第32話 不測の錯誤


宿の受付で待っていたカートのもとに支度を済ませたフェラクリウスがやってきた。


「待たせたな。

 さあ行くぞ」


「行くぞじゃねえよ。

 なんだそりゃあ」


準備万端といった様子で帰ってきたフェラクリウスを呼び止め、カートは彼の下腹部を指さした。


ローブの股間部分だけを洗ったせいか、そこだけぐっしょりと湿った跡が残っていた。


さらに浸潤しんじゅんした中心にはより一層濃い別のシミが見える。


「それじゃあ余計に視線がフォーカスされるだろ。

 しかも肝心のシミが消えてねえじゃねえか」


「おちんこのシミ」


「そうだよ、そのシミを洗ってこいってんだよ」


「洗ったが、おちんこのシミ」


「落ちてねーだろ“ちんシミ”がよぉ!」


「……?」


「…ああ!『落ちん』『このシミ』か!

 倒置法かよ、体言止めかと思ったぜ…」


「どういう解釈だ」


フェラクリウスはずぶ濡れの股間を気にする素振りもなくやれやれと腕を組んだ。


カートは恥ずかしい勘違いをしてしまったと一瞬後悔しかけたが、よくよく考えたら馬鹿みてぇな発言を繰り返していたフェラクリウスが100%悪かった。


「…てゆーか落ちるだろ。

 いや、落ちるまで洗ってくれよ。

 どんだけ繊維にしがみついてんだ

 その種汁は」


「落ちんこのシミ」


「やめろそれ!」

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