第31話 ボルケーノ


早朝、カートは上半身が跳ね上がったように飛び起きた。


両生類のまとう粘膜のように全身を冷たい汗が覆っている。


悪夢から逃げ出してきたようだった。


どんな夢を見ていたかは思い出せないが、原因は理解している。


昨日の敗北だ。


自分より強い人間がいる。


そんなことは叔父のダンテによって痛感しているはずだった。


だがそうはいっても“三英傑”ダンテは別格。


軍での訓練で他者に後れを取ったことは無い。


尊敬するダンテからも将来を期待されていた。


自分もいつかはダンテのような強い男になれると信じて疑わなかった。


いや、奥底にある不安に蓋をするかの如く、わざと疑わないようにしていた。


まさに大海を知らぬ井の中の蛙。


自分より弱い者を相手にいい気になっていた。


間抜けな己を悔やみ、深く恥じた。



がっくり肩を落としたカートはふと、部屋が揺れている事に気付いた。


「ぐっ…!ああ!っ!!」


隣に寝ている男がうなされている。


そういえばこの男は右腕に傷を負っていた。


巻き付けたパンティーはちゃんと清潔だったのだろうか。


何か、変な事に使った後の不潔なヤツではなかったか。


傷が化膿したのであれば速やかな処置が必要だ。


それにしてもうなされ方が尋常じゃない。


ベッドがギシギシと揺れて部屋全体に、いや、建物全体に振動が伝わっている。


フェラクリウスの身に何が起きているのか。


お察しできそうなものだが、カートにはそこまでの余裕は無かった。


「おい!しっかりしろ!フェラクリウス!!」


「ぬあああああああっ!!」


野獣のような雄たけびが響いたかと思うと、フェラクリウスは釣り上げられた大魚のようにビクンビクンと跳ね上がった。


ブリッヂのように身体をのけぞって腰を浮かせ、プルプルと震えている。


そして、なんという事であろうか。


その腰の頂には突き立てられた“聖剣”が輝いていた。


カートは衝撃であんぐりと口を開けたまま硬直していた。


こんな壮絶な生理現象は見た事が無い。


ある意味超人的であった。


呆れ果てたような気持ちに若干の恐怖が入り混じった感情である。


「おはよう」


満足して起床したフェラクリウスは唖然として立ち尽くすカートに何事も無かったかのように声をかけた。


「どうした、無声で突っ立って」


「…ムセーでおっ勃ててんのはオメーだよ」


カートは頭を抱え項垂れた。


もう、色々と頭が痛かった。


この男といると悩む間もなく次から次へと想定外の出来事が起きてくる。


「…昨日三回も抜いといてよォ。

 せめてもう少し静かにさ…

 わかんねえように出してくれよ」


カートはフェラクリウスの猛り狂った下半身とその先端についたシミを見つけて目を伏せた。


「…見なかった事にしてやるから

 パンツ洗ってこい」


「カート。

 これはおねしょじゃあない」


「わかってて言ってんだよ

 はやく処理してきてくれ!!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る