第104話 普通の感覚


「うちの親は商人でよお。

 割と裕福に暮らしてた。

 俺ぁガキの頃から腕っぷしが強くてなぁ。

 しょっちゅう喧嘩に明け暮れて問題児扱いされてたよ。

 でも当然だろ?誰とやっても勝てるんだから。

 楽しくて仕方ねえんだよ」


跋虎が自身の過去を語り始めた。




ただまぁ、問題ばっかり起こすもんだから、家族も含め周囲の誰からも疎まれてたよ。


ただ一人を除いてな。


それが俺の唯一の理解者である姉貴だった。


姉貴は後妻の連れ子でな。


俺が言うのもなんだが不ッ細工だった。


だが面倒見がよくて誰とも分け隔てなく接するから周りの人間からは割と愛されてたんじゃねえかな。


俺も姉貴が好きでな。


まぁ姉貴くらいしかまともに話せる相手がいなかったんだが。


血が繋がってないせいかあのブスな顔もかわいく見えてくるんだよ。


ある時姉貴がこう言ったんだ。


この国で一番強い男と結婚したいってな。


身の程を知れってんだよな。


鏡見た事ねえのかってよ。


で、俺はこう聞いた。


俺が世界一強くなったらどうするってな。


そしたらあのブスなんて言ったと思う?



『二番目に強い男と結婚するわ』



あの女は強い男がタイプだったんだろうな。


でも姉貴にとって俺はただの弟でしかなかった。


いや、俺だってよお。姉貴と結婚出来るとは思ってねえよ。


でも俺が一番強くなったら、俺より弱い奴と姉貴が結婚する事になるだろ?


それは流石に気に入らねえだろ。


だから俺はよ。とりあえずこの国で一番強くなる事にした。


国をまわりその土地土地で一番つええと言われてる奴に決闘を申し込んで、一人ずつ殺していくことにしたんだ。


どうよ、これ。


そうすりゃ、その土地で俺が一番強くって、二番目に強い奴を殺した事になるだろ。


まだ十年は経ってないか?アンのクーデターが起きた後は楽だったよ。


各地で名をあげた猛将と呼ばれる奴に挑戦するだけだからな。


超越者の名は知られていたから、なるべくそいつらを積極的にぶっ殺しに行った。


3人殺したところで、俺の首にかけられた懸賞金は過去最高額になった。


さらに3人殺したところで、懸賞金は無くなった。


だから今は自由にやれてるよ。雑魚が絡んで来る事も減ったしな。


でもな、カタギに手を出した事はねえ。それは今も昔も一緒だ。




最後まで黙って聞いていたフェラクリウスが問いかける。


「今のお前について、

 姉はなんと言っているんだ?」


「姉貴は死んだ」


!!


「あなた、まさか自分の姉を…」


「馬鹿野郎、俺が殺すかよ」


白姫ハクキの疑念を跋虎は一笑に付した。


「姉貴はそこら辺の軟弱な、優しいだけが取り柄の男と結婚したよ。

 そんでガキ三人産んで勝手に病死した。

 気は強えぇけど体は弱かったからな」


「だったらもうこんな事続ける意味無いでしょ!?」


「意味なんか必要ねえよ。

 俺ぁずっとそうやって生きて来た。

 ただなぁ。一度始めたことを途中でやめるってのはこう…。

 寝覚めが悪りぃ。お前らだってそうだろ?

 普通の感覚だよ」


彼にとってもはや決闘が生きがいになっているのだろう。


一つ、フェラクリウスが引っかかっていた点を口にする。


鸞龍ランリュウとはやらないのか?」


その質問に、跋虎はうんざりといった様子で頭を掻きむしった。


「出たよ。この話をすると誰もが

 必ずその名前を持ち出してくる。

 俺だってやりてえんだがなぁ、

 逃げ回る奴の事はしょうがねえだろうが」


恩人を悪く言われたことが気に障ったのか、李吉が叫ぶ。


鸞龍ランリュウ様は逃げないですよ!!」


「あの人はこの国の宝。

 あなたとなんて戦うわけないでしょ」


白姫ハクキも彼の意見を支持する。


だがこの反応もお決まりのようで、聞き飽きた跋虎がフェラクリウスに問い返す。


「ほおら、これが信者の弁だ。

 お前はどう思う?」


フェラクリウスは自身が対面した感覚をそのまま口にする。


「…あれは俺より強いぞ」


跋虎は少し意外そうな表情を見せ、それからいくらか満足げに口元を歪めた。


「ふう~ん、そりゃいいね。

 あんまり逃げ回るもんだから、

 実は大したことねえんじゃねえかと思っていたが…

 次が楽しみになってきたぜ」


で、だ。と言って跋虎が世間話を継続する。


「お前の事も聞かせろよ。

 お互い殺してから『あいつ何者だったんだ』じゃ

 スッキリしないだろう」


「俺はフェラクリウス。

 童貞を捨てるために旅をしている」


それを聞いた白姫ハクキは口をあんぐり開けて目を点にした。


彼女自身、フェラクリウスが何者なのかきちんと把握していなかった。


鸞龍ランリュウが跳虎を討伐するために派遣した超越者なのだという認識。


この人…そんな理由で旅していたというの?


だから下半身のモノがいつも硬いの?


いや、おじさんなりのつまらない下ネタジョークではないか。


跋虎も同じように受け取っていた。


「それだけじゃあないだろう」


「それだけだ」


真顔で答えるフェラクリウス。この男は“マジ”である。


おいおいと苦笑する跋虎に、李吉が叫ぶ。


「みくびるな!

 フェラクリウスは内側の英傑王ダンテとの決闘に勝利し、

 鸞龍ランリュウ様に認められた英雄だ!

 今だって、たった一人でその跳虎をやっつけたんだ!」


彼の名誉を回復するには十分な戦果である。


「へえー、あのダンテに。

 あの鸞龍ランリュウにねえ…」


長柄の武器を杖代わりに、よいしょと跋虎が立ち上がった。


「十分だな。

 さて、やろうか」

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