第26話 海へ

◆◆◆ 26話 海へ ◆◆◆



18:30


「静かに、急いで」


金井麗は覆面パトカー風の車から大きな袋に入れられたモノを運転手と二人で別の車へと移していた。


「本当に起きないんですか?!」


「ゾウが一日眠る睡眠薬よ、進化しているEランクでも半日は確認済よ!」



 金井は本国で行った睡眠薬の結果を知っていた。

Bランクに圭一が上がった事は全世界アナウンスが流れた事で分かっていた。

Eランクの3段階上であるが、FランクからEランクでの薬の差異は2倍も変わらなかった。

最大2倍と考えてもBランクまで6倍。それでも2時間は持つと考えていた。


 金井の親は在日中国人であったが、その親は日本に帰化していた。

もちろん子供の麗も。

だが、普段の生活を送りながら日本に無数にいる仲間に情報を渡していたのだった。




 第二次世界大戦が終わり、朝鮮戦争、台湾戦争から第三次大戦へと続いた各国の愚策が落ち着き、やっと平和が訪れようとしていた矢先の事だった。


 国々の中で暗躍する諜報員が動いているのは何処の国でも同じであったが、この敵対生物の出現にて一気に加速する。


 奇しくも全世界へと発信されるランク最上位の圭一は、最重要人物になる事は国々の防衛関係に取って分かり切った事だった。

 それを味方だと思っていた陸軍兵士が出し抜き、弟と共に誘拐するとは日本国内のトップの一部しか思っていなかった。



 台湾有事から始まった第三次大戦は、地対艦ミサイルの打ち合いから地対地のミサイルへと発展。制空権を掛けた戦闘を繰り広げた各国は、空母打撃軍を東シナ海へ展開。日本も後方支援を行うが、それを嫌った中国は日本の海上自衛隊への対艦ミサイル攻撃を慣行!

海上自衛隊のフリゲート艦は大破!

走行不能になった艦を投棄し、日本の反撃が始まる切っ掛けになった。

 いずも型空母を主力とした自衛艦は、強力な制空権を持って日本海から南シナ海までを制圧。

そうりゅう型潜水艦が太平洋への海路を遮断し、アメリカ打撃軍がトマホーク型ミサイルで各港を破壊。

弱った中国へインドが侵攻し、遅れてロシアが北方領土から北海道へ突然侵攻する!

だが、旧式の航空隊では一部の都市がやられただけでオホーツク海まで展開された海上自衛隊を突破する事は出来ず、断続的に戦闘機とミサイルを飛ばすだけであった。


 国連からの戦闘停止勧告を無視した中国は、英・仏・連合国から睨まれ、完全に海路を取り戻せる事なく国家主席は和解案を提出。

インドと戦争中の中、小競り合いを続けながら遂には逃げた都市の地下で爆撃を受けて死亡。

反政府軍が新しい国家を立ち上げる事で戦争は終結した。



 今回は、それから数十年後の事であった。


 沖縄、九州、そして北海道と打撃を受けた日本は、専守防衛を継続した日本陸・海・空の軍隊を復活。

その兵士達の中に旧共産党の息が掛かった帰化した人達も隠れ潜んでいた。


 漸く復興を遂げた中華共和国は国力を国連に押さえられ、活路を見いだせないまま、今度は敵対生物の対応が遅れていた中国は、有数の討伐者である田村兄弟を掲示板で発見。

ひっそりと母国へと連れて帰り、奴隷のように働かせるつもりであった。



 だが、進化した討伐者の研究が進んでいない中国は討伐者である圭一に目を付け、金井を側で監視させえるように手配。町中が混乱する中、強硬策に出た。


しかし、遺体袋の様な物に入れられた圭一は、代わりのミニバンに乗せられている際に意識を取り戻した。




 ここは何処だ?

 俺は何をしていた?



袋の中で目を覚ました圭一は、外の声を注視した。



「弟の方が重たいから」


「クソッ、身体だけデカく成りやがって!」


「口を動かさずに手を動かしなさい。直ぐに手配が回るわよ!」


後部座席をフラットにした所へ乗せられ、上には数枚の布団を被せられて偽装された。


今まで乗っていた偽パトカーは放棄され、別のミニバンに乗った四名は直ぐに九州横断道を東へと進んで行く。



 俺は布団の下でゆっくりと手を伸ばし、俊仁の手を触るが、暖かいだけで動きは見られなかった。

どうやら話を聞いていると隣に居るのは俊仁らしいが、薬のせいか動きが見られなかった。


蓄光式の腕時計を付けた腕をゆっくりと動かし見ると、18:35になろうとしていた。


俺だけ動いて逃げる事は出来るが、その場合俊仁を残す事になる。

それはマズイ。

犯人は声と意識を失う前から考えると金井さんに間違いないんだろうが、俺らをどうするのか?


