プロローグ2-4

 群れに戻った俺は、今後の方針をどうするかを群れで会議することにした。

 オーガは喧嘩っ早い種族だ。

 会議をするときも喧嘩をしてもいいように、外だ。

 まずは、俺が持っている情報を話すことにした。


「まず、俺から話すが、人間にガキが二体連れていかれた」


 俺の発言に集まっているオーガがざわざわと騒ぐ。

 ここに集まっているのは、俺以外に五体居る。

 内訳は、力を信奉する種族らしく、俺を除く群れの中で上位三体の個体と、群れの中で最年長の個体一体、そしてメスの個体のまとめ役一体の計五体だ。


 今いる中で他より身体が大きく、一番強い個体が怒りの表情を浮かべ、俺に迫る。


「ボスともあろう方がガキを連れていかれたんですかい?」

「ああ」


 俺の簡素な返事に、さらに怒りを溜める。


「ボス」

「なんだ?」

「アンタをボスたらしめるのは力があるからでさぁ。それもオーガの中で異常と言えるほどの力」

「そうだな」

「そのアンタが易々と出し抜けられたんですかい?」


 一位の個体の質問に、周りの個体は口を閉じる。

 屋外で会議をしているというのに、閉塞感を感じるのではと思うほどに緊張感が高まる。


「ああ。言い訳するつもりはねぇ。ガキを連れていかれ、人間に逃げられたのは俺の所為だ」

「そうですかい……。で、ボス」

「なんだ?」

「どうするんですかい?」

「なに?」


 思わぬ質問に、俺は呆気に取られてしまった。

 何故なら、力が全てのオーガが圧倒的な力を持ちながらも、獲物を逃がしたのだ。

 その責任は重い。

 何なら、この群れにいる個体すべてが反逆してくるもんだと思っていた。


 俺の表情を見て、一位の個体は察したらしい。


「ボス。森でのアンタの咆哮はこの群れまで聞こえていやした。怒りに満ちた、そんな咆哮を。だから、俺たちは何となく察していました。ボスが出し抜かれたんじゃねぇかって」

「そう、俺は失敗した。お前らのボスだというのに……」

「俺たちを見くびってもらっちゃあ困りますぜ。俺たちはボスの圧倒的な力に惹かれて集まったんでさぁ。ちょっとやそっとの失敗で俺らがボスを見限る訳ねぇでしょ。なぁ、お前ら?」


 一位の個体の問いに、話し合いの中心にいる残りの四体は勿論のこと、周りで窺っていた個体も頷き、吠え、賛同する。

 俺は俺が考えているよりも、群れの個体たちの気持ちを掌握出来ていたらしい。

 それが素直に嬉しい。

 常に何かを考えるようなオーガらしくない個体の俺に、群れの皆がいることに感謝の感情が沸いてくる。

 そう、この群れのボスは俺だ。

 なら、ボスである俺は方針を示さなければ。


「お前らが俺のことを見限らねぇってなら、ガキどものことを話すぞ。まず、ガキたちを迎えに行くのに反対するもんはいるか?」


 全員が首を振る。

 群れのみんなもガキのことを迎えに行きたいらしい。

 なら、どうやって人間からガキを奪い返すか、だ。

 だが、そんなことを話し合う必要はない。

 脳みそまで筋肉のオーガなら、やることは決まっている。


「お前ら、人間の街に強襲すっぞ」


 俺の判断に、最年長個体とメス代表個体は素直に頷く。

 逆に、強さで選ばれた個体たちは不思議そうな顔をする。

 そんな様子に俺が疑問を呈すると。


「いや、ボスは絶対的な勝利を欲するもんだと思っていやしたので、人間の街を直接強襲するとは思わず……」


 俺の戦いを間近で見た個体ほど、俺は慎重派であることを知っているらしい。

 だからこその力のある個体たちの表情だったのだろう。

 そんな考えに至ることは俺も理解できる。

 普段の俺ならそう考えるだろう。

 だが。


「お前らの考えは分かっているつもりだ。普段の俺なら作戦をチマチマ考えているだろう」

「なら、なぜでやすか?」

「簡単だ。俺のプライドを、誇りを傷つけられたからだ!」


 思わず、俺の身体から魔力が噴出する。

 俺の怒りの感情に触発されるように、魔力は量も圧力も増していく。

 

