第27話 コンテナ船

◆◆◆ 27話 コンテナ船 ◆◆◆



19:50

日向細島港


 県北の海路を担う物流の中心地。豪華客船からコンテナ船までがベイ毎に分かれて夜も仕事をしている人が大勢いた。


そのコンテナ船に岸壁裏からゆっくりと近づく一艘の船がいた。


5m程度の船の船首で釣竿を垂らし釣りを行っている様子の男。そして船尾には大きなエンジンカバーを付けて二基のエンジンを隠し無音で周りを見るもう一人の人間がいた。


何も無ければその船は単に魚釣りを楽しんでいる小型の船なのだろうが、此処はそう言う私用の船の侵入を禁止されている所。

そしてその和船は全て真っ黒に塗られた異様な船だった。


エンジンが掛かっていないにも関わらず、その船はゆっくりと進んでいた。

それは船尾に座っている人が二基のエンジンの間からモーター駆動のスクリューを海中に突っ込み、音を立てずに侵入していた。



時々ヘリコプターや飛行機のジェットエンジンが聞こえるのを警戒しているのか、二人は目立たないように注意を払いながら一つの大きなコンテナ船の横へと辿り着いた。



「着いたわ」


頭から黒いパーカーのフードを被った人が電話を掛けていた。

それは自衛隊員の金井だった。


直ぐに船の横から移動式のホイストが出て来た。

そこからワイヤーを垂らすと、船にいた金井ともう一人の男は死体を入れるような黒い袋に結び付け、上に合図を送った。

ウインチの音と共に静かに上がって行く袋。

そして上がるのを見届けながら二人は工具箱を取り出し船尾で何か作業を行いだす。


ドボオン ドボオオン


船尾に付けられていた二基のエンジンを取り外し、そのまま海へと投棄する。

投棄し終わると電話で合図を送るが、今度は大きなフレコンバックと呼ばれる袋が下ろされてきた。


「オーライオーライオーライオーライ……ストップ」



大きな石が入ったフレコンバックが船の後方ギリギリに停止した。

その袋と船尾の金具にワイヤーを通し、上から下がっているワイヤーに自分達の身体に付けられたハーネスとをフックで繋げる。



「上げて」


合図を送ると徐々に上がって行く二人、ワイヤーとフレコンバックを繋いでいるロープに、圭一が持っていた両刃の斧を叩き着けた!


バツンッ!


太いロープが切断され、重さ1トンはあろうかと言うフレコンバックが船尾に落ちる!

船尾から海中へと落ちるフレコンバックに連結されてある和船は、船首を持ち上げフレコンバックと一緒に海中へと沈んでいく。


証拠隠滅だ。


船は臨検がある事は予想されている。だが、この船に乗った事が分からなければ、コンテナ船から目的の人間を発見するのは困難である。


後はもう数回睡眠薬を飲ませ、大人しい状態で外洋へと出て行くだけだった。




◆◆◇



 波の音と少しざわつく感じの場所へと着いた。拉致されて2時間が経とうとしていた。


殺される事が無いと言う事が分かってからは、ひたすら我慢だった。

どこかにチャンスが無いかと狙っていた。

だがこの俊仁がいつまでも気持ち良く寝ている事で、幾つかのチャンスを逃していた。


ちゃぷちゃぷと聞こえる防波堤の様な所に着き、暫くすると何かに引っかけられて吊り上げられていく。

小さい船から高い所へと上げられると言う事は、大型船か?!


台車の様な物に乗せられどこかへと運ばれる。

最後は人間の手で何処かの中へと運ばれ、硬い床に置かれた。



だが、此処に運ばれたのは俺だけだった。

そしてその時、初めて俺に対して声を掛けて来た。



「目が覚めてるんだろ。出てこいよ」


「…………」


「そろそろ薬が切れる頃なのは分かっているんだ、演技はいい」



「……バレてるのか、ぬッ、うッうおおおりゃああ」


ケブラーだかなんだか分からないが、少し硬い繊維質の袋を思いっきり大袈裟にして破り出てくる。



「うっ」


真っ暗闇の中でライトを当てられ全く見えない。


「予想通りに起きたな」


そう言う男に俺は手の平で光を遮りながら言い返す。


「薬を使ったな。どこの誰だ」


「答える訳ないだろ。大人しくしろよ、暴れると弟の命が無くなるぜ」


「弟もか!卑怯な奴が!」


分かってはいるんだが、俺はさっき目が覚めたと言う設定だ。何も言える訳ない」


「弟は大丈夫なんだろうな」


「ああ、別の所に監禁してある」


そう答える男から回りに目を向けてみた。

周りは非常に狭く、横幅は2.5m、高さ3m弱、長さは僅か1m程度しかない狭い場所で、どの壁もカクカクと波打った鉄板で囲まれている。

コンテナか?


