第34話 変異体

◆◆◆ 34話 変異体 ◆◆◆



 アメリカ級強襲揚陸艦アメリカ

22ノット、約40km/hで全長257m、幅32mの大きな船が海上を進んで行く。

 ヘリコプターや短距離離陸垂直着陸機を用いて陸上に上がる部隊の強襲上陸作戦を行う船舶。上陸地点の遠方洋上より揚陸部隊の兵員、器材、物資を迅速に運ぶ強襲船だ。


 代々アメリカと言う強襲揚陸艦はあったようで、この船が5代目と聞いている。

メインはヘリなどの輸送機と、昔はハリヤ―などのSTOVL機、現在ではF-35BライトニングⅡがメインになっているらしい。

STOVLの離発着が見られないのは、今回はヘリでの輸送がメインなので攻撃機の発進は無いのだ。


「2座だったら乗れるんだけどな」


男なら一度は飛行機乗りに憧れるが、運転する気も無ければそんな技術も無い。格納庫より上がってくるシーホークを見ながら近づいてきた屋久島へ向けてヘリに乗り込んだ。


それ程大きくない島の周りに艦艇が集結している。

幾つかの揚陸艦らしき船や、輸送船らしき非戦闘艦も見える中、ヘリは悠然と空を飛んで行く。



カチャカチャ


「あの……このハーネスは何でしょうか?」


体に装着されていくハーネス。そしてヘリから投げ出されるロープ。


「ああ、今回は人員だけだからな。ロープで降下する方が早いんだよ。じゃあデニスのを見て覚えて」


隣のデニスを見ると、カラビナのような物にロープを通して準備出来ていた。


「ココを引っ張ってスピードを調節!スーっと降りてグッと引っ張る!OK?」


「ノー!」


「やってみれば分かるから!頑張れ!」


「ノー!!」


「じゃあ先に行くぜ!」


後ろ向きになったデニスがスッと消えていく!

地上は見えているが、それでも10m程の高さでホバリングしていた。


「Go!Go!Go!Go!」


誘導員が肩を叩いて行けと言う!


「えっと後ろ向きになって……スーっと降りる…………ファッ!」


ヘリの握り手の金具を持っていた手を両手一緒に離してしまった!

ロープを持つのを忘れてそのまますスッと落ちてゆく!



「ロープを握れ!!」



誘導員が叫ぶ声が響く!手放し状態で落下・・している俺は、必死で前に流れるロープを握った!

ロープとグローブの滑る摩擦で煙が上がるが落下速度が落ちる気配がない!


ズンッ!


瞬時に足に響く衝撃と、体重を支える為に自然に膝を曲げて耐えていた!


ジーンと痺れが足に来た!

固まっていた俺に追い打ちを掛ける声が響く!



「退いてええええ!」



上を見るとデカいケツが振って来る!!

咄嗟にデカいケツを両手で支えると、意外にも柔らかい感触が……


「やだっ」


気が付けば俺は次に降りて来たマリアをお姫様抱っこしていた。


「いやん、胸触ってるよ」



膝裏と背中から脇に手を入れていたが、その手の先が胸をわんずっとデカいモノを握っていた。


「うあっ!」

「きゃッ!」


思わず背中側の手を離してさかさまになるマリア。ヘルメットが地面をゴンッと叩き、逆さま状態のマリアが下から睨んでいた。


「ご、ごめん」


滑るように足が地面に落ち、地面に横たわるマリア。


「起こして」


静かな怒りを込めた手が下から伸びて来る。

俺はその手を握ると、ゆくりと上に持ち上げて行った。


「折角支えてくれた手を離さなくったって」


「だって手がおっ、おっ、おっぱ、おっぱ、おっぱ…………」


「どうしてこうも免疫がないの?あの時は荒々しく握って来たのに……」


「なに!?握っただと!」



ああ……話が拗れる。


「不可抗力と言いますか、突発的事故と言うか、日本でいうならばラッキースケベ……じゃないな、俺の暗黒面が具現化したような…………」


「それは荒々しい牡牛のように、カウボーイの綱を引きずりながら、デザートイーグルのような一撃を私の大事なミートパイをグワシッ!と握り、血走った視線で私の二つのC4を犯すように舐め回し、それだけで処女懐妊させるような顔付きで、裸で四つ這いになれと命令し、更にブートキャンプ……」


「言ってない!言ってないって!」


「圭一……。結婚式は呼んでくれよ」


「ちょっと!ちょっとちょっと!」


俺の静止を効く事無く、デニスは目頭を押さえながら行ってしまった。



「さあ、私達も行きましょ!」


腕を組まれ、幸せな柔らかさに腕が包まれ連れて行かれる。

ああC4ってこんなに柔らかいんだ(んな訳ないだろ)

と妄想しながらジャングルのような奥地へと進んで行った。



 登山道の入り口付近に陣取る日本軍隊とアメリカ海兵隊のキャンプがあった。


「直径約4m、敵対生物はスライムとサソリ。だが、此処のスライムは大きさに差があり、直径は目視で30cmから60cmあります。進捗状況は凡そ4km程度かと。5チーム三交代で24時間体勢で殲滅しています。最高Dランクで内部討伐者の中にノーマルはいません!」


