第48話 生きる道
獣道は山奥へと続いていた。
人ひとり通るのがやっとの道を三人連なって進んでいく。
両脇には腰ほどの高さもある藪が生い茂っている。
そでや手の甲に擦れる雑草の葉がうっとうしい。
こんな悪路の中をどれほど登っていくのか。
うんざりしてカートが問いかける。
「遠いのか?」
「こっからなら半日もかからねえよ」
半日か…。
黙々と歩き続ける事に耐えかねたカートが話題を広げる。
「しかし、波紋党のアジトが
まさか王都からそう離れていない場所にあるとはな」
そう。
もっとずっと遠くにあるものだと考えていた。
「老師はしょっちゅう出掛けるし、
見張りは街道全体に配備されてる。
でも、アジトの場所はずっとあそこだ」
なんかあるんだろうな。
そう言ったビーディー本人も老師の狙いまでは推察しかねるようだ。
ヘルスメンの言っていた「老師一人で持ってる」という言葉が現実味を帯びてくる。
おそらくだが、老師の考えを理解しているものは波紋党には誰一人いないのだろう。
「…本当にこんな道で合ってるんだろうな」
「わかりづれえから
アジトなんだろうが」
正論を突き付けられ、カートは口をつぐんだ。
「まぁ、俺も行くのは三度目なんだが」
「おいおい、そんなのでちゃんと着くのかよ」
「しょうがねえだろ、
街道の見張りに選ばれたら
成果を出さなきゃ戻れねえんだ」
ビーディーは二人に背を向けたまま、さも当然のようにつぶやいた。
「三日以内に金品を持ち帰らなけりゃ
故郷を焼くと言われたよ」
納得しているわけではない。
老師への恐怖から受け入れざるを得ない
盗賊たちを釣り出そうとしたとき、カートは「こんなでかいおっさんを敢えて狙うか」疑問を抱いた。
だが、彼らには選ぶ余裕など無いのだ。
道行く者を片っ端から襲うしか、ハナから選択肢が無かったのだ。
水の音が近づいてくる。
三人が進んだ先は渓谷になっていて数メートル下には急流が走っていた。
川幅は五メートル程度だが、足元も悪く高さがあるので橋を渡る必要がありそうだ。
ビーディーが谷に沿って上流へと進んでいく。
フェラクリウスとカートはそれに続いた。
「今年は良く雨が降るな」
流れに目をやり、カートが呟いた。
ビーディーは苦々しい顔をして絞り出すように嘆く。
「そうとわかってりゃあ
俺たちだってよ…」
男の口から後悔の言葉が漏れた。
盗賊になんか…そう続けたい気持ちを何とか抑え込んだ。
波紋党は他の盗賊団を併合して勢力を拡大していると聞く。
ビーディーは恐らく、村から無理やり集められたのではなく自ら「盗賊堕ち」した元農民なのだろう。
自分の意思で足を踏み入れた責任があるからこそ、こんなはずではという思いも強いようだった。
「だがな、こんなもん予測出来る事じゃねえんだ。
雨が降らなきゃ結局俺たちは
飢え死にしてたはずだぜ」
「まだやり直せる」
二人のやり取りを黙って聞いていたフェラクリウスが、ビーディーに希望の言葉をかけた。
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