コンテナ内の一番奥にもう一枚の壁を張り、巧妙に隠したドアで監禁している感じだった。



「で、俺はどうすれば弟を解放してくれるんだ?」


どうせ解放はしないんだろうが、聞くだけ聞いてみる。


「取り敢えず大人しくしとくんだな。細かい事は行先で話し合おう。お前にとっても悪く無い話だ。給料は出るし、専用の家、メイド、食事を作るコックに高級車や綺麗な女も付けられる。俺からしてみれば破格の対応だぜ」


「…………日本じゃないんだよな」


「さあな。取り敢えず大人しくしとけよ。四方は監視カメラがあるし、水や食事は持って来る何かあったら弟の命は無いと思え」


「……分かった」


男は手に持っていた水のペットボトルを投げて寄こすと、開き戸を閉めて出て行くと、鍵の様な物を閉める音がして歩いて行った。更に遠くから鍵を締める音が聞こえる。


「えらい長いコンテナだな」


取り敢えず貰った水を一口飲み、四隅がどうなっているか手探りで確かめていく。

空気が通る隙間はあるが、溶接にて固定してあるのか、軽く押しただけじゃビクともしなかった。


現在20:20

時計を奪われなくて良かったと思いながら床に張ってある分厚いゴムマットに腰を下ろした。




◆◇◇



 その時、既に海軍は動いていた。

金井の運が悪かったのは、陸軍には高千穂町の住民に避難誘導を行い、大部隊に依る殲滅作戦を決行するとだけしか教えられていなかった事だった。

実戦を積んだ米海軍や追加のネイビーシールズが動いているなどと分かる訳もないのだ。


 熊本駐屯地を出て独自に動いていた戦闘ヘリのコブラが、暗視カメラを利用して有料道路を突破した頃から追尾を行っていた。

サーモカメラで人間が船に移動され、太平洋に出ると見せかけ、沖にてUターン。細島港に戻って来た。

沖には囮の漁船を出し、完全に出し抜いたと思わせ、日向灘沖には退役間近の通称DDHと呼ばれていたヘリコプター搭載空母ひゅうがから発艦したUH-60JⅡブラックホークが赤外線暗視装置で高高度監視を続けていた。


 その情報は艦載艦であるひゅうがに随時送られており、主導権を握っていた米海軍へそのまま映像を送られていた。

 佐世保を発艦したアメリカ海軍のMH-60Sシーホーク・ヘリコプターは、圭一奪回作戦の為に一度高千穂へ降り、デニスとマリアを乗せて一路細島港へと飛んだ。

機内で水中用の装備に着替えた二人は、細島港沖で低空飛行を行った隙に二人は着水!

水中戦闘・潜入を得意としたシールズ特有の作戦にて水中モーターを使い沖からコンテナ船まで近寄っていた。


 更に那覇を発信したC-17輸送機は、アメリカ海兵隊を100名ずつ乗せ、一機は熊本空港に緊急着陸。もう一機は、空中給油を行いながら大きく旋回し、その出番を待っていた。


 この二人に対する作戦行動の大きさが、いかに重要人物かを知らせるのに十分以上の行動を表していた。




◆◇◇



 その作戦行動の最中、午前0時を過ぎる頃に漸く俊仁が漸く目を覚ました。


「おぅッ!え! 何! あ゛! なんじゃこりゃ!」


袋に詰められていた俊仁は、自分の状態にビックリし、中で暴れて引きちぎるように乱暴に出て来た!



「動くな!」


上半身が出てくるなり、小銃を向けられ反射的に止まる俊仁。



「へ?」


「動くと撃つ」



 小銃を構えているのは陸軍の金井だった。

もし、乱闘になっても情報に依れば同じEランク。力では負けるかもしれないが、テクニックでは一日の長がある為に負ける気がしなかった。


それに圭一を同じ狭いコンテナ内で銃は撃てるはずも無かった。

跳弾で自分に返って来る可能性も高く、小銃を向けているのは単純に威嚇の為だけであった。

だが、そんな事に詳しくも無い高校二年生の俊仁には分かるはずもなかった。


両手を上げて降参する俊仁に金井は圭一と同じ事を説明する。

それにこの船には同じEランクの人間も大勢いる事を張ったりで言うと、直ぐに大人しくなった。


コンビニで買った弁当と水、そしてトイレ用のオムツ一式を渡し、ドアを閉められる。

金井と同じEランクでは、どう足掻いても出られる事の無いコンテナに閉じ込め、完全に頭から問題が一つ無くなった。


 圭一と真反対側のコンテナに閉じ込められた俊仁は、取り敢えず溜まっていたオシッコをオムツに出し、夕飯もまだだった為、バクバクと真っ暗闇の中で弁当を食べ、無くなったと見るや渡された水を一気に飲み干す!

そして睡眠薬の入った水のお陰で再び熟睡タイムへ入るのであった…………

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