第28話 圭一の独断 

◆◆◆ 28話 圭一の独断 ◆◆◆



『神経系統のエボリューション進化を終了。第三フェーズへと移行します。』


1:00過ぎに脳内アナウンスが聞こえ筋肉痛の様な痛みに切り替わった。




 動き出したのは午前4:30であった。



 圭一は、体力温存を行い、僅かな水のみを摂取し、その時が来るのを待っていた。

 多分この船舶は海外航路に出るはずだ、到着する前にどうにかしなければならない。そしてこのまま海兵隊が黙って渡航させる訳も無いと思っていた。

日本軍と違って目的の為なら合法・非合法の行動を取って来ると思っていたからだ。

法律・交通・携帯武器・殺傷能力のある刀剣・軍艦・飛行機の使用。そして市民の事も考えてはいるが、被害は出て当然と言う感覚に自分の裏山でなくて良かったと思いながらも、このように力強い味方もいないと思っていた。


軽く仮眠を行いその時を待った。

その時は意外に早くきた。




 いきなり超低空飛行で飛んで来たC-17輸送機が高度100mと言う信じられない高さで若干広い岸壁にパラシュート部隊総勢100名を降下させる!


ジェットエンジンの騒音で眠っていた船員、金井やその仲間、そして俺は一気に目が覚めた!


その騒音と同時に海に潜んでいたシールズの二人がアンカーピストルを発射!

パラシュート部隊が極低空での展開を行っている最中にその背後からの船への乗艦に成功する。


同時に展開された海兵隊がタラップを一気に制圧!

C-17輸送機から海兵隊が降りて10分後には兵士達は船内へと入っていた。



タタタン タタン タタタタタン


所々で銃声が響く!


同時に打ち返しているような音も聞こえだす。



『クリア!』『ゴー!』


船内では100名もの大人数の部隊が展開し、乗艦していた乗組員の殆どを20分と言う短時間で排除、若しくは無力化していった。


しかし、全てが上手く行った訳ではなかった。


肝心の金井の存在が確かめられず、もう一人の運転役であったと思われる男は、20式小銃を持って反撃していた為、射殺。そして探し回る事十数分。

開いた扉の中で、圭一の背後からグロックを押し当てる金井の存在を確認した。




◆◇◇



5:00


「下がれ!」


 弟を人質に取られていた俺は、何もする事が出来ず、金井さんに襟を掴まれ後頭部に銃を突きつけられていた。


 海兵隊は反撃する事が出来ず、長い40フィートコンテナの端で銃を構えてとどまらせる事しか出来なかった。


 海兵隊は、日本語が話せる兵士を交渉人ネゴシエーターとして対応させて来た。



「私はクラーク・ケント。交渉人ネゴシエーターとして此処に来た。何か望みはあるのか?」


帽子の下で着けている黒縁のメガネの奥で目が光っていた。



「何で海兵が此処に来てんだよ!」



興奮の為か、いつもの可愛らしい言葉の影は一切無かった。

それに俺がアメリカ海兵隊所属と言う事も忘れていたのか?



「我々海兵隊の一員であるケイイチ・タムラを守る為だ。ハワイにある第七艦隊指令より少将閣下からタムラエグゼクティブパートナ奪回命令が出た為だ」


「じゃあ北京まで飛べれる飛行機とパイロットを宮崎空港に用意してもらうか、それとそこまで行けれる車よ!」


「分かった!だが今はまだ日も明けていない!それに地方空港なので飛行機を準備するには時間が掛かる事を了解してくれ!」


「出来るだけ早くしないと……こうなるわよ!」


金井さんは俺の後ろで何かを動かす音がした。


カチッ



その瞬間地響きと共に凄まじい音が聞こえた!


ドガアアアアアアアアアン!



一船前に停泊していた貨物船から大爆発が起こり、火災が夜明け前の闇を明るくする!



