波紋党

第21話 純情盗賊団


街道から少し外れた森の中。


五人の男たちが車座になっていた。


頭目らしき男がスッと立ち上がり声を上げる。


「わかってんだろうな野郎ども!!

今日が俺たちの初陣だ!」


ウオオオオオオオオオ!!


他の四人が獣のような雄たけびを上げる。


皆一様に興奮状態にあった。盗賊団の決起集会である。


「食料は奪え!

 反抗する男は殺せ!!

 女は見つけ次第…」


一瞬の静寂に緊張が走る。


ごくり…と生唾が喉を通る音に鼓膜が震える。


「えっちさせてもらえ…!!」


男たちの目が不気味に輝く。


頭目が握りしめた拳を突き上げて更に仲間を煽る。


「金だろうが食料だろが

 いくら貢いでも構わねえ!!

 おだてろ!すがれ!

 土下座してでもえっちさせてもらえ!!」


ウオオオオオオオオオ!!


「我ら“純情盗賊団”の初陣だ!!

 野郎ども!

 今日で童貞とおさらばだ!!」


オオオオオオオオオオオ!!


五人の士気は最高潮に達した。皆ギンギンだった。目つきが。


天を衝くかの如くいきり立っていた。想いが。


先端が湿っている者もいた。舌の。


結成されたばかりの童貞盗賊団が茂みをかき分け街道に出ようとしたところ。


低木のあいだに先程まで無かった巨木が根を下ろしていた。


からし色の幹に太く逞しい枝が絡みついている。


黒々とした瑞々しい木の葉から覗くように開いた二つのうろがこちらを見下ろしていた。


「うおあっ!!」


うろと目を合わせた賊の頭目はぎょっとして尻もちをついた。


それは木ではなく仁王立ちした人間だった。


たかだか2mそこそこの男と大樹を何ゆえ見紛えたのか。


大地に根を下ろしているかの如く堂々と、かつ自然体な佇まいからか。


それとも男のたぎる生命力からか。


「な、なにお前…?

 い、いや、どけ!殺されてぇのか!!」


頭目がたじろいで後ずさりする。


男は何も言わず盗賊たちを睨みつけている。


「頭目!こいつ、今の話

 聞いてたんじゃ…!」


「く、くそ…。

 だったらしょうがないよねえ…。

 やっちまう?いや、やっちまえ!!」


賊の頭目がためらいながら、しかし語気を荒らげて指示を出すと部下たちが一斉に剣を抜き男に向かっていく。


巨漢、フェラクリウスはゆっくりと腰の得物を抜いた。

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