1章 修練するゴブリン編

第1話 現在への経緯

 俺は死ぬことと生き返ることを繰り返した。

 この現象を何というんだったか……。

 そう、確か転生だ。

 俺は転生を繰り返していたのだ。


 俺が覚えられている範囲では、元は俺がオーガだったことを覚えている。

 今はゴブリンだが、当時は強く逞しいボスだったように思う。

 オーガとして立派に群れをまとめ、圧倒的な力を持ってして反乱を許さなかった。

 そんなボスになれていた。


 それが現在では。

 人間の腰ほどの背丈に、肌は黒く、オーガの劣化のような小指ほどの角。

 何より、知能のかけらもないのか殆どの個体は全裸。

 そんな矮小な存在であるゴブリンになっていた。

 そして、今の俺は。


「おい、早く飯を取ってこい」


 使いっ走りのようなことをさせられている。

 それには理由がある。

 俺はゴブリンの中では異端だった。


 まず、ゴブリン以外の種族の言葉が話せる。

 罠を使った狩猟の知識がある。

 人間から奪った武器の扱いが分かる。


 その三つの所為か、俺は群れの中で特別視された。

 そう特別視された故に、これまで何度も殺されていた。

 

 最初、ゴブリンに転生したときは、ゴブリンの群れという小さなコミュニティで特別に強かったことで調子に乗り、人間に簡単に殺された。

 次もまたゴブリンだった。

 死んだ理由は簡単。

 俺の知識の源がどこか分からなかったから、不気味だと言って、殺された。

 その次もゴブリンだった。

 そして、そのまた次もゴブリンへ。

 さらに次もゴブリンへ。


 オーガからゴブリンに転生し、その後の転生先はゴブリンが多くを占めた。

 時にはスライムだったり、狼系の魔物であるウルフだったりもした。

 でも、オーガほどの強力な種族に転生したことはなかった。

 何度も弱者に属する種族に転生するたびに、俺の心は擦り切れていった。

 転生する頻度が多かったからだ。

 酷いときには、転生した当日に殺されることもあった。


 そんな風に転生を繰り返すうちに、俺は一つの考えにたどり着いた。

 転生前の知識があることを披露してはならない。

 そう考えた。


 なぜ、そんな答えに至ったか。

 転生先のまとめ役たる個体の考えが分からないからだ。

 気づいたら簡単なことで、俺のように特異な個体は群れの中では不穏分子になり得るのだ。

 だから、胆力のあるリーダーがいない限り、不気味故に、特殊な個体を殺すのだ。

 それも特殊性が強い個体ほど、間引かれる可能性が高い。

 自分の理解できる範疇にいない個体ほど、怖く感じるということだろう。


 そうして、俺は転生前の知識を披露せずに、いまのゴブリンの群れで生を授かった。


 俺は今回の生は普通のゴブリンとして生きよう、そう決意した。

 人間の武器は扱えない振りをして、ゴブリンの中でしか通じない言葉を使い、狩猟の知識も出来るだけ利用しない。

 そういう風に生きていた。

 だが、ここで俺の普通のゴブリンとして生が変わってしまった。


 群れのボスが変わったのだ。

 というのも、いま所属しているゴブリンの群れは広大な森の中にあるのだが、別の群れのゴブリンと縄張り争いをしていたらしい。

 らしいと曖昧な表現なのは、俺が臆病な個体を演じていた為に、戦闘に積極的に参加しなかったからだ。

 結果、俺のいた群れは別の群れに吸収された。

 

 ボスが変わって、一番にしたことは吸収した群れの個体を奴隷のような位置にいると見せしめにすることだった。

 俺たちがもともと所属していた群れのボスの取り巻きを、群れの皆がいる前で殺したのだ。

 俺の方が偉い、俺の方が強い、お前たちは奴隷、お前たちの反乱を許さない。

 そういったことを、新しいボスは言い放った。

 

 正直、俺はボスのその行動に驚いた。

 俺がオーガだったころに、似たようなことをしたことがあるからだ。

 だが、いまは種族が違うし、俺がオーガだったころはここまで苛烈なことはしなかった。

 その結果、群れの中では怒りを伴うストレスが溜まっていった。


 さて、そのストレスはどこへと向かうのか。

 答えはより弱い個体へ向かうだ。


 そう、俺がターゲットにされたのだ。

 そうした結果、今の使いっ走りの地位に俺がいるという訳だ。




 俺は今日もまた、群れの食料を探す。

 他の個体はどうせ適当に済ませるだろう。

 その結果、乱暴されるのは俺だろう。

 だから、俺は狩猟の知識を使って、群れの連中に知識のことがバレないように地道に獲物を確保していく。


 今の生活は、俺にとって不満しかない。

 同じ群れの個体から下に見られるし、特に目立った力もないくせに顎で使われる。

 その状況に、俺は散々だった。


 だから、俺は密かに始めたのだ。

 オーガだったときに使っていた不思議な力、魔力を扱えるようにすることを。

 

 今日明日に必要そうな獲物を、群れの連中にバレないように保存する。

 より保存が効くように、川で血を抜く。

 その血を抜いているときから、俺の修業は始まる。


 最初は、自分の中に確かにある魔力を感じるところから始めた。

 オーガだったときほど、すぐに魔力の存在を感知できなかったし、滑らかに魔力は動いてはくれない。

 だからこその修業。

 オーガだったころの記憶を頼りに、魔力の効率の良い扱い方を修練していく。

 自分の左胸あたりに感じる鼓動を聞きながら、そこから流れる血と魔力の流れを感じ取っていく。


 魔力を感じ取りながらも、獲物の処理は続けていく。

 俺の群れはそこそこ大きい。

 それもゴブリンという種族の所為だと思っている。

 というのも、ゴブリンは多産であり、また成長が早いのだ。

 ゴブリンは生まれて半年ほどで、成体へと至る。


 今の群れに所属している個体数は、五十体はいるはずだ。

 俺のところまで、食事が届くようにするには多くの食料が必要だ。

 といっても、身体の小さいゴブリンだ。

 イノシシなんかの獲物を一頭でも解体できれば、十分の食いでになる。


 俺は魔力の操作を練習しつつ、獲物の処理を続けていった。

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