めるのだが、そんなことはまだできない。
だからこそ、いま操作している魔力の大半を両足に回す。
そして、横っ飛びするように転がった。
結果は……。
「ッ!」
俺の左腕に角が当たってしまった。
ただ、もろに当たって貫かれたわけではなく、かすめるように当たってしまっただけで、大した怪我にはならなかった。
しかし、俺の腕から流れる血を目にしたとき、言いようのない恐怖が沸いてきた。
かすめただけだ。
死ぬわけじゃない。
だが、もし俺の胴体に当たっていたら……。
一瞬の間に、そう思考してしまった。
想像してしまった。
戦闘中に、目の前に敵がいるというのに、死を想像する。
そうした想像は一瞬の硬直を生み出す。
そして、敵はそんな硬直を見逃さない。
「キュッ」
聞くだけなら可愛い鳴き声。
そんな可愛い鳴き声からは想像もつかないほどの威力を角に秘めているホーンラビットは、俺の硬直を見逃さずに突進してくる。
自慢の角に絶対の信頼を持ってして。
俺はまたも全力で横っ飛びする。
飛んだ勢いが強かったのか、俺の身体はごろごろと転がった。
「ハァ……ハァ……」
数十秒ほどの出来事。
その時間の間に、俺の命の危険が二度もあった。
いま改めて思う。
なぜ、俺はゴブリンなんかに転生してしまったのか、と。
なぜ、こんなギリギリの戦いをこんな雑魚相手にしているのだろう、と。
なぜ、自然はこんなにも理不尽に出来ているのだろう、と。
俺がゴブリンでなければ。
俺が強ければ。
俺が集落の下っ端でなければ。
つらつらと頭に思い浮かぶのはネガティブなことばかりだ。
そんな俺の考えは敵に伝わるはずもない。
「キュッ」
はずもないのだが、このタイミングでホーンラビットは見下すように鳴いたのだ。
その鳴き声は俺を煽る意図など全くなかっただろう。
そんな思考をするほど、ホーンラビットは賢くもないはずだ。
だが、俺にとってその鳴き声は煽る意図があるようにしか感じなかった。
こんな弱い魔物程度に煽られた。
魔力操作の意味も理解できないような、本能で生きているような雑魚に……。
「ウオオオオォォォォ!!!!!!」
俺の口から自然と発せられたその音は。
狂いそうなほどの怒りを含んだその音は。
目の前にいる獲物を確かに怯えさせていた。
「ウガァァァァアアアア!!!!!!」
俺の目の前は真っ赤に染まっていた。
あまりの怒りに血が上り過ぎてしまったのかもしれない。
そんなどうでもいいことを考えているのに、身体は勝手に獲物を狙っていた。
いま扱える魔力をほとんど使用し、全身を覆い鎧のように纏った。
そして、微かながら感じたのは俺の魔石にある魔力が少しながら扱えていたこと。
身体は駆け出す。
獲物の首を狙って、命を狙って。
当然ホーンラビットも抵抗するために角を俺へと向ける。
だが、震えを隠すことも出来ないほどに、ホーンラビットは怖気づいてしまっていた。
プルプルと震える身体で、ホーンラビットは俺へと突進する。
俺もまた獲物へと向かって突進する。
普段の俺なら冷静に相手の動きを見て、カウンターを狙うだろう。
だが、俺の理性や意識とは無関係に、俺の本能が身体を動かしてしまっている。
そして、ホーンラビットの角と俺の身体が接触した。
これまでの俺なら、角の威力に抗えずに身体を貫かれてしまうだろう。
だが、今回は。
「キュ……」
俺の両手が、ホーンラビットの角をがっしりと掴み、勢いを殺していた。
俺の腕がゆっくりと持ち上がる。
ホーンラビットの抵抗を許さずに。
俺は両手を離す。
そして、右手の指を揃え、より鋭利になるように魔力を纏い、突き出した。
俺の右手は静かに落下する敵の首を切り裂いた。
溢れでる血をそのままに、俺は少しの間立ち尽くした。
ゆっくりと怒りの感情が引いていき、徐々に冷静になっていく。
いまの状況をゆっくりと確認していると、沸々とある感情が沸いてくる。
これは喜びだ。
獲物を二頭とも仕留めたことに対する喜び。
生き残ったという喜び。
自然と溢れた喜びは声となって現れる。
「っしゃぁぁぁぁああああ!!!!!!」
この日、俺はまた一段自分が強くなったことを感じた。
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