第21話 高千穂突入前

◆◆◆ 21話 高千穂突入前 ◆◆◆



「ああ平和だ。平和が一番だわ」



 俺は実家に戻って来て本業である農家に戻った。

可愛い馬を見ながら馬小屋の敷き藁を交換し、牛に飼料ををあげ、畑に道の駅で販売する野菜の種を蒔いていく。



 近くの鉄工所で作ってもらった厚さ1cmの鉄板から作った大鉈を振るい雑草を切る。

多少重くなったが感覚的には1kgの無骨な物になった。

グリップは鉄板を溶接し、握り易く加工。刃の部分はグラインダーで削っただけで、切ると言うよりも早さと重量で押し切ると言った方が良い代物。

念の為に両手で握れるようにしてみた。


どこのオニだと親父や俊仁に笑われたが、こっちは本気で困っていたので、このまま使ってやる!

カッコイイ名前も付けた。

ジャック・ザ・リッパ―からジャックと名付けた。


俊仁からは立派じゃないからリッパ―の方が良いと言われたが無視だ。



 ひょいひょいと勝手知ったる山を登り、久しぶりに裏山ダンジョンへとやって来た。



「こんちわっ、お疲れ様です」



「おおっ戻ってきたかっ!」


変わらない西田さんが待機していた。


「圭一さん!」



そして紅一点の金井さん。

中肉中背で、迷彩服を着ていても分かるスタイルの良さ。ヘアゴムで結んだ髪が、後ろでピコッと出ている所なんかは馬の尻尾みたいで可愛い。


笑顔で立ち上がる金井さんに手を振る。


「漸く帰って来れました」


「待ってましたよ!お疲れ様でした!」



ある程度は俺が何をしてきたかなど、情報が入っているんだろう。

だが、こうして迎えてくれると凄く嬉しい。

自分の家ながらも事務的じゃない声は、幾らでも聞きたかった。



「こっちは何も無かったですか?」


「ああ、静かなもんさ。あっちは大変だったと聞いているが、どうだったんだ?」



どこまで話して良いやら。


海兵隊に入隊する際に守秘義務の話はあった。

仕事に関する一切の事を家族にも言うなと言うモノだった。


「ちょっと俺からは……」


「まあ、そうだよな。怪我をした隊員はいたのか?」


「アメリカは……いませんでしたが、日本は数人いたと聞いてます。アメリカは数人程度でしたから……日本は1000人近くもいたので…………」


「そうか……聞きづらい事を済まなかった」


「その内、此処も忙しくなりますから。覚悟していて下さい」


「ああ、その時は頼むぜ」



 先の作戦が終わった際に予定として話があった。

大きなトンネルでは出て来る敵対生物も多い。なので、先への探索は小さい穴、すなわち高千穂から始めるかもしれないと。


 既にシールズの大半は沖縄からハワイ、そして本土へと渡っているらしい。残ったデニスとマリアを含めた俺の三人が先陣を切り、バックアップとエボリューションを日本軍が担うと考えていた。



この狭い山中で何処まで出来るか分からないけどな。




そしてその時は直ぐにやって来た。


実家に帰った3日後、電話が掛かって来た。



「ハーイ!貴方に襲われそうになったマリアよ!」


「まだ言うか」


「襲われそうになった俺もいるぞ!」


「デニスは黙っていて下さい!」



相変わらず陽気な奴らだ。


「もう直ぐ高千穂に着くから、簡易基地に来てくれ」


「了解!」



簡易基地…………学校の事だよな。


俺は海兵隊の迷彩服に着替え、一言親父に伝えてフル装備で走った。

自転車で30分程度だが、今では走れば半分の時間で着ける。


走っていると学校にオスプレイが降下しているのが見えた。


そして学校に着くとまだローターが回っている。

それに作戦の準備なのか、グラウンドの中には陸軍のトラックなどが所狭しと集まっていた。



「よお、待ってたぜ」


オスプレイに近寄ると、デニスが寄って来て俺にハーネスを手渡す。

それを俺は両腕に通し、身体の前でロックする。

次に出て来た拳銃をホルスターに収め、飛び出さないようにベルトで締める。


「グロックG18Cだ。弾は小さいがフルオートで出る。弾幕代わりだな、過信するなよ」


何度か使った銃をホルスター越しに確認した。

俺はこの瞬間アメリカ海兵隊に変わる。




「だがな~その変な剣はなんだ?鉄の板じゃねえか!」


デニスは俺の腰にくくり付けられた皮の鞘を見ていた。

鞘から見えている部分だけでも何でもない鉄板を削り、板を張り合わせて作ったグリップがあるだけ。日本刀の様な鍔も無く、良い意味で無骨。悪く言えば鉄を削っただけの板だ。