先行していた兵士なのか、今までのデータを教えてくれた。

でもスライムって大きいのもいるんだ。何故だろう。あちら側からするとサソリか大クモの方が戦力になりそうなのに。


「ご苦労!それでは俺らも入る」


国内で最も最高ランクの俺とシールズの精鋭と言うのが分かっているのか、誰もが敬礼をしながら道を開けてくれていた。


今回は邪魔になりそうな鉄棒は持って来ておらず、両刃のトマホーク6本と片刃のチタン剣3本、俺の依頼して作った大鉈、そしてグロック2丁とSIGのSG552アサルトライフルを持って来ていた。

ヘルメットカメラに水などを用意し、開きっぱなしの鉄ドアに入って行った。


内部は一進一退で討伐が進んでおり、まだ枝分かれしている場所まで到達していなかった。依って大クモまで到達していないという事だ。


「それにしては余り先に進んで無い印象が」


「圭一みたいに先陣切って特攻する奴がいないのさ。銃を使う頻度も高く、安全第一で進んでいるらしいからな。ちなみに日本国内じゃあ高千穂が最も進んでいるんだぞ」


へーそうなんだ。

ランクアップアナウンスも俺のが広まっているからな。そうなんだろ。


「圭一、鼻がスピスピしてて犬みたい。可愛いわよ」


「犬じゃねえし!」


ちくしょう。見られてたか。


「雨も降って来たからサッサと入ろうぜ」



流石は年間400日も雨が降ると言われる屋久島。

曇っていた空から雨が降り出していた。


俺達は雨を避けるように装備を整え、出口を塞いでいる鉄板に付けられたドアから中へと入る。


高千穂、雲仙、富士と見て来たが、どれも似たような物だった。

24時間交代制で討伐を行っているらしく、内部は対象となるモノがおらず、斜めに開けられていたドアから入ったのか、雨水らしき物がチョロチョロと小さい流れのようになっていた。


「され、軽く走って行きますか?!」


「飛ばすなよ」

「負けないわよ!」


流石に余り大きくない穴なので、それほど飛ばさずに奥へと小走りで進んで行く。

十数人とすれ違いながら奥へと進むと、集団になっている所にたどり着く。


「ココが前線?」


まるで流行りのラーメン屋に並んでいるような集団の最後尾に聞いた。


色とパターンの違う戦闘服に階級章でも見たのか、俺に敬礼して来た。


「はっ!そうであります!」


「そんなに気を使わなくても良いですよ。ちなみにこの前線でのみんなのランクは?」


「現在は全員Eランクです。隊員の入れ替わりがあったもので、余り進化はしていません」


「そうなんだ、ありがとう」


ちょいとごめんね、ごめんねと言いながら先へと進むと、一本の剣を持った兵士がデカいスライムと対峙していた。


直径50cmはあるだろうか、別の所のようなべちょっとした感じでは無く、アニメや漫画のようにプルっと円形に近い感じの形状だった。


「へー少しデカいってこんな感じなんだ」


重いせいか、動きは少し悪い。ジャンプする動作も遅くて飛んでいなかった。

そのスライムに対してタイミングを図り、一気に近寄り剣を振った。


パシャ!と言う音と共に薄い膜が破れ、他の所のモノと同じ大きさの魔核がコロンと転がり、それを足で踏んでいた。


「これで10匹。そろそろ交代だ」


慎重な対応で討伐していた。

まあ……間違いじゃないんだけど。


「はい、じゃあ俺が代わるよ、デニス、マリア、バックアップはいつものように。適当に逃したモノと魔核は勝手にやってね」


手足を回し、屈伸しながら準備運動に入った。


「荷物はそのままですか?」


俺の重量級装備を見た兵士が言ってきた。


「これが最前線の普通なんだ、何かあったら直ぐに戻れる様に離れて着いて来てね」



丁度その頃に出て来たデカスライム。

ジャンプした瞬間にサクッと剣で膜を切る。

パシャッ!と液体が飛び散り魔核が残った。


その水分に指を少し付け、指同士で擦ってみる。


「普通の水分みたいなんだけどな、場所?食べ物?成長時間かな?大きさが違うのって」


円形トンネルの下点に水分が集まり、先の方へと流れていく。薄い膜は同じように直ぐに蒸発するように消えていた。

魔核を握り潰し、スクッと立つ。


これから少し乱雑に切って行くので、相棒の大鉈に切り替えた。



「行くぜ!」


 駆け足で走りだし、現れるスライムを一気に加速して斬る!魔核を蹴り飛ばし、更に奥へと走って行く。

 サソリを一気に下から切り上げ、頭から胴体を半分に切り、ついでに尻尾を切り落とす!


「んッ!」


 直ぐにそれは見つかった。

この分じゃあと数時間で此処にたどり着いていただろう、狭角に分かれている横穴が真上に向かって伸びていた!


