第116話 再会と出立


「フェラクリウス!!」


屋敷に着くや否や、庭園で訓練していたカートが二人を出迎えた。


久々の再会。


屋敷での滞在最終日である事と、跳虎チョウコ跋虎バッコを討伐してくれた事を祝い、使用人たちが豪勢な料理を振舞ってくれた。


李吉の口から語られたフェラクリウスの武勇伝はだいぶ大袈裟ではあったが、宴会を盛り上げた。


屋敷に残ったカートも、自分が学んだことや出会った人の事を話した。


カートは使用人たちとすっかり打ち解け親しくなっていたようだ。


「それで、フェラクリウスたちはこれからどうするんです?

 カートキリアに戻るんですか?」


李吉の質問をきっかけに、カートが思い出したようにフェラクリウスへ提案する。


「それなんだがな、フェラクリウス。

 実は行ってみたいところがあるんだ」


カートはフェラクリウスに海騎カイキとのやり取りを説明した。


「操氣武術の道場か。

 確かに、興味があるな」


「実際に自分で操氣術を学んで、

 如何にこれが重要な戦闘技術であるかを知った。

 せっかく鸞龍ランリュウが伝えてくれた技術を

 カートキリアに持ち帰るためにも、

 もう少し知っておきたい」


よし、行ってみよう。


フェラクリウスは即座に決断した。相変わらずフットワークの軽い男である。


次の目的地は“敬龍館ケイリュウカン”なる、海騎が師範を務める道場に決まった。




翌日。


使用人たちに挨拶し、屋敷を去る。


カートは涙を流して別れを惜しむ使用人の女性を慰めていた。


どれ程親しい関係になっていたのだろうか。


それを見ているフェラクリウスにも思うところはたくさんあった。


色んな感情がぐっと込み上げてきたが、一回り以上歳の離れた若者に嫉妬するのはみっともないので我慢した。


大人の辛いところである。


李吉ともここで別れる事になった。


彼はこれから勉強して経験を積み、鸞龍ランリュウ直属の諜報員“千里眼”になるべく訓練に励むのだ。


「世話になったな、きっちゃん」


「こちらこそ!

 フェラクリウスもカート様も、

 またいつでもいらっしゃってください!」


李吉は胸の前で手を合わせて、ヘルスメンと同じように右拳を左手で覆った。


これは相手に敬意を示す挨拶なのだという。


「どこか他の国で会ったとしても、

 僕が千里眼だってバラさないでくださいね!」


「それは…事情によるけどな。

 まぁ、これからも仲良くやっていけるといいな」


カートの立場上、自国で諜報活動を行われるのを見逃すわけにはいかない。


ヘルスメンも、手紙の内容次第では非常に重い刑に処される可能性もあったのだ(もっとも、鸞龍ランリュウが手紙にスパイの証拠を残すとは思えないが)。


だが、まぁ、きちんと筋を通してこちらの了承を取るのであれば…許可さえとればよしとしよう。


心情としては、出来ればバレないようにやっててほしいところだが。


「じゃあな、きっちゃん。

 また会おう」


西城サイギの街を去っていくフェラクリウスとカート。


街道を通り、向かうは北。


海騎の待つ、操氣武術“龍形掌リュウケイショウ”の総本山“敬龍館ケイリュウカン”。


そこでは過酷な選択がフェラクリウスを待ち受けていた。

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