第70話 新装備


宿場町レハン。


カートキリア王国の最も東に位置する街である。


宿場町ではあるが、以前滞在したラルシダほどの賑わいは無い。


この街より東には国境の関所しかなく、隣接するアンの国への渡航者が殆どいない為である。


行き来できるのはアンの役人に許可をとった商人のみ。


ただし、関係が良好でないぶん国境の警備は厳重なため、衛兵団の兵士たちは多く訪れる。


日頃から気性の荒い軍人を相手にしているせいか、街の人々も非常に逞しい性格をしていた。


イエス、ノーをはっきりと主張し、譲れない事はハッキリ断る。情に厚く義理堅い職人気質が多い。


「なぁ、ここで鞄を新調しないか?」


唐突にカートがフェラクリウスに提案する。


「なんだ?急に」


「いや、俺考えたんだけどさ。

 やっぱ“それ”まずいって」


“それ”とはフェラクリウスの股間に反り立つ立派な甘蕉バナナの事である。


街を歩けば女性がおり、相変わらず“タッチャマン”は全力フルパワー


“タッチャマン”が“目立ッチャマン”なのだ。


やはり街中でせいき全開はまずいと考える。


しかも彼は今までのいち旅人フェラクリウスではない。


波紋党の脅威から国を救った英雄フェラクリウスなのだ。


衛兵が多いこの街にも当然噂は広まっており、顔は割れていないもののそれも時間の問題だった。


国を救った英雄のおポコがバッキンキンなのはまずい。


別にいち旅人ならおポコがバッキンキンで許されるというわけではないのだが。


そこでカートはなんとか“それ”を隠せないかと思考を巡らせてきた。


“タッチャマン”が発動した際には股間のところにバッグを覆いかぶせればいいのではないか。


「バッグが浮くだけだぜ」


フェラクリウスが実際に試してみるが駄目だった。


「バッキンキンのおポコを隠してますけどわかっちゃいます?」な感じが出て尚更みっともなかった。


「わ、わかってるよ、そうなる事は。

 あんたの、無駄に…無駄にって言うのは悪いけど、

 やたらデカいもんな。

 だから、革細工師に注文してだな…」




「勃起を隠せる鞄を作ってくれって?

 …なに言ってんだこの馬鹿野郎!!」


やたら声のデカい革細工師のオヤジに、注文するなり一喝された。


当たり前っちゃあ当たり前である。ふざけた注文なのは自覚している。


カートが反省して謝罪を口にしようとするより一瞬早く、オヤジが言葉を続けた。


「面白そうじゃねェか、是非作らせてくれ」


革細工師のオヤジがにやりと笑う。


「あ、ありがとう!助かるよ、マジで」


「俺ァそういう依頼が来るのを待ってたんだ!!」


気持ちのいいオヤジである。


しかし、だったら何故最初に罵倒したのか。


まぁ、こっちとしてはどんなに罵倒されてもやってくれれば構わないのだが。


「よし、早速そのちんちんを勃起させてみてくれ!」


職人気質のオヤジはすぐさまカートのズボンを下ろそうとしてきた。


「いや、俺じゃない!こっちの、横にいるおっさんだよ!」


「なんだァ!?」


革細工師がフェラクリウスの方を向く。


既にフェラクリウスは息子を元気いっぱいにおっきさせて仁王立ちしていた。


その迫力たるや。初めて見る相手を圧倒する程であった。


「…立派じゃねえか」


精一杯強がって不敵な笑みを浮かべるも、オヤジの額から一筋の汗が流れ落ちた。


しかし、この特別感のあるスペシャルなおおペニが、かえってオヤジの職人魂に火をつけた。


「こいつァ俺も腕によりをかけてやらねェとな!

 よし、そいつをここでボロンと出してみな!!」


「ええっ!?」


曲尺かねじゃくを手に取りすぐにでも作業に入ろうとするオヤジに、カートは思わず仰天した。


この場で測るのかよ!


