第14話 英傑王


城門をくぐった先の中庭で、二人は向かい合っていた。


テニスコート二面分ほどの広さがあり、一対一の決闘には十分すぎた。


ぞろぞろと城中の兵士が集まってくる。


あっという間に数十人のギャラリーが完成した。


名目は王の警護だが、本心は明白であった。


彼らは皆、王の戦いが見たくて目を輝かせていた。


誰一人、王の勝利を疑っていない。


彼の強さは部下から絶対的に信頼されていた。


ダンテが腰に下げていた剣を抜く。


その刃はいかにも王に相応しく、美しい輝きを放っている。


刃渡りは80センチほどだろう。


刀身は肉厚、幅広で豪華な装飾が施されていた。


近頃は刀身が軽く扱いやすい剣が良しとされているが、時代に逆行するように重量と耐久性を優先させていた。


持ち主を選ぶであろうそれを軽々と扱う様から、超人的な膂力りょりょくが見て取れた。


相対するフェラクリウスも左の腰に下げた得物を手に取る。


手にした武器の独特の形状に、ダンテは怪訝そうな顔で凝視した。


(刀身が…無い?)


それは長さ二十センチ程度の棒の先端に直径五センチほどの卵型のおもりを付けた小さなこん棒。


中国で言えば、「スイ」を小型にしたもの、


西洋で言えば、「メイス」のような用途である。


日本で言えば、「ディルド」に似ていた。


しかし、得物と呼ぶにはあまりにも短くダンテにはそれが何なのか理解出来なかった。


「そんな矮小な武器で挑もうというのか?」


ダンテは半ば呆れたように苦笑した。


フェラクリウスはそれを相手に向け右半身に構えた。


「やってみればわかるさ」


「…そうだったな」


フェラクリウスの構えに応じ、ダンテも両手で持った剣を中段に構えた。


強い―。


向き合うと同時に、それがわかった。


身長が高いとか、筋肉が厚いとかそういう類の強さではない。


達人は歩く姿を見るだけで相手の技量がわかるという。


或いは、将棋指しが駒組みの手順で強敵を悟るように。


剣先の重心、肩の脱力感、息遣い。


そして自信に満ちた表情。


些細な、しかし数多くの複合的な要素が重なり、ダンテが世に傑出した戦士である事を示していた。


いつしか背景は消えていた。


漆黒の中、立ち上る闘気を纏った男が立っている。


相手にそう錯覚させるほど、ダンテは圧倒的な存在感を放っていた。


一国の王であるダンテがこれほどの戦士とは。


強者との邂逅。


フェラクリウスの中で一度萎れた好奇心に再度血が巡っていく。


この男の尻を見てみたい。


世界が認めた三ええケツの一人。


やりたいとは思わないが、ひとめお目にかかりたいと思った。

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