第50話 血溜まりと死の香り


敵の本拠地に近づくにつれ、ちらほら波紋党の党員らしき者たちの姿が増えてくる。


彼らは衛兵団の中でカートが見てきた荒々しい盗賊たちとはかけ離れたものだった。


みな生気を失ったように憔悴しょうすいしきっている。


虚ろな目でじろじろと見ては来るが、声をかけてくる者はいない。


無視して更に進む。


盗賊たちの数が二十、三十と増えていく。


カートは疑問だった。


これだけの人数が束になってかかれば、老師に反乱を起こす事は可能なのではないか。


老師が人望ではなく暴力で彼らを押さえつけているというのなら、結託して抵抗しようというのは当然の思考。


しかし、疑問はこの後すぐに解消される。


木々が切り開かれた広場のような場所に出た。


広場の奥は断崖、対岸は絶壁。行き止まりだった。


つまり、恐らくここが波紋党のアジト。


数十人もの党員たちが広場を取り囲むかのように、遠巻きに様子を伺っている。


先程の疑問の答えは足元に滲んでいた。


異臭の原因。


どす黒い血だまりが地面に染み込んだ跡。


吐き気を催すような湿気。


まだ乾ききっておらず、じっとりとぬかるんでいる。


動物を捌いたのでは、などと楽観的な考えには至らなかった。


起きていたのだ。


そう遠くない過去に。


老師への反乱が。


思い知らされたのだ。


目の前で殺されていく男たちを見て。


彼らが何人でかかろうとも老師には敵わないという事を。


ここは…虐殺の現場だ―。


(こんな事が…俺たちの国で起こっていたなんて…!)


カートの胸に怒りが湧き上がってくる。


だがそれに重い蓋をするように血のシミから湧き出してくる悪意がカートの心臓を抑え込んだ。


全身が粟立あわだつ。


気を抜けば身震いしてしまいそうだ。


駄目だ、振り払え!


拳を強く握ることで動揺を抑える。


この惨状に、フェラクリウスは何を想うのだろうと視線を向ける。


フェラクリウスは血だまりでも、周りを囲む盗賊たちでもないただ一点を睨みつけ、微動だにせず闘志を燃やしていた。


彼の視線の先。


崖を背負った場所にある岩の上。



そこに老師はいた。

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