第23話 話題の男


時間は少しさかのぼりその日の早朝。


王都ネーブルは一人の男の話題で持ち切りだった。


フェラクリウスに助けられた少女シオンは彼の噂を聞き、自宅で支度をしている母のもとへ戻ってきた。


「母さん!聞いた!?

 あの人だよ!!」


「なんの話だい?」


騒々しく駆け込んできたシオンに目もむけず、母親は開店の準備を続ける。


「ダンテ様に勝ったっていうあの人が、

 私を助けてくれたおじさんなんだ!」


ほんとぉ?と、母親は手を止めずに驚いたような声を出した。


シオンは家族のもとに戻っていた。


両親は我が子を心配していたようで、仕事先への失礼や単独行動を叱られたもののそれ以上強くは追及されなかった。


自分の考えをしっかりと伝え、家業を手伝いながら希望の働き先を探す事で彼女たちは和解した。


両親と腹を割って話すきっかけになっただけでも彼女の小さな冒険には意味があったのだろう。


恩人であるフェラクリウスの話もした。


盗賊に襲われたところを助けてもらい街まで送ってもらったと、都合の悪い部分は濁しつつ伝えた。


四六時中下半身を膨らまして穴の開いたパンツを押し付けてくる変態おじさんである事は言わなかった。


彼の事を話すシオンの表情は生き生きとしていた。


彼女自身に何の手柄があるわけではないが、フェラクリウスの活躍は誇らしく感じる。


母親はそんな娘の様子を見て安心していた。


家計が苦しくなってからのこの一年、彼女の嬉しそうな様子などほとんど見られなかったのだから。


「そしたら今度いらした時に

 ご挨拶しないとねえ」


「はあっ!?やだよ!!」


反射的に大声で拒絶する。


「娘の恩人なんだから、

 お礼をするのは当然じゃないか」


「だっ、駄目だよ!

 私がするからお母さんは絶対ダメ!!」


「何でよ…」


女が近づくと下のがでっかくなっちゃうから。


当然そんな事は言えない。


これ以上興味を持たれても困るので強引に話題を切り上げて自室に戻る。


部屋のドアを閉めるとシオンは密かにガッツポーズをし身悶えた。


「すげぇ…あのおっさん、

 本当に凄い人だったんだ…!!」

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