「ええい!横にしろよ!」


ダッシュで通り過ぎ、ポケットから手りゅう弾を取り出しピンを抜いて思いっきり投げる!

直ぐに後に戻り耳に指を入れて塞いだ。


ガコーンと言う反響音と共に三角飛びの要領で上の穴に入った。


「前からの警戒だけお願い!」


バラバラになったクモの手か足の残骸を踏みながら先に進むが、これも50mも行かない内に行き止まりになっていた。


「行き止まりだ!」


滑り落ちるように本道へ出て来ると更に先へと進んで行った。


このトンネルダンジョンも高千穂と同じように木の先端から入ったかのように狭角の枝道が出来ていた。そしてそこには確実に大クモがいた。

こいつらが罠を張るように穴を開けたのか、初めから開いている穴を利用したのか?

俺らは銃も使わずにサクサクと先へと進んで行った。



「おッ!」


2時間も進んだ時だった。


そろそろ最下層だと思っていたら、デカいスライムが待っていた。

今までの60cmなどおと言う大きさでは無く、ゆうに俺の身長程、170cmはあるような大きさだった。


一瞬止まって観察したのが悪かった!


見られている感覚と同時にブルッと熔解液を出す予兆を見せた!



「GO BACK!!」(戻れ!)


幸いにも後ろはデニスとマリアの二人だった!

一瞬で戻り、俺もバックステップで瞬時に後退した!


その俺が居た場所に激しい噴射が飛んできた!


ブシュッ!


小さいスライムの溶解液は目じゃない程の量と勢いで液体が噴射され、地面がジュッ!っという音と共に煙が上がる!


「ふい~あぶねっ!」


「おいデカいな」

「奥にはこんなのがいるの?」


「そうかもな」


返事をしながら両刃の手斧を握り、シュッと投擲する。


パシャッ!と軽い音と共にデカスライムは破裂してペシャンコになる。


「栄養か、成長時間か……何らかの要因があると思うけど」


薄暗いが、念の為にリュックからLEDマグライトを取り出し先を照らす。

落ちていた手斧を拾い上げ、ゆっくりと先へと進むと、そこは多分平坦な最下層だった。


多分と言うのは、雨水が入口から細い線になって流れており、そのせいか水が溜まっていて地面が見えなかったからだった。


そしてそこにはスライムがわんさかと溜まっており、プカプカと浮いているモノから半分程沈んでいる特大のスライムまでがいた。



「スライム溜まりかよ」


「あいつらも水が欲しいんじゃないの?」


「かもね」



少し離れた所から暫く見ていた。


特に近づかないと攻撃もしてこず、マリアの言うように水を飲んでいるような気もする。

時間が経つ程に少しづつ大きくなっていたからだった。


小説やアニメなどでは何でも食べる、熔解して取り込み栄養にすると言う設定だが、こいつらは水を飲むのか?


じゃあ高千穂みたいに水が無いトンネルダンジョンでは?

あっ、初めて見た時は夜露に濡れた草の所にいたか!

で、あれば敵味方の識別と水を飲む事に特化している?

最低限の攻撃力とそれを護衛するサソリ?

侵入を阻止する大クモ?


何となく合致する気がする。



そして……



俺は持っていた手斧をぶん投げた!二本!三本!そして単独になったデカスライムに壁走りをしながら剣で切り割く!


ジャボンッ


「圭一!」


そして俺は溜まっていた水に膝下まで浸かった。


「大丈夫だよ。スライムは弾けたら無害だったから」


飛ばした溶解液も下手にある水に流れているが、ピリピリとした感じも無く、水で中和されているようだった。



俺は一つの考えた仮説を二人に話した。



「そう言う見方も出来るのかもな」

「私達は先頭に特化した考えを教え込まれているから」


素人臭いがまだ仮説だ。

ある程度の打撃には強く、水を吸い込むと大きくなる。

魔法なんかは無いこの現代で、スライム先頭に出す事の意味を証明するには、やっぱりこの穴の出口を見てみるしかないのか。



「こえーぞ、その笑みは」

「うん、魔王って感じね」


いつの間にか笑っていた。

しかし、魔王は失礼だな。


「普通の人間だって」


「魔王じゃ無かったら軍神ね、圭一の側から離れないから。貴方の行きつく先を見せて」



そんなモノがあったらな。


「取り敢えず引き返すか」


ジャバジャバと水溜まりを渡り、水筒の中を飲み干して溜まっている水を死闘の中へと入れた。


「一応、後で検査に出しておこう。戻ろうか」



少し先から冷気が漂っていた。


この先も高千穂と同じように冷えているんだろう。

それと雨水の処理や出入口の雨水が入ってこないような構造も頼まないとな。

デニスは写真やカメラの映像で周りを撮り、俺らと一緒に引き返して行く。


どうせ、アメリカには情報が全て行っているんだろうが、共同戦線を張っているんだ。

全て見せたらマズイ物など一切ない。


途中で向かっている日本の軍隊と出会ったが、情報を共有し、俺らは先に戻る事にした。

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