第43話 実戦
ヘルスメンの情報通りだった。
後方から三人、前方にも三人。
計六人の盗賊が近づいてくる。
こちらは二人。
「想定していた事だ。
返り討ちにしてアジトに案内させるぞ」
フェラクリウスがカートに気を回す。
数的不利は気にも留めていないようだ。
「一人はお前に任せた。
残りは俺がやる」
「残りって…五人だぞ!?」
「ああ」
当然のように答える。
まぁ、そりゃそうか。国王に勝った男だもんな。
二人は街道から少しはずれ、六人を正面にとらえた。
フェラクリウスが仁王立ちし後方に少し距離を取ってカートが立つ。
六人の盗賊がフェラクリウスを取り囲むので、そのうち一人から意識を引いて上手い事釣り出した。
敵を前に、カートは知らずに緊張がほぐれていた。
一対一なら盗賊ごときに負ける気はしない。
「お前たちが波紋党だな?」
盗賊は答えようともせずに鼻息荒くこちらへ向かってくる。
どう見ても冷静じゃない。
対話でどうこうする事は…まぁ不可能だろう。
チッ…と、カートは舌打ちをした。
とにかくやるべき事からやっていくか。
カートが得意とする屋根の構えを取る。
対する盗賊は右手に剣を持ち腰を落として広いスタンスを取った。
かかとが地についていかにも
(剣術の心得は無いな)
武術の心得が無くても、実戦から戦闘に有効な構えを学ぶ事はある。
だがそもそも農民から盗賊になったばかりの連中は実戦経験も乏しいだろう。
カートが軽くフェイントを入れると釣られて剣を振りかぶった。
その隙に素早く剣を突き出し、右上腕をこするように斬りつける。
ぐあっという短い悲鳴と共に、盗賊の手から武器が落ちた。
その隙に相手の鼻っ面を
盗賊は悶絶してうつぶせに倒れこんだ。
「ふう…」
しばらくは動けないだろう。
左わき腹を狙う事も出来たが、素人を殺すのは気が引けた。
フェラクリウスから「任せる」と言われていたが、これでよかったのだろうか。
そう思うと同時にハッとした。
おっさんを援護をしなくては。急いで振り返る。
フェラクリウスはちょうど最後の一人を倒し得物を納めたところだった。
ぐったりと横たわる五人の盗賊。
多人数を相手にするのはお手の物である。
(時間をかけたつもりはねえのに…)
自分が一人倒す間に五人。
改めて実力の差を痛感する。
だが打ちひしがれたわけではない。
フェラクリウスと共に行動すればこういう場面には何度も出くわす。
そう考えればいちいち気を落としていられない。
彼の強さが自分の目標だ。
手本となる人間が隣にいる事に感謝しなくては。
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