良い案も浮かばずに時々俊仁の身体をツンツン突くのみだった。



 車は減速する事も無く進み続ける。

多分横断道を走っているはずだ。

すると40分も走ると海辺の町に出るはずだ。



それから30分が経とうとしている時だった。


『骨格のエボリューション進化を終了。第二フェーズへと移行します。』



 いつものアナウンスが終わり、案の定車は減速しだし、のろのろの渋滞に嵌っているのが分かった。



「こんな渋滞はある訳ないわ!」


「通報されたか?!スゲー渋滞だぞ!」


まずいわ、まずいわと言っているのが分かった。



これは検問か?!

デニスかマリアが探しているに違いない!

早く目を覚ませと俊仁の身体を袋越しにツンツンしていた。



 そしてその時はそれから30分後にやって来た!



「申し訳ありません。検問中なので免許証の提示をお願いします!」


「はいはい、何があったんですかね?これから避難する所なんですが」


「いや、未成年者を拉致したとの情報がありましてね。横に座っている方はどちら様ですか?」


「ああ、妹です。今高千穂に勤務してまして、こちn知り合いの所に避難しようかと思ってた所なんですわ!もう行っても良いですか?」


「隣の方も身分証明があればお願いしますね」


その直後、もう一人誰かいたのか、コンコンとドアを叩く音が聞こえてきた。



「さっきまで仕事だったんだけど。これで良い?」


迷彩服を着替え、免許証も偽造なんだろう。何も触れる事無く返してもらったのかと思った時、警官らしき声が後ろを見せて下さいと言い出した。



「生活する布団とかしか入ってないですよ?急いでるんですが」


「すみませんね~これも仕事なもんで……宜しいですか?」


「……見れば?」



若干の間の後に女が言った!


起きない俊仁を抱えて飛び出るか?!

このチャンスを逃したくない!


しかし俺の予想を裏切り、車は急発進した!



エンジン音の高まりと検問をしている警官の警笛がなり、一瞬遅れてパトカーのサイレンが鳴り始めた!



ウゥ――――




「私よ!見つかったわ!このまま降りて国道へと出るわよ!うん!予定通りね!」


女はどこかへ電話を掛けているのか、誰かと話をしていた。

そしてサイレンの音が近づいた瞬間!



タタタタタタタタッ!


キ――― ドンッ


小銃の射撃音と車がぶつかる音が聞こえた!



こいつ撃ちやがった



車は市内へと入ったのか、スピードは落ちたが止まる事は無く、信号を無視し始めていた。そしてクラクションと時たま車同士が擦れる音、そして銃声。

暫くすると離れた所でサイレンの音が聞こえていたはずだが、急に聞こえなくなった!



「予定通りね。トラックで道を塞ぐなんて、何人この町にサポートが来ているのかしら」



邪魔が入ったのか?

車は急に大人しい運転に変わり、信号などでも止まりだしていた。


そして町や車の喧噪が遠ざかって行く。



 未だに俊仁は目を覚まさず、俺も身の回りを確かめるが、銃や剣どころか、マガジンなども全て無くなっていた。


静かな場所で停車する車。

助手席から外へと出て行く金井さん。

次に運転をしていた男も下り、俺らが転がされている後ろのバックドアを開けた。


「急げ!発見される!」


知らない声が聞こえ、運転手と二人で袋を持ってどこかへと運ばれていく。

そこは水の音がしており、河川敷などおに係留されてある船なのだと思った。


明りも無く、船に当たる並みの音しか聞こえない。

狭い船……漁船なのだろう。弟と並べられて置くしかない狭さの和船のようだ。



エンジンが掛かった!


「後は頼む!」


男の声が聞こえると、船はエンジン音を高めて走りだした。

暫くするとエンジンを全開にしたのか、猛烈な速度で走りだす。


俺はチャンスは必ず来ると思い静かに息を潜めて様子を窺っていた。


だが、その船は二基のエンジンを全開にし、河口から太平洋へ出ると、漆黒の大海原へと飲み込まれるように消えて行った。

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