「あンの野郎、俺を相手に中途半端な余裕を見せやがってきたんだ! 許せるわけもねぇだろうがよぉ! あの人間は俺の獲物だ。今度は絶対にぶち殺してやる!!」


 俺から発せられるあまりの気迫に、メス代表と最年長個体は顔色を悪くする。

 強さで選ばれた個体たちも緊張感を隠せないでいた。


「ボス、怒りを治めてくだせぇ。俺らにはちとキツイもんがありやす」


 一位の個体が身体を固くしながら言う。

 俺は周りの様子をしっかりと確認したあと、荒ぶる魔力を収めた。


「すまねぇ。少し制御が乱れた」

「いえ、大丈夫でさぁ。それよりも、人間の街を強襲するって言われやしたが、何か作戦などはありやせんか?」


 街という敵の拠点を攻めるのは、さすがのオーガでも考えを巡らしたいらしい。

 だかえあ、俺はもともと考えたことを言葉にした。


「今回、わざわざ街を強襲しなきゃいけねぇ事態になったのは俺の所為だ。なら、俺が俺のケツを拭かねぇでどうするよ?」

「まさか……」

「おう。俺が正面から街を強襲する。その隙に何匹かに別れて街の中を蹂躙してやれ」

「いや……。いやいや、何言ってんすか、ボス!」


 俺の作戦ともいえない作戦にすかさずツッコミが入る。

 俺も今回の作戦はどうかと思う。

 だが。


「俺にも考えがあんのよ」

「っと申しますと?」

「俺が逃がした人間。アイツ、戦い方に寄っちゃ俺を殺せる相手だ」

「ッ!!」


 俺の発言に、話を聞いていたオーガ全員が身体を固くした。

 そして、反発が来る。


「そんなまさか! ボスを殺せるなんて……」

「力があるだけだ。普通に戦えば、俺が勝つ」

「ですが……」

「ああ、もう。ぐちぐちとうるせぇ。そんだけ力のある個体がいるから、俺が注目を集めるつってんだ」

「それは……」


 少しの沈黙。


「確かにボスにしか任せられませんね」

「だろう?」


 最終的に行きつく結論はそこだった。

 俺の力をある程度知っているからこその結論。

 

「ボスにしか相手できねぇなら、仕方ねぇです。ですが」

「なんだ?」

「俺はボスについていきやす。他の連中に蹂躙は任せやしょう」


 じっと俺の目を見て、そう宣う一位の個体。

 目を逸らさず、俺の答えを待つ。


「しゃーねぇ、お前は連れて行くわ」

「ありがとうございやす」

「っし。じゃあ、人間の街を強襲するぞ。時間帯は人間が混乱するだろう時間。……そうだな。夜明け少し前にするぞ。今からでも十分間に合うだろ」


 俺の言葉に、群れの個体が頷く。

 

「あと、ガキとメス二体、年寄りはこの集落に置いていくぞ。連れて行っても、ガキと年寄りが心配だ。選出は任せる」


 メス代表個体に言った。


「他は全員強襲だ。俺が突入して派手に暴れてやる。他の入り口から街を襲え。いいな?」

「「「「うっす」」」」

「よっし、全員戦闘の準備が出来たら、それぞれに街へ迎え」


 全員が行動し始めた。

 俺は武器なんかを使わないから、先に一匹で街へと向かい始めた。

 後ろにはいつの間にか、一位個体がいた。


 俺たちはゆっくりと街へと向かった。

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