第40話 託す
「…信じられねえ」
何から何まで詳細にではないが、ヘルスメンは自分が経験したことの中から波紋党に関する情報を伝えた。
それらを一通り聞いたカートの最初の発言がこれだ。
「信じてよぉ」
「信じられねえ…」
不真面目に「にへら」と笑うヘルスメンの言葉はいまいち信憑性に欠ける。
「どこが信じられないのぉ?」
「話のスケールだよ。
そもそも老師の存在が疑わしいぜ。
140センチにも満たない老人?
そんなもんたった一人に何十人もの人間が従うって…。
みんなで一斉にかかれば
どうとでもなるもんだろう」
ヘルスメンの話が全て嘘とは思えないが、大げさに話を盛っているように感じる。
そうやって警戒心を持たせて、次の情報の価値を上げようとしているのではないか。
「東洋には自分の倍以上ある体重の相手を
投げ飛ばす技術があるんだぜ。
見た事あるかい?」
疑いの目で見られてもヘルスメンは飄々とした態度を崩さない。
「老師は、その東洋の技術を
身に着けていると?」
フェラクリウスが二人のやり取りに割って入る。
敵の扱う戦闘技術は重要な情報だ。
「いや、違うね」
「どういう事だよ!」
話の食い違いに間髪入れずにカートが突っ込みを入れる。
「東洋の技術は例えさ。
多分、老師のは技術じゃないよ。
直接見たわけじゃないけどね」
「身体能力がお化けなのさ。
老師が手を下す時はすべて素手。
一撃で息の根を止めている。
ビンタ一発で人間の首が吹っ飛んだのを
見たって奴もいる」
「そんなジジイがいるわけねえだろ…」
呆れるカートを見て、ヘルスメンは挑発的な笑みを浮かべた。
「…世の中ってのはアンタが思うほど
常識的じゃないんだぜ、お坊ちゃん」
カートはかちんときて言い返そうとしたが、昨日の事が頭をよぎり言葉に詰まった。
これまで生きてきた自分の常識を裏切った張本人が隣にいるのだから。
「目で見たものしか信じたくないなら
もっと世界を回りなよ。
そうすりゃ納得してもらえるさ。
信じられねぇもんなんてこの世にゃ
いくらでもあるってことをな」
たかが商人が知った風な口を利く。
チッと舌打ちし、カートは口をひしゃげて目をそらした。
ヘルスメンはカートを無視して助言を続けた。
「波紋党は老師一人で持ってる。
周りの人間はただの農夫だ。
老師さえ倒せば波紋党は瓦解するさ」
「待てよ。
老師を倒せば瓦解するってのは
なにを根拠に言ってる?」
無言で腕を組んだままのフェラクリウスに代わり、懲りないカートが口を挟む。
「兄ちゃん、若いよ」
「ああッ?」
「俺の話が疑わしくても。
根拠なんかなくても。
行くんだよ。
老師を倒しに。
そうだろ?ちんちんの旦那」
それは怒りか、義侠心か。
ちんちんの旦那と呼ばれたフェラクリウスは既に臨戦態勢と言えるほどに闘志に満ちた表情をしていた。
「どうすれば、
老師に会える?」
フェラクリウスの問いに答えず、ヘルスメンは黙って“マネー”のハンドサインを出した。
その手に小銭を握らせて会話を再開させる。
「おたくらがやるべきことは簡単。
このまま西に進むだけ。
奴らは街道を見張ってるからな。
必ず奴らの目に留まる。
自ら餌になって、波紋党を釣り上げろ」
人差し指を釣り竿に見立てて、ヘルスメンは魚を釣り上げる真似をして見せた。
「お前はどうする気だ?」
フェラクリウスの問いかけに、ヘルスメンは意外そうにぽかんと口を開いた。
「これだけの情報を調べ上げたんだ。
今払った程度の小銭じゃあ割に合わない。
他に目的があっての事だろう」
一緒に来るか?
暗にそう問いかけていた。
ヘルスメンはにっこり微笑んで両手でピースサインをしてみせた。
「俺はヒッピーさ。
争いにゃあ直接関わらない」
「…だがあんな凶暴な連中がのさばってるんじゃ
ハッピーじゃねえよなあ」
彼なりの“悪め顔”と言ったところか。
ヘルスメンは波紋党の旗をフェラクリウスに握らせその手を覆うようにギュッと掴んだ。
「頼むぜフェラクリウス。
波紋党の件はアンタに任せた」
カートは目を丸くした。
「…知っていたのか」
「言ったろ。
噂は勝手に集まってくンの」
ヘルスメンはすっかり火の消えたパイプの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます