第4話 魔石の影響

 意識の覚醒前特有の気怠さに包まれている。

 この気怠さを俺は、はっきりと記憶できない。

 でも、俺はこの感覚を知っている気がする。

 オーガとして生まれ、死に、何回も転生を繰り返した。

 そんな転生を繰り返した生の中で、こんな感覚になったことはない。

 ないはずだが、俺はこの気怠さを知っている。

 そう、この気怠さは自分の中の魔力が急激に上昇した感覚だ。

 ぼんやりとした思考は、徐々にはっきりとしてくる。

 そして、俺は目を覚ます。


「……!!」


 意識がはっきりとし、完全に覚醒した。

 目を覚ました俺は、周囲の確認をする。

 周囲の状況を確認しながら、意識を落とす前の状況を思い出す。

 

 ホーンラビットを倒してことは、はっきりと覚えている。

 せっかく倒した獲物を奪われたのも覚えている。

 獲物を喰らえなかった俺は何をした……。

 そうだ。

 魔力を増やすために、魔力の貯蔵部である魔石を喰らったんだ。

 そのあと、強烈な熱に襲われ、さらに耐えられないほどの眠気に意識が遠ざかっていたんだ。

 

 すべてを思い出したのと同じくして、周囲の状況確認もある程度済んだ。

 俺が意識を落とした場所で変わりなかった。

 どれくらいの時間、俺が意識を落としていたのかは分からない。

 だが、身体に異常がないこと、記憶していた場所と変わっていないことから、敵に襲われるようなことはなかったと分かった。

 

 少しの気怠さに身体の動きがわずかに鈍るが、次に確認しないといけないことがある。

 それは魔力の確認だ。

 

 俺は意識する。

 自分の胸の中心に埋まっているだろう魔石を。

 さらには、魔石のすぐ傍にある臓器、心臓を。

 魔力の貯蔵部である魔石には、確かにこれまで以上の魔力を感じる。

 次はより詳しく心臓を意識する

 心臓から循環される血液には、確かに魔力を感じる。

 だが。


「おかしい……。循環している魔力が少ない」


 魔石に貯蔵されている魔力に比べて、循環している魔力の量が少ないのだ。

 この貯蔵されている魔力を血液に乗せることが出来れば、俺の身体能力が上昇するだろう。

 そう確信できるほどに、魔力が貯蔵されているのだ。 


 魔力は魔物を形成する上での重要な要素。

 これまでとは比較にならないほどの魔力を秘めている魔石。

 この魔石の魔力をうまく扱えるようになれば、自分の強化はもちろんのこと、自分の強さを偽ることが出来るのではないか。

 そうすれば、自分の生存能力が上がるはず。

 自分を偽り、いざというときに本気を出し、敵を倒す。

 そういう姿が俺の目指す理想形なのでは、と思い始める。

 思いついたなら、即行動。

 俺は、魔石から魔力を練り出し、血液と共に循環するイメージで魔力操作を始めた。




 魔石を摂取してから、日が三度ほど上がった。

 俺はいまだに魔石の魔力を上手くコントロールできなかった。

 貯蔵部から魔力を出すだけ。

 そう考えていた俺は、魔石の魔力について甘く考えていた。

 血液中の魔力を上手く扱えるのだから、貯蔵部の魔力ぐらい簡単に動かせると。

 だから、上手くコントロールできなかった時、自分がなぜ魔力を上手く練りだせないのかを考えた。

 そこで、大まかにだが思いついた原因は二つ。


 一つは、ゴブリンという存在がそもそも魔石の魔力を意識するほど、魔石に魔力が溜まらない種族だったこと。

 これはすぐに検討がついた。

 なぜなら、俺がゴブリンに転生してから、血液中の魔力操作ばかりに意識が向いていたからだ。

 そして、そのことに疑問を持たなかった。

 本来なら、魔石の魔力を操作することなど、より強力な種族だったら呼吸のように出来るのだから。

 俺がゴブリンになってから、全くというほどの魔石の魔力を感じなかったのだ。

 それならば、経験のない魔石の魔力の操作など簡単に出来る訳もない。


 二つ目は、魔力の上昇幅が大きすぎたことだ。

 これは正直予想外だった。

 魔石を摂取したのは魔力を増やすためだった。

 だが、ゴブリンという種族は思いのほか、魔力を持たない種族だった。

 ホーンラビットの魔石を摂取するだけで、これまでの魔力の倍以上に魔力量が増えたのだから。

 だから、血中の魔力をコントロールするという基本から修練し直すことになった。

 基本が出来ていないのだから、貯蔵部から魔石を練り出すことなんて夢のまた夢だ。


 以上の二つがすぐに思いついた原因だ。

 これらをどう克服するか。

 そんなもの、修練以外にない。

 そう結論付けてからというもの、俺は血中の魔力操作から修練し直している。

 たまに、思い出したかのように、貯蔵部への魔力に意識を向けている。




 以上が魔石を喰らってからの三日で把握できたことだ。

 そして、三日もあれば、集落の様子も少し変わるというもの。


 きっかけは俺がホーンラビットの肉を持って帰ったこと。

 そして、集落のボスがホーンラビットの肉を奪ったことから変化が起きた。

 ボスはホーンラビットの肉を美味に感じたらしく、集落の配下達に他種の魔物を狩ってくるように命じたのだ。

 もちろん、集落の下っ端である俺にも狩ってくるように命じられた。

 まぁ、俺が最初に肉を持って帰ってきたから当たり前なのだが……。


 ただ、最初に肉を持って帰ってきたというのは思いのほか、ボスの中で評価されていたらしく、俺の狩りに出る頻度は五日間に一回で良いそうだ。

 群れのボスなら逆に欲張って、毎日取ってこいと言うかと思ったのだが、少しは頭が回るらしく、俺の力量が図れないことに警戒したらしい。

 というのも、まだホーンラビットを狩れたゴブリンがいないらしい。

 だからこそ、俺の力量がわからない。

 故に、不満を溜めて、反乱されないように、俺の狩りの頻度を下げたのだろうと思う。


 そういった経緯から、俺は以前よりも魔力の修練に時間を確保できるようになった。

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