服の上からおギンギンにされている“それ”は散々見て来たが、生で見た事なんてないし、見たくない。


「オヤジさん、服を着た上にバッグを被せるんだ。

 寸法は、服の上から測ってくれればいいんだ!」


「なんだとォ~?」


ギリギリと歯を食いしばってカートを睨みつける。


しかし、直後にニカッと気持ちのいい笑顔を見せた。


自身の早とちりに認識が追いついたのだ。


「そうならそうと最初に言ってくれよ。

 俺ァてっきりまァ~た野郎のなまペニに

 曲尺かねじゃく当てねェといけねェのかと思って

 参ってたんだよ」


“また”とはどういう意味だろうか。


過去に当てた事があるのだろうか。


その手にしている曲尺は過去に誰かの生ペニに当てた事のある曲尺なのだろうか。


当てたのだとしたら、その後ちゃんと洗ったり消毒したり…いや、そんな事この際どうだっていい。


「あのなオヤジさん。

 普段は荷物が入る普通のショルダーバッグなんだ。

 このおっさんのがおっきくなっちゃったときだけ、

 こう、前にバッグを持ってくると

 バッグに“それ”を納めるポケットがあって」


「ああ~、わかってるわかってる」

「ちゃんとイメージがあるから」

「ちんちんが勃起してるかわからなくしてェんだろ?」


せっかちなオヤジはカートの話を聞き流しながら専用バッグの“型”を作り始めていた。


「もういいぜ、一時間で出来るから、

 どっかでゆっくりして来いよ」


作業に集中し、こちらに見向きもしなくなったオヤジに促されて二人は店を出た。


絶対に上手くいかないことはおわかりだろうが、このくだらないやり取りにどうかもう少々お付き合い頂きたい。




一時間後。


完成したバッグを受け取る。


首から下げるストラップの長さはちょうど股間部分まで伸びており、そこには鞄ではなく完全に局部の形をした革製のケースがぶら下がっていた。


試しに装着してみると、フェラクリウスのおおペニがすっぽり納まった。


素材は革製だが、イメージはニューギニアの先住民が身に着ける民族衣装、コテカ。


見た目は革製のイチモツ。ただのペニケースである。


「見ろ!こいつを股間にはめてりゃァ

 勃起してるかわからねェ!

 勃起してなくても勃起サイズだからな!

 勃起してねェ事が誰にもバレねェぜ!!」


勃起、勃起と繰り返して興奮するオヤジを前に、カートは虚ろな表情で肩を落とした。


「オヤジさん…。バッグを依頼したんだけど…」


「馬鹿野郎、よく見やがれ!!」


言われた通りよくよく見ると竿部分の両脇に小さなポケットがついていた。


小指の第一関節、鳥の餌、豆一粒ぐれえしか入らなそうだが。


「このポケットを見てくれ。

 こんなに小さく出来たぜ!

 ここまで小せェポケットが付けられるのは

 カートキリアじゃ俺ぐれェだろうよ!」


革細工師のオヤジは誇らしげに胸を張った。


ペニケースに目立たないような小さいポケットを付けてくれなんて、一言も頼んじゃいない。


カートは頭を抱えた。


誰が悪いかで言ったら、注文内容をしっかり伝えなかった自分が100%悪い。


100%悪いのはわかっているのだが、注文をちゃんと聞かずペニケースを生み出す事に情熱を燃やしたオヤジに80%くらい引き取ってほしい気持ちだった。


愕然と立ち尽くすカートの肩をポンと叩き、フェラクリウスが慰めの言葉をかける。


「いいじゃないか、カート。

 確かに意図したものとは違ったが、

 これはこれでイイもんだぜ。

 見ろ、サイズもぴったりだ。

 オヤジさんの技術と魂が込められた、

 素晴らしいペニケースじゃないか」


フェラクリウスは“それ”を股間にはめて満足そうに微笑んだ。

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