「このコンテナ船にも幾つか爆薬が仕掛けられてるわよ。アラ捜ししないようにね、何かの拍子に爆発するわよ!」


「分かった!弟は無事なのか?」


「貴方達が探さなければね。序に海兵をこの船から下船させてもらおうかしら」


「分かった。これから準備する」



7:00


『筋肉・内臓組織のエボリューション進化を終了。第四フェーズへと移行します。』


筋肉痛の様な物が消え、皮膚がピリピリと痛みだすが、背後から狙われており何も出来ない状態だった。




 時間の経過と共に次第に余裕が出て来たのか、金井は落ち着きを取り戻していた。

最低限の人員を残し下船する海兵隊。要求の全てを交渉人ネゴシエーターの補佐が無線で仮本部を設置した日向警察署に送るが、状況は最悪であった。

立地条件が悪く、大型の車なども輸送するのに時間が掛かり、細かい物品なども空から下ろすしかなかった。

近くに駐屯地すら無く、ヘリなどの離発着もままならなかった為、少し離れた所にある大型商業施設の駐車場を本部として借りれたのは朝の8時前であった。


 日本陸軍の手助けもあり本部を設営した海兵隊は、陸軍車両を借り、物品などを細島港へと運び出す。



 そしてその頃には金井の親が共産党員であり、帰化した元中国系と言う事も発覚していた。

そこで報告を受けた日本外務省は中国大使を呼び出し、そこで待っていたアメリカ大使と共に糾弾する!



「あなたの国はもう一度戦争がしたいのか?」


「人質になっているのはアメリカ系二世であり、アメリカ海兵隊所属している。お前の国はもう一度アメリカと戦いたいようだな。あらゆる手を使っても良いと大統領命令が出ている。そして我々はその手段を持っている。お前の一言で国が焦土化すると思え!」



最早脅迫である


「私の知らない事であり、私の一存では決めかねる。本国に問い合わせをして連絡する事になる」



中国大使も慣れた物であった。のらりくらりと話を逸らし、時間を稼ぐ。


「昼までだ。12:00までに確かな返答が無ければ、再び極東に戦火が起こるだろう。横須賀、佐世保に寄港していた艦隊は既に作戦行動を行っており、グアム、ハワイからはいつでもステルス機が離陸できるのだぞ。那覇は言わんでも分かるよな」


「そう一気に言われてもですね。本国に問い合わせしなければ返答が出来ないですからね」


「日本としてもこのテロ行為は断じて許す事は出来ない。既に家族は身柄を拘束してあり、既に異生物関連以外で軍も動いている。いつまでも何か無いと撃てないと思わないで欲しい」



その話を中国大使は持って帰る事になった。




8:30


「朝飯が届いた。中に入ってもいいか?」


交渉人のケントが手に買い物袋をぶら下げ片手を上げて声を掛けて来た。


コンテナ内は偽装の為の段ボール箱が山積みになっており、その中央だけ通路として通れるようになっていた。その間から袋を見せていた。


胡坐をかいて座っている俺の後ろで段ボール箱に腰掛けた金井さんが声を上げる。


「妙な事をするとこいつを撃つぞ」


「分かっている。武器は持っていない。私一人で入る」



ゆっくりと狭い通路となっている間を進んでくるケント。12m程ある40フィートコンテナの半分を過ぎた頃、金井が言った。



「止まれ!その横の箱の上に置いて戻れ」


「分かった。此処だな」


ケントは横に積み上げられていた箱の上に置くと戻って行った。


「圭一、取ってこい」


「自分で行けば?」


「は?」


まさか、金井も反論されると思って無かったのだろう、自然に聞き返していた。


「俺はお前の奴隷でも部下でもない。信じていたんだけどな。俺って女を見る目がないのか?それとも運がないのかな?」


胡坐をかいたままで腕を組み考える。



「黙って取って来ればいいんだよ!」


「キーキーうるせえな。腹が減ったんなら自分で取りに行けば良い。俺は腹が減って我慢出来ない程じゃねえ。それにな、こういう時って弁当の中に毒とか睡眠薬を入れてるもんだぜ。毒は解毒剤で大丈夫だし、二人で寝れば一網打尽ってな」


