第30話 駆使せよ


「すげえ胆力だったな。

 こんなでけぇおっさんに

 掴みかかるか普通…?」


キャシーが立ち去ったのを確認して、カートはあらためて戦慄した。


「芯のある強い女性だ」


フェラクリウスはまるで他人事のようにキャシーを褒め称えた。


だが巻き込まれたカートにとっては他人事でいられては困る。


「“芯”が太いのはあんただよ…。

 おっさん、勘弁してくれよ。

 こんな暗闇の先にわざわざ女ぁ見つけて

 興奮してんじゃないよ…」


呆れて皮肉交じりに悪態をつくカートに、フェラクリウスは冷静に告げる。


「カート。俺は決してあの女性に

 欲情していたわけじゃあない」


「…は?いや、確かに暗かったし変だなとは思ったけど。

 でもだとしたらあのおばさんとか関係無しに

 勝手にちんちん膨らましてたって事になるじゃねえか」


「当然だ。

 通りすがりの女性に欲情なんてするかよ。

 それじゃ獣だ」


「あのおばさんの自意識が高すぎただけか…。

 っていうか、それなら

 理由も無くちんちん勃てんなよ」


理由ならある。


フェラクリウスはそう言って自らの“おっきいの”をさすった。


「こいつは近くに女性がいると

 勝手に反応して勃っちまうんだ。

 これは欲情とは全く意味の異なる条件反応だ」


……。


「……獣じゃねえんだからよ」


しばしの沈黙の後に言葉を絞り出し、カートが頭を抱える。


「っていうかそれ

 なんかの病気なんじゃねえのか」


「さあな。だが勃っちまうもんは仕方ない。

 あとはこの個性をどう活かすかだ」


「どう活かすつもりだよ」


……。


フェラクリウスは問いに答えず黙り込んでしまった。


しばし夜の静寂が二人を包む。


カートは改めてフェラクリウスの股に視線を送る。


「…いつまでおっ勃ててんだよ!

 そんなに溜まってるんなら

 どっか行って抜いて来いよ!!」


女性が立ち去ったにもかかわらず、フェラクリウスの“勢い”は全く衰えを見せていない。


カートには“それ”が目障りで仕方なかった。


フェラクリウスは立派なものをピンと反らせたまま仁王立ちし、堂々と言い放った。


「それなら今日はもう

 朝昼晩と済ませている」


「晩って…今じゃねえか!

 そんな暇…あっ、さてはアンタ

 さっき用を足すときに…」


「カート。俺は用を足すとは言ってない。

 用を済ませてくると言っただけだ」


嘘はついていないし、ごまかす気もない。


フェラクリウスはなるべく相手に不快感は与えず、しかし偽ること無く堂々と宣言して事を済ませていたのだ。


それが彼なりのデリカシーというか、“流儀”というやつである。


「どうでもいいよ…。

 『用を足す』でも一緒だよ」


なんだかもう疲れてしまい、カートはぐったりとしゃがみこんだ。


さっさと宿に行って休みたい。


そんなカートの身を案じてか、フェラクリウスは次の策を提示した。


「それより“こいつ”が大きいままだという事は

 まだ近くに女性がいるようだ。

 反応を頼りに探して宿の場所を聞こう」


「個性を活かしてやがる…」

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