英傑王 ダンテ

第12話 素晴らしき尻の正体


シオンと別れたフェラクリウスはマテオの言っていたオンファロス城へ向かっていた。


途中、女性モノのドレスを着た中年男性とすれ違ったとき何故かフェラクリウスの脳裏に黒いレースのフリフリパンティがよぎったのだが、理由はわからなかった。




一代で近隣をまとめあげた王の居城は年季の入った古城であった。


建築自体はずっと昔であろう。


だが、灰色の石材をきれいに切りそろえて積み上げた美しい外壁だった。


国の中心に位置するオンファロス城は平地に存在する故に地形上の防衛力は低く、戦のためではなく権力を誇示するために作られたように見えた。


城門前の屯所で兵士をつかまえ事情を話す。


相手のプライバシーを尊重してストレートな表現は避けたが、一言「ええケツに会いに来た」と告げるとそれで話が通じるようにはなっていた。


マテオは不在であったが、代わりの者が取り次いでくれた。



ええケツを待っている間、フェラクリウスはこれまでの旅路に思いを巡らせた。


童貞を捨てるこの旅には、色々なことがあった。


色々なことはあったが、色恋沙汰は何もなかった。


それが、ええケツに…。


フッ、ええケツか。この俺がええケツと、な。


思いを巡らせているうちに、また下半身に血液が巡ってきてしまった。


「おーい、待たせたな!」


フェラクリウスの“うわばみ”がたまらず鎌首をもたげたとき、突如大声が青空に響いた。


その場にいた全員の視線が声の主に集まる。



ええケツ!?



…フェラクリウスの期待は裏切られた。


門の奥から現れたのはフェラクリウスにも引けを取らない巨大な体躯をした大男だった。


いや、体全体の厚みはそれ以上だった。


「おおー。ははっ、確かにデカいな!」


男は堂々とした態度でフェラクリウスを歓迎した。


見た感じフェラクリウスより少し年上くらいの男前。


健康的な浅黒い肌の上に美しい装飾のついた鎧を着ている。


その威厳のある姿が、この男が何者かを語っていた。


それでもフェラクリウスは諦められなかった。


男が何者か、その口から答えを聞くまでは。


「お前は…?」


「俺がこの城の城主、

 ダンテ・マンパァーだ」



男だと!?



その言葉を聞いた途端、景色が灰色に染まり時間の流れがスローモーションになった。


地球の自転速度が十分の一になったように感じた。


フェラクリウスはその場に崩れ落ちるように両の掌と両膝をついた。


それから奥歯が砕けんばかりに食いしばり、石畳に左右の拳を打ち付けた。


街中に衝撃が響き渡った。


その破壊力は、はからずも彼が只者ではない事を証明してしまった。


「…やるな」


おののく兵士たちを制し、ダンテは不敵に笑った。


だが、そんな様子はフェラクリウスの目に映っていなかった。


あのオヤジ…ッ!騙したなッ!!


確かにダンテという名はどちらかといえば男性に多い名かもしれないが男にええケツなんて使うものか。



…いや。


使うな。


使うぞ。


巨乳や爆乳と言われて会った相手が男だったら「男の巨乳は肥満だろうが!」と怒鳴り散らしてやるが、素敵なお尻を指す呼び名は、男も女も「ええケツ」だ。


それ以外に呼称が存在しない。


この早合点は全面的に自分に過失がある。


フェラクリウスはマテオに一瞬でも怒りを向けた事を恥じた。そして自らの致命的な勘違いに珍しく肩を落とした。


張り切っていた“うわばみ”もしょんぼりとうなだれた。

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