第30話 進化と疑惑
◆◆◆ 30話 進化と疑惑 ◆◆◆
11:10
何だかんだで時間を延ばす作戦が成功していた。
文句を言いながら肉……野菜炒めにがっつく金井。
良い所の肉は俺が味見をしたので取り敢えず俺もオールオッケー!
しかし、金井は腰溜めにした小銃を俺から離さなかった。
ゴミやフライパンなどを一緒にビニール袋に入れ、ついでにトートバックの中にコンロなどと一緒に入れ、段ボール箱の上にポイッとした。
「包丁を隠し持ってないでしょうね」
上に置いたバックをもう一度下ろし、中に入っている包丁を見せた。
「小銃相手に包丁で戦う程バカじゃないんでね」
「良いわ、上にあげておきなさい、ケント!」
「ココにいる。何か用か?」
「用かじゃないわよ!飛行機はどうしたの!車は?」
「東京からここまで何時間掛かると思ってるんだ?もう少し待て。昼頃には連絡が入るはずだ。車は軽トラでもいいか?それなら直ぐに用意が出来る」
「馬鹿にしないで、セダンかミニバンにしなさい」
「春の観光シーズンで車を確保するのが難しいんだ。車ももう少し待て」
「だから田舎って!」
「田舎田舎って、山口も宮崎も同じようなもんだろ」
「違うわよ!人口は山口の方が多くて人口密度も多いのよ!」
「宮崎市と山口市では宮崎の方が多いと思ったけど」
「いい?j人口密度は山口の方が高いの、こっちは広さだけ、つまり山だらけって事!それに新幹線も走ってないし、こっちの方が田舎確定よ!」
「車があるなら新幹線は要らないじゃん!」
「高速道路は殆ど片側一車線、路線も単線、高津穂なんかは熊本から行った方が近いと言う」
「山の中でクネクネ道じゃん、高速を飛ばした方が早いって」
「どっちにしろ田舎は嫌なの!」
「似たり寄ったり…………」
「何!」
「別に…………」
やっぱこいつヒステリーかよ。
少し可愛いくて、気になっていたけど、早く分かるべきだったわ。
相変わらず俺は床に胡坐をかいて座っており、金井は後ろで小銃を構えて段ボールに座っていた。
一晩眠っていないが、こいつも俺も興奮しているのか眠気はない。
俺は殺される恐れがあり、こいつも狙われているので当然と言えば当然なのだが。
そして動きがあったのは昼前の時だった。
腹も満たされウトウトしていた時、ケントさんが再び現れた。
「すべての用意が出来た。車は船の外に用意してある。どうすればいいか指示を出してくれ」
「やっとか。お前は武器は持ってないんだろうな」
「
俺と同じ海軍の迷彩服に布の帽子、そして分厚い防弾チョッキしかしていない。
その状態を軽く両手を上げてクルッと回って見せた。
「後ろに下がってろ!」
さっきまで無言だった金井が興奮しだした。
飛行機に乗ったら終わりだ。そこまでに決着をつける!弟はどうなったんだ?
後ろに下がるケントさんを見て金井は俺に先に歩く様に指示してきた。
俺は久しぶりに日の当たる外へと出て回りを見渡す。
細島港と言っていたが、此処は岸壁に停泊してあるコンテナ船の上だった。
色とりどりのコンテナが並び、積み上げられているのが見える。
「こっちだ」
ケントさんが先を案内する。
「ダメだ!ここを降りる!」
声を荒げる金井の居る後ろを見ると、小銃を背中に背負い、俺から奪ったグロックを構えていた。
金井が指さす所は、3m近い落差のある別のコンテナの天井だった。
「まあ、いいけど」
「交渉人はもう要らない。先に船を出ろ」
「分かった」
ケントは用意されtあ梯子を使って先へと消えていく。
それを見届けた金井は、銃で俺に先に降りろと指図した。
少しビビる高さだが、降りられない訳ではない。
着地する衝撃や筋力にも余裕があり過ぎて一切問題が無かった。5mとかの高さでも大丈夫な気がしてきた。
俺を少し離れさせ、次に金井が降りて来る。
あの作戦に参加した兵士の殆どがEランクにはなっているはずだ。
俺程ではないだろうが、この程度からの着地は問題ないだろう。
って言うか逆にこの位はジャンプ出来そうだった。
あの穴の中だけでしか全力を出していない為、外での力を確かめる事が無く、比較できる物が無いのはいざと言う時に困る。
俺は金井に言われた通りにコンテナを次々に降りていく。
多分どこからか狙われない様に道順を都合の良いように変えているんだろう。
時々周りを見るが、誰も居ないような気がする。
だけどどこかに絶対いるはずだ!
俺らは甲板の上に降り、警戒しながら通路を進み、港へと降りるタラップの所まできた。
「妙な動きをするなよ、本当に撃つからな」
後ろ襟を握られ、背中には硬いグロックが押し付けられていた。
皮膚のエボリューションは行っているが、鉄砲の弾は流石に弾く事は出来ないだろう。
って言うか、スライムなどにやられた事が無いので、何の効果があるのか一切分からん。
『銃弾を弾く事が出来るようになりました』
なんて分かりやすく言ってくれよ。
俺は妙に落ち着きながら前に押されながらタラップを降りる。
狙撃を嫌がってか、時々止まったり身を潜めたりしながら降りていく。
タラップ前に用意されていたダークレッドのミニバンに乗り込む。
当然、俺が運転手だった。
「免許持って来て無いんだけど」
「関係ない、直ぐに本国へ飛ぶから捕まらない。あっちでは良い思いをさせてやるから期待してろ」
久しぶりの運転。
慎重に手順を思い出しながらエンジンを掛ける。
ギアをドライブにしてパーキングを解除し、車は進みだした。
弟はどうなってるんだ?
