第17話 勝利の報酬
完全なる決着。
降参の言葉を聞いても、衛兵たちはまだ動けない。
信じられないものを見たという様子だった。
無理もない。
彼らが尊敬する英傑、ダンテ。
敗北どころか苦戦すら見た事は無い。
男の誰もが
実情は簡単な話では無い。
あの一歩はフェラクリウスにとっても敗着にすらなりかねない覚悟の踏み込みだった。
ダンテの方がフェラクリウスの想定を上回るカードを切ってきたら結果は逆であった。
紙一重。薄氷の勝利。
それほどまでに二人の実力は伯仲していたのである。
沈黙を破ったのは敗者のさわやかな大声であった。
「いやあ、やられた!
見事だ、フェラクリウス!!」
ダンテに屈託のない笑顔が戻ってきた。
「アンタも、大した男だ」
「おいおい、俺はぶん殴られただけだぜ」
「いや…」
互いに顔を見合わせて、にやりと笑う。
言葉のやり取りこそなかったが、この決闘の中でお互いが何を考えていたか決着がついた今となっては通じ合っていた。
ダンテは理解していた。
敗因が自分にあること。
自身の心の隙、慢心から部下の信頼に背いてしまった事は情けなく思う。
しかし、それ以上に今の一戦でフェラクリウスという男の“心意気”を理解出来た。
フェラクリウスは二度目の
武器を吹き飛ばした後、無防備な急所に三度目の
しかし彼はそうしなかった。
相手を痛めつける事が目的ではない。
その姿はダンテが思い描く理想の戦士像と重なった。
確かに自分は勝敗を読み間違った。
だが、最初の勘は間違っていなかった。
この男こそが、国を救う英雄に違いない。
「おっと、褒美をやらないとな。
望みはなんだ?」
「望みなんて無い」
「フェラクリウス…お前…」
「いい勝負だった。それで十分だ」
この国の事情は理解している。
褒美など最初から受け取るつもりは無い。
勝負に満足しているのも本心である。
だが、「望みは無い」という点だけは違った。
「それより、随分と汗をかいた。
お前はどうだ、汗をかいていないか?
…チッ、汗だくで気持ち悪いな…。
さっぱりしたいぜ。お前はどうだ。
和解の意味も込めてひとっ風呂どうだ」
フェラクリウスは突然まくしたてるように喋りだした。
だがダンテはそんな彼に何の違和感も持たずに額面通りに受け取った。
「…どこまでも気持ちのいい男だ。
来い、王族専用の浴室を使わせてやる」
名君ダンテ・マンパァーをもってしても、フェラクリウスの気持ちの悪い思惑は看破出来なかった。
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