第33話 一路屋久島へ

◆◆◆ 33話 一路屋久島へ ◆◆◆



「先生!新しいデータが来ました!」


研究所内に届いたデータ一覧を見て、田所は上司の田中Dr.にその数値を見せた。


「Eランク検体のデータだな。単位質量の筋力が2倍?骨密度は分からないが、内部組織に変異あり、その物質は不明?神経伝達物質も動揺に2倍の速度に変わり血中飽和酸素濃度が減っても動作に変化がない?!これは酸素を必要としていないという事か!!」


「こっちはDNAの変化です。相対すると同一人物でありながら進化前と後では1%以上の変化が見られています」


「DNAからして別人になっている?」


「これは進化と言うよりも変化ですよ……同じ身体、精神でありながら中身は別の物になっていく……」


「……いや、動物の進化はその環境に合わせて突然変異と言う形で進化していったという事が通説になっている。

そうすればこれはその環境に合わせて進化したと言った方が良いのか?」


「そうなると、あの穴を進めば進む程に進化して行く事に?出口先の環境に合わせるように急激な進化をしていると?では、出て来る敵対生物は逆に退化していると?」


「いや…………敵対生物もこっちの環境に合わせて進化しているんだ。それには人間と同じように時間が掛かっている」


「そしてその時間がある程度進めば……」


「こっちの環境に適したデカい生物が出て来る……」


「でも!それは先生の考えた説ですよね。データにはそこまで……」


「田所君、研究・実感とはいつも最悪の事も想定していないといけないんだよ」


「それはあのアナウンスのように敵対生物が溢れ出すと?そして生き残るには人間も進化しないといけないという事ですか?」


「可能性が無い訳じゃない。検体の数が足らない!時間も無いと思っていた方がいいぞ。これは日本の事だけじゃ無く地球規模の未来の事だと思え」


「では富士に生きた検体を提供するように伝えときます」



 自分のデスクに向かい、軍へ連絡を行う田所。

その横にあるキャビネットには以前よりも多くの魔石が隠されていた…………





◆◆◇



「なあ、圭一。アイツらの動きが遅くなってねえか?」


「そう言われると……そうかも」


半分ヤケになって一気に進んだ2時間。そしてシールズ二人や海兵のバックアップを貰って進んだ1時間も進むとスライムやサソリ、そして大クモの動きが若干遅くなっている指摘に気が付いた。


進んでは止まるその一定した動きが遅い。



「止まって下さい。バックアップの海兵たちの殆どが息苦しさの訴えがあり付いてこれません、酸素濃度が16%まで下がっています、これ以上は危険かと」


一人の顔色の悪い士が急いで近づき報告をした。



「マリア、圭一、大丈夫か?」


「問題ないよ」


「私も動きに影響ないわ」



医療班なのか、血中酸素飽和度SPO2を測るパルスオキシメーターを取り出してきた。

デニス、マリア、そして俺と破瓜って見るが、95、95、99%と特に変化が無かった。


「エボリューションしていない兵士は85%を切っています。酸素ボンベが無いと進めません」


「……エボリューションの影響か。よし、エボリューションしていない兵士は安全帯まで後退、E、Fランクでグループを作り、SPO2限界位置で待機。俺らは先の偵察を行う」



その事をバックアップの兵に伝えるべく、伝令の兵士は下がって行った。

酸素濃度計とパルスオキシメーターを置いて。



「さあ、行けれる所まで行くか。10分置きに酸素濃度を測るぞ」


「それは良いけど、何だか坂の勾配も緩くなってない?」



微妙に曲がりくねって来た道だが、勾配はほぼ一定だった。だが、その勾配もそろそろ変化が出ていた。


「最下層か?ワクワクするな」


「ボスがいたりして」



 ニヤニヤするデニスに乗って脅してみたが、武器のチェックをするだけで堪えていなかった。

バトルジャンキーかよ。


 だが、その立てたフラグは誰も折ってくれず、道は平たんになったが、直ぐに登り坂へと変わっていった。


そしてその頃から敵の動きが一段と遅くなっていく。スライムはジャンプする事が無くなり、転がるだけ。サソリは息苦しいのか殆ど動かず、俺達が近づいて動く始末。大クモも近くに来るまで動く様子が無くなっていた。



「酸素濃度10%を切ったわ。SPO2が94%!」


殿にいたマリアの叫ぶ声にデニスが反応する。


「そろそろ俺達も人外になって来たな」


「とっくに人外でしょ!」



 余り動かない敵対生物を俺やデニス、マリアも切りながら先へと進んでいた。

酸素濃度は徐々に減って行き、完全に死ぬと言われる5%を切ってもSPO2は90%台を保っていた。

俺らはいったい何を吸って生きているんだ?酸素が無いなら窒素?二酸化炭素?植物にでも変わったのか?

そして何を吐いている?植物なら酸素か?


興味の無かった生物学などを思い出すが、平均点を取れば問題無かった学業は、根本的に言っても無駄な考えだった。



「おい、気温が急激に下がりだしたぞ」



少し肌寒いと思っていたが、いつの間にか息が白くなっていた。


「私達は良いけど、武器が……」


極寒対策でもあるのか?

