第106話 相共鳴


「大丈夫、フェラクリウスは負けませんよ!!」


「…多分ね」


李吉の激励にそう答えながらも白姫ハクキには懸念があった。


跳虎の防御を貫通する程に強力な発剄。


周囲を揺るがす程の氣を大地から吸い上げるには凄まじい体力を消耗するはずだ。


それも初めてで慣れていない技。


先の戦いによって疲弊していることは間違いない。


疲労は全身の動作速度・精度に影響してくるだけではなく、集中力を妨げる。


いまフェラクリウスはどの程度のコンディションでいるのか。それを自覚しているのか。


睨み合う二人の超越者。


武器のリーチは圧倒的に跋虎バッコが有利。


フェラクリウスからは仕掛けにくい状況にあるが、長兵器の性質上、潜り込む事は不可能ではない。


その隙を作る動きをするか、それとも相手から動くのを待つか…。


既に駆け引きは始まっている…のだが、跋虎は薄ら笑いを浮かべてこちらに語り掛けて来た。


「ワクワクするよなあ?

 フェラクリウス」


ピクリ、とフェラクリウスが反応を見せる。


こちらの隙を作るために仕掛けて来たのか。不意打ちに備える。


「今はまだ、お互いを良く知らない。

 だがこの武器と武器が接触した刹那。

 俺たちは“全て”を理解し合う。

 その一瞬、たまらなく“悦び”を実感出来るんだよ」


トラッシュトークで相手の意識を散らす作戦だろうか。


そうではない。純粋に楽しんでいるのだ。


強者どうるいと戦える、この瞬間を。


「跋虎。俺は別に戦いを楽しみにして

 決闘を受けたわけじゃない」


嬉々として共感を求める跋虎を、フェラクリウスは否定した。


「ここで俺が決闘を受けなくても。

 お前は同じことを繰り返す。

 殺して殺して、最後に自分が殺されるそのときまで」


相手の目を真っ直ぐに見据えて、恥じる事無く自らの覚悟を語る。


「だから俺がここで断ち切る。

 お前が満足いく形で

 終わらせる事が出来るようにな」


「ん~?」


跋虎はあまり納得いかないように首を傾げた。


むしろその話に納得したのは、李吉と白姫ハクキの二人。


何故無意味な決闘を受けたのか。その明確な答えを聞けたことで安心した。


根っこをバキバキに滾らせているが、この男の根幹にはせいぎがある。


関わった時間は僅かだが、彼らはフェラクリウスに厚い信頼を置いていた。


「まぁ、わからんこともないぜ。

 嘘ではないんだろうがよお。

 難しい理屈はここじゃ無しにしよう」


跋虎は窘めるように緩い口調で語り掛けてくる。


「全然かまわねえよ、理由はな。

 でもなあ。それとは別なんだよ。

 いいんだぜ、戦いは楽しんだって。

 それがよお、強者の特権って奴だろ?」


次の瞬間。


前触れなく突如として跋虎が凄まじい殺気を放った。


猛獣が威嚇するような激しいプレッシャーに、傍で見ていた二人はその迫力に全身の筋肉が硬直する。


フェラクリウスだけは一切怯む事無く、相手の動きのみを見ていた。


真っ直ぐに矢が走るように、跋虎は相手の喉元目掛けて渾身の突きを放った。


相対するフェラクリウスは殺気に気を取られず、跋虎の重心が前に向かってくる動作を捉えていた。


瞬時に左へ回避。方天戟の柄に武器を当て、敵の攻撃をそらす。


受けて、捌く。ここまでは完璧。


そのまま武器を柄に滑らせて一気に懐に入り込む!!


が。


フェラクリウスの足元から地面が離れてゆく。


かと思うと、次の瞬間にはフェラクリウスの巨体が宙を舞っていた。


身長と同じ高さまで浮き上がったフェラクリウス。


空中で姿勢を立て直し、跋虎の間合いから離れた位置に上手く着地する。


跋虎はそれを見て満足そうに笑っている。


追撃は無い。


何が起きたのか。


柄を伝って懐に潜り込むより先に跋虎が方天戟を無理矢理振り上げ、フェラクリウスを空中へと打ち上げた。


突きを繰り出した直後だというのに、百キロを超える巨漢フェラクリウスを、いとも容易く。


恐るべき剛腕。恐るべき足腰の強靭さ。


「いいねぇ…痺れるぜ…」


美食を堪能するように、跋虎は天を仰いで身震いした。


「どうだい、フェラクリウス!!

 超越者同士の戦いってのは痺れるよなぁ!?」


さらに強く煽ってくる跋虎に対し、フェラクリウスは。


「跋虎…」


命のやり取りのさなかだというのに、彼もまた不敵な笑みを浮かべた。


「面白い…!!」

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