「バランスは悪く無いんだぜ。みね打ちも出来るし」


鞘から抜いて剣を渡すと、グリップを握り軽く振ってみるデニス。


「バランスの問題じゃねえ、クソ思いじゃねえか!」


丈夫さを追求して分厚く作った剣はやっぱり重たかったか。デカいデニスでも振るのがやっとだった。


そうでも無いだろと、俺も振って見せるが音の出方からして違った。


「クソッシールズにでも入れやがれ!」


「基準年齢に達してないって言ってただろ。Cランクを舐めるな」



俺は刃物を鞘に納める。すると同時にオスプレイから出て来たマリアが俺を発見し、そのまま走って来た!


「圭一!」


そのままタックルっされるかと思うダッシュを見せて来たが、最後はモモンガのように両手両足を広げて飛び込んで来た!


「うっ!」


身長は俺の方が高いが、骨格や肉付きが……

倒れるかと思ったが、ランクも上がったせいか楽に受け止める事が出来た。

しかし、顔に当てられた低反発のクッションが……





 何で俺、こんなにモテるようになったんだろうか……

そりゃ高校の時は気になる女子もおらず、後輩からは怖がられていたが、若い女性が町にいない訳ではなかった。


それが、こんな事になってからと言うもの、マリアに金井さんも俺に好意を持っているとしか思えない。


力を持ったからか……それとも…………




「お土産があるのよ!ほらっこれ!」


 抱き着き攻撃から解放された俺は、機内に連れて行かれ、その先にあったケースの中を開けて見せられる。

そこには黒く塗られた金属の武器が置かれてあった。


 グリップは滑らないように柄尻は少し太く、グリップが波打っており、そこから40cm近く太い棒が伸び、その両側には20cm強の半円形の刃がキラリと光っている。それが反対側にも同じ刃が付いていた。

両刃の斧。

それも一本モノの鉄で作られており、圧さも十二分にある為に壊れる心配は少なそうだった。

それが二本入っていた。


「これは……」


「前に制作依頼をしていた両刃のトマホークよ。重量は重くなったけど、切って良し、投げても良いわ」


鋭利な刃のみが光る不気味さが、確かな攻撃力を持つ武器と言う事を表していた。



それを手に取り軽く振ってみると、確かに少し重めだが、斧自体がその重量で切る物なので問題無い。

壊れない事や安定性の方を重視したいとの希望通りだった。



「うん。良い感じ」


「その手作りの剣に鉈、強化された銃にこれから強化された小銃に刃物も来るんだけど、それなりに重くなるわよ。大丈夫?」


形状に合わせた分厚い皮のシースに入れ腰に巻くと、横よりも少しお尻側にぶら下がる形になった。

重量が増した為に動きは少し鈍くなった気もするが、進化前に比べると早いのは悪実だ。


「問題無いよ。エボリューションの効果の方が高い。だけど、靴が滑る気がするから氷上で使うスパイクみたいなのがあれば欲しいんだけど」


「確か中にあったわよ」


シールズの備品が沢山ある機体から、靴裏後付け出来る鋲が付いているベルトを貰った。


「分かってると思うけど場所に依っては音がなるからね」


「オッケー!」


一度装着してみて問題無い事を確認し、背中のリュックへと放り込む。



「一人前のシールズみたいになったな。これで狙撃とスイムが平均以上なら即戦力だよ」


近寄って来たデニスから言われる。

まだ給料も貰ってないので、簡単に言うなよ。上げたモノに対してもらうモノが少ないと、ヤル気が無くなる。


ネイビーシールズって危険手当が貰えますか?



 そして俺らは明日からの内部探索に向けて、日米合同でブリーフィングが行われた。

内部探索と兵士のエボリューションを主とし、このダンジョントンネルの構造を調べていく。

富士もだが、余り奥には入っていない為に構造や出口を調べていく事が重要だ。


 最大戦力として俺が先陣を切るのは決定事項なのだが、落ち着いてからは先頭を交代しながら進んで行く。


 武器は日本軍は拳銃に少し肉厚のショートソード。

シールズが小銃に俺が使っていた剣の改良品だ。

フル装備の重武装は俺のみ。後方には搬送や代わりの剣や銃弾、そして食事などのサポート部隊で決定した。



そして日本軍の強力を得た俺らは、明日の早朝より突入する事が決まった。

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