第27話 弟子入り志願


「フェラクリウス…さん!

 いや、先生!

 改めて、自分はカート・マンパァーと申します!」

「俺を弟子にしてくださいッ!!」


カートは決して挫折したまま打ちひしがれていたわけではない。


即座に立ち上がるために、次に自分がどう成長していきたいか思案していたのだ。


顔は下を向いていたが、心は前を見ていた。


だがフェラクリウスが引っかかったのはそこではない。


「マンパァーだと?

 お前まさか…」


「国王ダンテ・マンパァーは

 自分の叔父にあたります!」


青年はかねてから疑問に思っていた。


ダンテという偉大な男の下に仕え過保護に育てられている現状。


期待をかけられているのはわかる。


自分でも志は持っている。


だがこのままで本当に国王を超えていく事は出来るのか。


心の隅に常に不安がこびりついていた。


いつまでもダンテの後ろにいてはきっと辿り着く事は出来ない。


いずれは別の道で高みを目指さなくてはならないはずだ。


そして、それは今日この時なのだ。


カートは熱いまなざしをフェラクリウスに向けた。


彼の素性には流石のフェラクリウスも驚倒きょうとうした。


しかし、彼の言葉をそのまま受け取って弟子入りを認めるわけにはいかない。


「お前は軍人だろう。

 勝手な行動は許されないはずだ」


「国王からは…

 あなたの手助けになれと!」


…やれやれ。


フェラクリウスはぼさぼさの髪に指を突っ込みくしゃくしゃと頭を掻いた。


若者の葛藤など、あの男はすべてお見通しか。


或いは、ダンテ自身かつて同じ野心を抱いていたからこそ、この青年の考えが理解出来るのかもしれない。


「…お前、歳はいくつだ?」


「二十になります」


「カート。俺は弟子はとらん」


フェラクリウスはぶっきらぼうに申し出を断るとスッと立ち上がり、カートに背を向けたまま続けた。


「だが自分の責任で

 勝手に付いてくるっていうなら

 止めはしない」


「フェラクリウスさん…!」


「自分のケツの穴は自分で拭けるな?」


何故穴まで丁寧に表現したのか一瞬疑問がよぎったが、カートはそれをすぐに頭の中から掻き消した。


「あ、ああ!

 ありがとう、フェラクリウスさん!!」


「さん付けはよせ」


フェラクリウスは照れくさそうに、少し困ったような笑みを浮かべた。

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