デニスは?マリアは?
離れた所に待機していたパトカーが赤色灯を回し呼びかけて来た。
『空港まで誘導します、付いて来て下さい』
先へと進むパトカーの後を付いていく。
「これでいいのか?」
「取り敢えずはこのままだ」
久しぶりの運転。そして初めて走る見知らぬ土地にビビリながらもパトカーの後を付いていく。いつの間にか後ろにもパトカーが付いて来ていた。
車は渋滞や異変を避けるためか、日向市で高速へと乗り、護衛されながら南下していく。
『第四フェーズ、表皮組織の
ん?
表皮組織のエボリューションが最終のはずだ。
少し終わるのが早まって、代わりに何か追加された?
しかし、この融通の利かないアナウンスは、〇〇が終わったとしか言わず、何が始まったのかが一切分からない事だった。25時間後にエボリューションが終わるのは確かなので後1時間後に何かアナウンスがあるんだろう。
何事も無く車は進む。
特に渋滞も無く昼間の高速を進み、1時間も経つ頃には高速を降りて宮崎市内を空港まで走っていた。
おいおい、このまま俺を飛行機に乗せる気か!
パトカーは空港の脇から直接空港滑走路へと入って行った。
そこにはお金持ちが持っている様な中型機?ガルフストリームだっけ?ビジネスジェットとかチャーターするような飛行機が待っていた!
マジかよ!
俺は要らない子だと言うのか?!
「ふふっ、海兵も諦めたようだな。もう少しだ。もう少しで……」
独り言を言っているが、俺はそんな気は一切無かった。
これだけ離れれば、俊仁の所にあるだろう爆弾もスイッチが入らないだろう!
俺は覚悟を決めた!
タラップ前に車を停める。
パトカーはそのまま帰って行った。
「ゆっくり降りろ」
言われた通りに車を降りると、そこには思っていたよりも大きな飛行機があった。
「スゲーでけえ!」
腰に手を当てて飛行機を眺めた。
「タラップを上げるんだ!」
小銃を構えた金井が後ろから狙っていた。
考えの纏まって俺は、ゆっくりと階段を上がる…………ふりをして一気に駆け込む!
「スゲー高級!」
「ちょ!待て!」
機体を損傷される銃撃はないはずだ!
一気に内部へ駆け込み、横に逸れると左袖にかくしてあったナイフを持って反転!
掴んだドアを思いっきり握りしめ、身を屈めながら身体を外へと蹴りだした時だった!
『最終フェーズ、…………………………』
全てのエボリューション終了のアナウンスが聞こえる中、銃口が俺を狙って位置を合わせて来る!
狙いが定まる前に右に身体を反らしながら位置をずらす。
タタタタタ
スローモーションの様に見えるマズルフラッシュ!
飛び散る左腕の肉片!
小銃を支える左手を掻い潜り、下からナイフを跳ね上げる!
刃渡りも短い為、狙いは一つ!こいつの手首だけだった!
信じられない反射速度と腕の動きでトリガーを引き絞ったままの手首と腕が離れていく!
行け!!
後ろへと逃げようとしていた金井の腹に体勢を崩しながらも、思いっきり蹴りを入れる!
身体をくの字に曲げた状態で金井は横づけした車の横にぶち当たる!
弾を撃ち尽くした小銃は右手だけを残して俺の下に落ちていた。
その銃を握り前を見ると、脇から左手でグロックを出す金井の姿があった!
バ――――ン!
破裂する音と共に眼前で反撃しようとしていた金井の頭が弾けた!
まるでスイカを落としたように爆散し、脳漿を左に向かって飛び散らせ、原型の無くなった頭から血を噴き出しながらゆっくりと前に倒れていく。
終わった
全てが終わった
あのトンネルダンジョンの中で、その内人型の魔物が出てくるんじゃないかとは薄々思っていたが、直接手を下した訳では無いが、初めて人の死に向かう事に多少は衝撃を受けていた。
俺がやらなければ誰かがやったのだろうが、間接的に殺したのも同然だ。
「貴方のせいじゃないわ」
いつの間にか後ろにマリアが立っていた。
多分飛行機の中で待機していたんだろう。
そして離れて停車してある車の下から這い出てくる一人の兵士が見えた。
デニスだ!
俺に向かって手を振っていた。
俺も手を振り返すが、左腕を見るとマリアが腕の根本を救急セットの中から出した布で縛っていた。
「多分大丈夫だよ。痛みはもうないし……………ほら」
俺は袖を引きちぎり、撃たれた上腕を見せた。
そこには筋肉を貫通し、肉片が飛んだのを目撃しているが、飛んで無くなった肉の部分が盛り上がってきていた。
「え?! ええ!」
徐々に肉が盛り上がり、映画のSFXか逆再生でもするように傷が無くなっていく。
「新しいエボリューションだよ。あの寸前で聞こえたんだ 『最終フェーズ、再生細胞の
「そんな事……ないわ」
「ねえ、聞きたい事があるんだけど」
「何?」
「……………………………………」
俺はこのテロにあった事で、ある疑惑を持っていた。
俺はその事を話し、答えを待った。
「…………ごめんなさい、その通りよ。でもっ!――」
「もう良い!言い訳は聞きたくない!仕事はする。でも余り関わらないでくれ」
テロは終わったが、俺の心は沈んでいた。
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