まあ、俺も素手で鉄を握っているけどな。ちとマズイか?


「そろそろ頃合いか。戻ろう」



デニスの判断にて平坦になってから僅か30分で俺達は戻りだした。


途中の狭角な分かれ道は逆から見ると何かに見える。

迷路と呼ぶよりも……何か…………



「木の枝みたいな迷路だよね、こんなの間違える訳ないのに何でこんなのが出来たのかな?」


「意外にこのトンネルも生き物なんじゃねえのか?一日経つと殺した生物の残骸も残ってねえしな」


「怖い事言わないでよ。閉じ込められたらどうするのよ」



敵も出てこない帰り道を俺達は雑談に華を咲かした。

初めぎこちないと思っていた俺と二人だが、命が掛かったトンネルダンジョンの中で、そう言う余裕は無かった。

それが逆に以前の不信感を無くす事になり、俺もそれで良いのだと思うようになっていた。



海兵隊の大攻勢は失敗に終わった。

大多数の行動不能の原因である酸素濃度の低下と。気温の急激な変化に対応が出来なかった事が原因だった。


「まだ負けた訳じゃない。戦略的撤退だな」


「まだこっちは誰も死んで無いわ。一度引いただけよ」



流石、本業は違うなぁ。

まあ、俺も負けたとは思ってないが、極寒仕様の服や、寒冷地仕様の装備の調達に少し時間が掛かる事になった。

その間、他の海兵隊は最低Eランクを目指して穴に突入する事になり、俺達は休日を入れながら対策を練る事になった。







「対策って座学じゃねえのかよ――――――!!」



 何も知らされず、背中にデカいモノを背負わされ、Flyawayした佐世保沖の上空でホバリングしていたオスプレイから青空へとジャンプした!



「死ぬぅぅ!」



隣に来たマリアが紐を引けと合図して来た!


咄嗟にレクチャーを思い出し、パラシュートが開く紐を全力で引き抜き!そしてその紐がひっこ抜けた!



「ぬああああああ!」



近づく海面!

力を込めた拳には開く為の紐が風に靡いていた!


ダメッ!死んだ!

その時、遅れて背中のパラシュートが開き、グンッ!と衝撃を受けた瞬間、海面へと足から突き刺さって行く!


ばつおどりがぼおおおおカツオドリかよみばいるびゃねえんだぼおおミサイルじゃねえんだよ


海水に揉まれ海面へと出て来ると、直ぐに海兵の乗ったゴムボートが近寄って来た!


「流石ですねsir!バンカーバスター地中貫通弾ミサイルみたいでしたよ!」


「こんなん死ぬわ!」


背中からボートに引っ張り上げられる俺。


「いやー軽くて楽ですねsir!」


「どうせチビだわ!」



「普通なら死んでましたよ」


「紐をぶっち切るなんて初めて見ました!」


「流石Bランクっすね!」


わちゃわちゃ握手を求められ、海に漂うパラシュートの残骸を手繰り寄せる。

そしてゆっくりと降りて来たマリアとデニスを拾い、デカい空母へと向かった。



 船へと引き上げられた俺らは、空母の中で着替えをして艦橋へと連れて行かれる。


「ようこそドナルド・トランプへ」


デニスとマリアが敬礼するが、不貞腐れた俺は一番偉いと思われる艦長に嫌々敬礼をした。


「素直に着艦すれば良いのに。何故飛ばせるかな?」


「海兵の歓迎だと思ってくれ」


ニコニコした中年のおっさんが笑いながら説明して来た。


「二度とやらねえぞ。死ぬかと思ったわ!」


「まあまあ、歓迎は一度だから」



偉い人にしては若い気もするが、割と気さくな人だった。

息子が俺と同じ位だと言うので子供みたいな感じなんだろう。

そしてそこで現在動いている作戦を説明された。

基本的に日本軍とアメリカは共同作戦を作り上げており、その中で高千穂はアメリカ主導で討伐を行っていた。

そして日本のトンネルダンジョン最南端である屋久島での協力要請を受けて向かっている所だと言われた。


「屋久島で?」


「ああ、これから先に行っている強襲揚陸艦アメリカに移ってもらう」



「ギクッ!」


思わず効果音が口に出てしまった。


「向こうへは空を飛んで行ってもらおう」


「パラシュートとか……?」


「いや、普通に離発着するよ」


「よし!」


思わずガッツポーズを取る俺。



ニヤニヤするデニスに飛行甲板に連れて行かれると、そこには紛れも無いグレーのヘリが停まっていた。


漸く安心してヘリに乗りヘッドセットを付ける。


「sir! 水中着地は見事でしたよ!」


「落ちただけともいうけどね」


「ハッハッハッハー!ではシーホーク発艦します!」


 風を切る甲板の上で、俺らは強襲揚陸艦アメリカに向けて発進し、そこから屋久島へ向けて進んで行く事になった。

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