第42話 アクメ


フェラクリウスとカートが街道を行く。


カートは愛馬をラルシダの厩舎きゅうしゃに預けた。


馬に乗れないフェラクリウスと歩調を合わせるためだ。


軍用コートも預けてきた。


賊をおびき出すためには軍人であることを気取けどられない方がいい。


街道をしばらく行くも、旅人と全くすれ違わない。


既に西では波紋党の噂が広まっているのだろうか。


それならばまだいい。


波紋党に消されているよりは。


日が高くなり、二人は昼食を摂る事にした。


「なかなか釣れねえな。

 西の関所まで行っちまうんじゃねえか」


恵まれた家柄で不自由なく育ったせいか、どうも彼はせっかちでこらえ性が無い。


ぼやくカートにフェラクリウスが答える。


「まだ大した距離進んでねえ」


もそもそと携帯食を頬張るフェラクリウスの姿を見て、改めて彼の大きさを再認識していた。


(…クマみてぇだな)


そんな事を考えている間に気付いた。


自らを囮にするにはこのおっさんはデカすぎるのではないか。


元農夫の盗賊がわざわざこんなガタイのいいおっさんを狙うだろうか。


しかも身なりもみすぼらしい。


金目の物を持っている様子もない。


「…なぁ、本当に波紋党が襲ってくると思うか?」


「ああ」


自信満々に断言するフェラクリウスに、頼もしさと若干の不安を感じる。


だが続く言葉を聞いてすぐに不安は別のものに変わった。


「俺から目を離さず聞け。

 お前から見て左手の方角。

 道をまたいだ先の森に三人。

 さっきから監視されている」


「えっ!?」


フェラクリウスから目を離さずにカートは周囲の気配を伺う。


「笑え。緊張が表情に出ているぞ」


こちらが察している事を相手に悟られたくはない。


カートは急いで笑顔を作ろうとした。


無理やり作ったためか、引きってアクメ顔のようになってしまった。


「何ら意識することは無い。

 奴らを釣り出すまでは

 気付かないフリをしておけ」


「いつから?」


「気付いたのはついさっきだ。

 ラルシダを出た時点では気配を感じなかったがな」


既に波紋党の魔の手はラルシダから数時間進んだ先のところにまで及んでいた。

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