第13話 挑戦者


激しい葛藤と自問の末に憑き物が落ちたフェラクリウスだったが、そんな胸中を知らないダンテは彼が手柄を求めてこの城にやってきたと信じ込んでいた。


「フェラクリウス…だったな」


「…ああ」


ダンテは突如白い歯を見せた。


先程の不適な笑みは一瞬にして少年のような笑顔に変わった。


「活躍は聞いたぜ。

 なんでも全身に沸血を巡らせた

 偉丈夫いじょうぶなんだってな」


「…今は萎れているがな」


フェラクリウスは海綿体の膨張を否定した。


王という肩書の割には随分とフランクで人懐っこい男だった。


そもそも、どこの馬の骨ともわからぬ訪問者に直接城主が出向くこと自体が普通ではないのだ。


彼の器の大きさを表していると言えよう。


大きな声でハキハキと喋る様子は彼を見た目より十歳以上若く感じさせた。


やる気と自信に満ち溢れた新社会人のようなフレッシュさまで感じる。


指導者であるこの男のさわやかさや、はつらつとした態度が国民にも反映されているのかもしれない。


「うちで働きたいんだって?

 お前みたいな志の高い男は大歓迎だぜ!

 うちも人材不足で困っていたんだ」


意気消沈しているところにそんな的外れな事を言われ、フェラクリウスは露骨に怪訝な表情を見せた。


「…おい、俺はそんなことを

 言った覚えは無いぞ」


えっ?と、虚を突かれたようにダンテは目を丸くした。


「…うちに仕官したいんじゃないのか?

 部下からそう聞いているが…」


「あのおっさんの早とちりだろう」


フェラクリウスはやれやれと首を振った。


「マテオ…確かにあいつにゃ

 そういうところがあるな。

 優秀な男なんだが…

 どうにも思い込みが激しいんだよな」


思い当たるところがあったようで、ダンテもまた大きなため息をついた。


それから向き直り、改めてフェラクリウスに尋ねる。


「失礼した!それじゃあお前は

 何の用があってここに来たんだ?」


何の用か。


答えはもう存在しない。


マテオを責める事は出来ない。


自分も、思い込みによる早とちりでこんなところまでやってきたのだから。


フェラクリウスは少し寂しそうな目をして答えた。


「…いまさら言ったって

 どうこうなる問題じゃあない。

 時間を取らせてすまなかった」


そう言ってフェラクリウスはきびすを返した。


「待てよ、

 俺に仕えてはくれないのか?」


「(男の尻には)興味ないね」


取り付く島もない様子のフェラクリウスに困り、ダンテは口をへの字に曲げて腕を組んだ。


だがすぐに何かを思いついたようで、今度は悪戯な笑みを浮かべた。


「ならばこちらから挑戦しよう!

 俺と決闘しないか?」


「…決闘だと?」


「お前が勝ったら望む褒美をやろう。

 …と言っても、うちも

 そんなに裕福なわけではないんだがな。

 出来る限りのってとこで」


ダンテは苦笑しながら頭を掻いた。


だが、フェラクリウスにとってそんなことはどうでもいい。


「俺が負けたら?」


重要なのはこっちだった。


相手が何を求めているのか。


ダンテは先程と同じ少年の笑顔を浮かべハッキリと告げた。


「俺に仕えてもらう」


案の定である。


話の流れから言って想像に難くない。


フェラクリウスはすぐには答えず、ダンテとしばし睨み合った。


「俺たちは強者を求めている。

 この国を救う英雄となりえる者を」

「俺の勘が言ってる。

 この男がそうだってな」


ダンテの熱烈なアピール。


受けて立つ必要は無い。


だが、大の男が。


それも勇名を馳せる男が面と向かって決闘を申し込んできたのである。


それだけで挑戦に応じる理由になる。


「別に構わんが、ダンテ」


フェラクリウスは相手から目をそらさずに承諾、続けて警告した。


「痛い目を見るぞ」


ダンテは満足そうに白い歯を見せた。


常に明るい雰囲気をまとい、笑顔を絶やさない彼だが今度は先程までの少年のそれではない。


闘いに臨む戦士の顔だった。

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