第15話 膠着
開始の合図はいらない。
二人が構えた時点で、既に戦闘は始まっている。
が、動かない。
互いに睨み合ったまま静止画のようにぴたりと止まっている。
先に動きたいのはフェラクリウス。
相手の方が長い武器を持っているからである。
単純な話であった。
ダンテとフェラクリウスでは頭部や胴体にある“急所”を狙うまでの距離が違う。
ダンテは「一歩」踏み込めばフェラクリウスの急所を狙える位置にいる。
だがフェラクリウスから仕掛けようと思うと、「一歩」踏み込んだ上に更にもう「半歩」踏み込まなくては届かない。
一方的に攻撃が届く「半歩分」のアドバンテージ。
ダンテからすれば確実に先制攻撃が出来る有利状況である。
さらにフェラクリウスに先に踏み込まれた場合であっても半歩分の時間的猶予により「防御」、「回避」、「反撃」あらゆる行動が余裕をもって選択出来るのだ。
特にリスク無く後の先を取られる「反撃」の選択肢はフェラクリウスにとって最も警戒すべきものであった。
こちらから打って出るのは危険とみる。
ならば相手からの攻めを誘うべきではないか。
…それにも問題があった。
相手は歴戦の雄。
どれだけの「攻めの引き出し」を持っているか。
ただでさえ不利を背負った状況。
後手で対応しきる事がどれだけ難しいかは想像に難くない。
守勢に回ることは避けたいフェラクリウス。
距離を保ったまま横に動いて様子を伺うか…。
いや、よそう。
こうして睨み合っている間、相手もこちらの様子を伺っている。
足運びの瞬間踏み込まれ不利な間合いに引き込まれるかもしれない。
この次元の強敵に対しては僅かな動きでも自ら隙を晒す行為につながる。
フェイントや牽制すら危険に思える。
―まだ動かない。
傍目には何も始まっていないように見えるだろう。
だが、既に一方は手詰まりに近い状況に陥っていた。
フェラクリウスの額からどっと汗が噴き出た。
対面するダンテには余裕があった。
相手が先に動いてきたとしても、必ず自分だけが有利な「半歩の間合い」を経由するのだから。
ダンテがじわりと歩を進める。
フェラクリウスはすかさず同じだけ後退する。
リーチのある者が間合いを支配する。
当然、フェラクリウスもそんなことは理解している。
“矮小”と称されたこの武器だって、不利を承知で自ら選択した“相棒”なのだから。
フェラクリウスは静かに、深く呼吸をした。
その瞬間、額から噴き出す汗が止まった。
心臓の鼓動は平常になった。
彼は勝利に向かうための覚悟を決めた。
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