弁当を持って来たケントと言うおっさんに向かってニヤッと返した。

だが、ケントはポーカーフェイスを崩さず、何を考えているのか分からなかった。



金井も睡眠薬が入っている可能性も考えてはいた。

だが、金井は昨日の昼前から何も食べておらず、実際の所、低血糖を起こしそうになっていた。

緊張と疲れが続いており、気が抜けない事から少しでもエネルギーを入れたい所だった。

なので、初めに圭一に食べさせ、大丈夫な所で自分も食べようと思っていた。



「おい!本当か!?」


金井はケントに呼びかけた。


「大事な同僚が居るんだ、そんな事をする訳ないだろ」


「ウソだね!遅効性の睡眠薬なら1時間後とかに効く薬だってあるはず!(知らんけど)」



「そんな物を入れたら味で分かるだろ」


「騙されるな。お前の持って来た睡眠薬は味が変わらなかったぞ。弁当じゃ無ければ、一緒に入っているお茶に同じ睡眠薬が入っているはずだ!(知らんけど)」


「クソッ!それほど言うならお前が食べてみろ!」


「毒見ですか?はい俺に死ねと言うんですね。死にますよ、死ねばいいんでしょ」


俺は文句を言いながら立ち上がって袋を取り、中から有名弁当チェーン店のかつ丼の蓋を開けた!



「ぬおお!これは嗅いだことの無い異様な臭いだ!毒かもしれない!今から死にまーす!」



俺はムッチャ腹の減っている胃袋にまだ暖かいカツどんを掻きこんだ!

はらわたに染みわたるカツと卵の味、玉ねぎの甘味も最高でタレが付いた御飯も掻きこんだ!


「んッ ぐッ! ぬおおお!」


喉を押えて苦しむ!



「どうした!?やっぱり変なのか!」


ペットボトルのお茶を開け、一気に350ccのお茶で飲み込んだ!



「フー喉に詰まって本当に死ぬ所だったわ。じゃあ次の毒見をするな」


蓋を開けた所で金井が喉をゴクリと鳴らすのが聞こえた。

やっぱりこいつも腹減ってるんじゃん!

じゃあ今度は…………



俺はお茶の蓋を開けて一気に全部の茶をカツ丼にぶっかけた!



「ああ!何てことお!!」


文句を言う金井を無視してヒタヒタのビッシャビシャになった物を見せた。


「冷汁みたいだろ。まあ、アレは県央から南の食べ物なんで、県北は食う習慣すらないんだけどな。ほら、サラサラっと食っちまえ。」


「こんなもん食えるか!」


「なら毒見するわ」


グズグズになったカツを飲み込みヤワヤワになった冷ご飯をズルズルと掻きこむ


「ああマズイ!何だコレは!ヤワヤワのカツに水で溶いた卵!中途半端に冷たいお茶の味しかしないご飯!こんな物冷や汁じゃねえ!」


「お前がやったんだろ!」



後ろから怒鳴られた。


そんな様子をケントは冷静に見ていた。

こいつにお金と時間と大事な海兵隊の命を懸ける必要があるのかと。

腹いっぱいにさせて眠くさせようと思っていた作戦を全て台無しにされてしまっていた。



「毒や睡眠薬が気になるなら朝マッピしようぜ。朝マッピ!出来合いのバーガーなら大丈夫だって!なあココって何処だ?」


「細島だが、出られる訳がないだろ!」


「いや、ロッチリアもあったか?クソ!田舎から余り出て無かったのが裏目に出たか!この際コンビニでもいいか!」


「だから出られんって言ってるだろ!」


「くそッ食べたかったのに。じゃあコンロとフライパンで肉を焼けばいいだろ。此処でバーベキューすればいいじゃん!ケントさん!お肉と玉ねぎ人参!持って来てー!キャンプ用のコンロと鉄板か網もね!」




現場は更に荒らされていく…………

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